第50話(最終話) 「満月の下で/ふたりの居場所」
満月の夜は、思っていたより静かだった。
村の広場へ向かう道。
並んで歩く足音が、砂利を踏むたびに小さく響く。
手は――
自然に、つながれていた。
指と指が絡み、離れる理由なんてどこにもない。
(……あったかい……)
みるくは、つながれた手をぎゅっと握り直した。
リオンが、少しだけ驚いたようにこちらを見る。
「……大丈夫ですか……?」
「……うん……ちゃんと……ここにいる……」
そう言うと、リオンはほっとしたように微笑った。
「……よかった……」
その声が、やさしすぎて胸がきゅっとなる。
———
広場には、すでに人がまばらに集まっていた。
村人たちは満月を眺めたり、静かに談笑したり。
けれど――
「……見た? あの二人……」
「……なんか……空気が……」
「……あったかい……」
ひそひそと、でも微笑ましい視線が向けられる。
みるくは気づいて、思わず肩をすくめる。
(……やっぱり……ばれてる……)
でも、今日は不思議と恥ずかしくなかった。
リオンが隣にいるから。
———
月が、完全に空の中心へ昇った。
その瞬間――
ラテが、ふわりと前へ出る。
「みんな〜……ちょっとだけ、いいかな〜?」
……が、村人たちは、ラテの存在に気づかない。
でも――
空気が、やわらかく震えた。
風が止まり、音が遠のき、世界が、そっと“ふたり仕様”になる。
「……また……時間……」
みるくが呟くと、ラテはにっこり。
「うん。今日はね〜……ちゃんと“しめくくり”の日だから〜」
リオンは、ゆっくりと息を吸った。
そして――
みるくの前に立つ。
「……みるく……」
名前を呼ばれるだけで、胸が鳴る。
「……この世界に来て……僕は……ずっと……探していました……」
ノアが、静かに二人を見上げている。
「……大切なものを……失くしてしまったと思って……」
一瞬、言葉が詰まる。
でも、リオンは続けた。
「……でも……見つからなかったのは……失くしたからじゃなくて……」
みるくの目が、揺れる。
「……“もう、ここにあった”から……」
静かに、胸が熱くなる。
「……みるく……あなたと出会って……ノアが戻って……この家で……同じ朝を迎えて……」
指先が、少し震える。
「……僕は……ここが……帰る場所なんだって……気づきました……」
沈黙。
でも、それは――
あまりにもやさしい間。
みるくは、一歩近づいた。
「……わたしも……」
声が、少し震える。
「……ひとりで……生きてきたけど……寂しくないふり……してたけど……」
胸に手を当てる。
「……リオンさんが……ここにいて……ノアちゃんがいて……ラテがいて……」
小さく、息を吸う。
「……この家が……ちゃんと……“家”になった……」
視線が合う。
もう、逸らさなかった。
「……だから……一緒にいて……ください……」
言い切った瞬間。
リオンの目に、涙がにじんだ。
「……はい……喜んで……」
ぎゅっと、抱きしめられる。
強くない。
でも、逃げ場のない温度。
「……ずっと……そばにいます……」
みるくも、腕を回す。
「……うん……」
———
ノアが、二人の足元に来て、しっぽをゆらりと揺らした。
ラテは、満足そうにくるくる回る。
「うんうん〜……これで……“みんな、ちゃんと居場所あり!”だね〜」
次の瞬間――
時間が、再び動き出す。
村人たちは、なぜか胸がぽかぽかしていた。
「……あれ……?」
「……なんか……いい月だねぇ……」
誰も、理由はわからない。
でも――
“幸せな何か”が、確かにそこにあった。
———
夜。
家へ戻る道。
手は、また自然につながれる。
家に着くと、ノアはいつもの場所で丸くなり、ラテは棚の上で、ごろり。
「……ねぇ……」
みるくが、小さく言う。
「……なに……?」
「……これからも……いろいろ……あるよね……」
リオンは、少し考えてから笑った。
「……きっと……でも……」
みるくの手を、包む。
「……一緒なら……大丈夫です……」
みるくは、くすっと笑う。
「……うん……」
同じ屋根の下。
同じ朝と、夜。
恋になって、家族になって、そして――
“居場所”になった。
満月の光が、窓から差し込み、ふたりと二匹を、やさしく照らす。
それは――
特別じゃない日常。
でも、何よりも大切な――ハッピーエンドだった。
完




