第9話 「ありがとうって言われたの、いつぶりだろう」
ゲームが終わったあと、子どもたちは大満足で走り回っていた。
私はへとへとで、広場の木陰に腰を下ろす。
「みるくさーん!」
大人たちが手を振りながら近づいてきて、胸がドキッとする。
怒られる? 迷惑だった?
反射的に身構えてしまう。
でも返ってきたのは、予想とまったく違う言葉だった。
「ほんとにありがとう!」
「子どもたち、あんなに楽しそうなの久しぶりよ!」
「あなたのおかげだ」
一気に声をかけられ、耳の奥がじんと熱くなる。
「い、いえ……そんな……みなさんが協力してくれたからで……」
「それでも、あなたが中心になってくれたから」
「本当に助かった」と、ありがとうを重ねてくれる。
……ありがとうって、
こんなにも胸を温かくする言葉だったんだ。
ラテが足元でしっぽを揺らす。
私は無意識にその頭を撫でた。
「ラテがいてくれたから、頑張れたんだよ」
……こんな空気の真ん中に立てる日が来るなんて。
「よかったら、またイベントお願いしてもいい?」
「子どもたち、きっとすごく喜ぶわ」
私はどぎまぎしながらも、勇気を振りしぼる。
「わ、私でよければ……」
その瞬間、ぱあっと大人たちの顔が明るくなった。
胸のあたりがふわっとあたたかくなる。
自分が、誰かの役に立てるんだ……そう思えるだけで涙が出そうになる。
……そのあと
解散して帰ろうと歩き出したとき、ふと気付いた。
誰も私を遠巻きに見ない。
笑いかけられ、会釈を返された。
「またね、みるくさん」
「困ったらいつでも言って」
そんな言葉までかけてもらえる。
世界って、こんなにも優しかったんだろうか?
それとも……私が、世界を知らなかっただけ?
胸の奥で波のように感情が広がる。
私は足元のラテに向かってそっと笑った。
「……ねえラテ。今日ね、すごく、幸せだった」
ラテは返事の代わりに、私の足にぴとっと寄り添った。
いつもより少しだけ力強く。
誰にも見えない金色の尾がふわりと揺れる。
……その瞬間、ラテの中で何かが強く輝いた。
みるくが幸せそうなら、それだけで十分。
でももっと幸せにできるなら、ぼくはなんだってする。
この世界の全部が、みるくの味方になるように。
ぼくはただそれだけを願って……。
静かにしっぽを振った。




