波音のティータイム ―呉、江田島の丘の上で
激しい空襲の音、燃える海。しかし、ふと気がつくと、周囲は静寂に包まれています。空はどこまでも青く、遠くから「榛名、いつまで寝ているの?」という懐かしい声が聞こえます。
目を開けると、そこには沈んだはずの長女・金剛、三等船室のベッドで語り合った比叡、そして夜の海に消えた霧島が、戦時中のボロボロの姿ではなく、就役当時のように美しく整備された姿で立っていました。
彼女たちはもう戦艦としての使命を終え、人間に姿を変えて、呉の街で穏やかに暮らしています。
金剛は、イギリス仕込みの本場の紅茶を出すティーショップを経営。いつも明るく、妹たちをティーパーティーに招待します。
比叡は、その生真面目さを活かして、地域の礼儀作法を教えたり、子供たちの世話をしたりしています。たまに料理で失敗して霧島に突っ込まれます。
霧島は、知的な頭脳を活かして、地元の造船所で設計の仕事を手伝っています。「これからは壊すための鉄じゃなく、作るための鉄の時代よ」と笑います。
榛名は、呉の丘の上にある古い洋館で、三人の姉たちを見守りながら、花の手入れをして過ごしています。
ある日、四人は江田島の見える丘に集まります。
榛名は、自分が最後まで呉に残り、ボロボロになりながらも耐えた日々を思い出します。しかし、目の前で笑い合う姉たちを見て、気づくのです。
「私が最後まで諦めなかったのは、いつかみんなが帰ってくるこの海を、守りたかったからなんだ」
金剛が、優しく榛名の肩を抱きます。
「ハルナ、長い間一人で頑張らせてゴメンネ。デモ、もう大丈夫。私たちはもう、どこにも行かないわ」
夕暮れ時、呉の軍港には、かつて彼女たちが背負った「大砲」ではなく、平和な貨物船や連絡船の汽笛が響きます。
かつては「高速戦艦」として、誰よりも速く死地へ駆け抜けた四人。
今は、誰よりもゆっくりと、沈む夕日を眺めながらお茶を飲んでいます。
「ねえ、明日はどこへ行きましょうか?」と比叡が問いかけ、
「たまには戦いじゃない遠足もいいわね」と霧島が答え、
「Yes! どこまでも一緒に行きましょう!」と金剛が笑う。
その傍らで、榛名は静かに微笑み、平和な海を見つめ続けるのでした。




