第47話 「満月まで、あと三日/小さな約束」
朝の光が、障子の隙間から静かに差し込む。
みるくは、いつもより少し早く目を覚ました。
(……音……)
隣の部屋から、衣擦れの気配。
リオンが、起きたらしい。
同じ家で迎える朝に、もう慣れたはずなのに――
今日は、胸の奥が少しだけざわついた。
———
朝ごはんの支度をしていると、リオンが居間に顔を出した。
「……おはようございます」
「……おはよう……」
短い挨拶。
でも、昨日よりほんの少しだけ、距離が近い。
鍋が、ことことと音を立てる。
「……みるくさん」
リオンが、箸を持つ手を止めた。
「……満月の日まで……あと三日ですね」
その言葉に、空気がぴんと張りつめる。
「……うん……」
みるくは、逃げずに頷いた。
一瞬、沈黙。
それを破ったのは、意外にもリオンだった。
「……その日まで……」
彼は、少しだけ息を吸い――
勇気を出すように続ける。
「……一日ひとつ……“いっしょにやること”を……決めませんか?」
「……え……?」
思わず、目を瞬かせる。
「……大したことでなくていいんです。……散歩とか……料理とか……」
リオンは、少し照れたように視線を落とす。
「……あとで後悔しないように……ちゃんと、過ごしたくて」
胸の奥が、きゅっと締まる。
(……リオンさん……)
みるくは、ゆっくり頷いた。
「……うん……それ……いい……」
その瞬間。
「わぁ〜……それ、“約束”だね〜」
ラテが、ぱちぱちと小さな拍手をした。
「……約束……」
その言葉を口にすると、不思議と心が落ち着く。
———
その日の「ひとつめ」。
ふたりは、家の裏の小道を散歩することにした。
並んで歩く。
無言でも、気まずくない。
風に揺れる草の音。
遠くで鳴く鳥。
「……前は……」
みるくが、ぽつりと話し出す。
「……ひとりで歩くの……ちょっと……さみしかった……」
リオンは、歩幅を少しだけ合わせた。
「……僕も……です」
そして、小さく微笑む。
「……でも今は……この道……好きです」
みるくの胸が、じんわり温かくなる。
ラテが、ふたりの後ろをふわふわとついてくる。
「ね〜……この“いっしょ”の音……すごく、いい音だよ〜」
———
夜。
布団を敷き終えたあと、みるくは勇気を出した。
「……あの……」
「……はい?」
「……明日の“ひとつ”……決めていい……?」
リオンは、少し驚いたあと、やさしく頷いた。
「……もちろんです」
みるくは、少し考えて――
小さな声で言った。
「……明日は……一緒に……ごはん、作りたい……」
一瞬、静寂。
そして、リオンは、ゆっくりと笑った。
「……はい。……とても、嬉しいです」
ラテが、満足そうにくるんと回る。
「ふたりとも〜“未来に続く音”してるよ〜」
満月まで、あと三日。
小さな約束は、確実に、ふたりの距離を縮めていた。




