第7話 「少しこそばゆくて、でも嬉しい」
最近、散歩していると声をかけられることが増えた。
「みるくさん、アーシャの三つ編み、教えてくれたんですって?」
「ルッカがね、あなたのお話がすごかったって……自慢してたわよ」
褒められるなんて久しぶりで、どう返していいかわからず
私はただぎこちなく笑うだけだった。
でも悪い気はしない。
むしろ……ちょっと胸が温かい。
そんなある日。
村の広場で、困り顔のお母さんに呼び止められた。
「みるくさん、もしよかったら……お願いがあるの」
聞けば、子どもたちを集めた遊びの日が近いらしい。
昔は担ってくれる人がいたけど、今は誰もいなくて困っている、と。
「アーシャとルッカが……どうしても、みるくさんにお願いしたいって」
アーシャとルッカは、ちょっと離れたところで恥ずかしそうに、でも期待いっぱいの顔でこちらを見ていた。
……胸が熱くなる。
私はずっと誰かに頼られたかった。
ずっと必要とされたかった。
でも、怖くて距離を置いてきた。
「……私でいいんですか?」
震える声でそう聞くと、お母さんは即答した。
「みるくさんがいいの。子どもたちが笑ってるの、久しぶりだから」
その言葉に、自然と涙がこぼれそうになるのをこらえた。
「……わかりました。私でよければ」
アーシャが歓声を上げ、ルッカは飛び跳ねて喜んだ。
その様子を見て、気付けば私も笑っていた。
たぶん、今までで一番ちゃんと笑った。
その帰り道、ラテがいつものように足元を歩く。
「ラテ、ありがとうね。
あなたがいてくれるから、私が少し頑張れるんだ」
もちろん返事はない。
けれど、ラテの歩くリズムは嬉しそうで、
小さな尻尾がふりふり揺れていた。
私の頭の上でひらひら何かが舞った。
視界の端で金色の光のようなものが見えたけど……
私は気付かなかった。
“私を悪く言う大人の噂話が一気に鎮火し、
翌日には応援ムードに変わることも”
“広場の遊びの準備が驚くほどスムーズに進むことも”
“協力者が次々と集まっていくことも”
全部。
ラテが夜の村をこっそり走り回って、悪意だけを優しく弾き飛ばしてくれているからだなんて。
私はただ……。
ひさしぶりに期待していい未来がある気がした。
胸に小さく芽生えた灯が、
こぼれ落ちないようにそっと抱きしめながら家に帰った。




