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『人見知り独身の私、ドラマの恋に憧れてたら……チワワのラテが影で異世界を無双していました』  作者: talina


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第42話 「ノアとみるく、ふたりきりの時間」

 昼下がりの家は、静かだった。


 リオンは村長の家へ呼ばれて出かけている。

 珍しく、家に残ったのは――みるくとノアだけ。


「……行ってきます。すぐ戻りますから」


「うん……気をつけて……」


 扉が閉まる音がして。家の中に、静けさが戻った。


 みるくは、少しだけ胸を押さえる。


(……あれ?)


 ひとりの時間には慣れているはずなのに。

 なぜか、ぽっかりと穴が空いたみたいだった。


 ――そんなみるくの足元で。


 とと、と小さな音。


 ノアが、そっと近づいてきていた。


「……ノアちゃん」


 みるくがしゃがむと、ノアは一度だけ迷ってから、ちょこんと前足を差し出した。


(あ……)


 触れて、いい……ってこと?


 みるくは、そっと指先を伸ばす。


 毛は、思ったより柔らかくて。

 あたたかかった。


 ノアは逃げない。

 けれど、甘えるでもない。


 ――ただ、そこにいる。


「……不思議だね」


 みるくは小さく笑った。


「前は……ちょっと、こわがられてたのに……」


 ノアは、みるくの指を見つめてから、そっと額を押し当ててきた。


 その重みが、胸にしみる。


「……ありがとう」


 返事はない。

 けれど、ノアのしっぽが、ゆっくり揺れた。


 みるくは、そのまま床に座る。


 窓から、やわらかな光。

 風に揺れるカーテン。


 ノアは、自然とみるくの隣に丸くなった。


(……近い……)


 でも、不思議と緊張しない。


「……リオンさんね」


 ぽつり、と声が落ちる。


「ノアちゃんのこと……すごく、大事にしてる」


 ノアの耳が、ぴくりと動いた。


「いなくなったって聞いたとき……すごく……つらそうだった」


 みるくは、少しだけ目を伏せる。


「……わたし、その顔を見るの……ちょっと、いやだった」


 胸が、きゅっとなる。


「だって……」


 言葉を探して、少しだけ間が空く。


「……わたしが、そばにいても……届かない場所があるって……思っちゃったから」


 ノアは、静かに立ち上がった。


 そして――。


 みるくの膝に、前足を乗せる。


「え……?」


 ノアは、じっとみるくを見上げていた。


 逃げない。

 目をそらさない。


 みるくの喉が、きゅっと鳴る。


「……ノアちゃん……」


 そのとき。


 ふわっと、胸の奥があたたかくなる。


(……あ)


 言葉じゃない。

 でも、なぜか――伝わった。


 ――「ちがう」。


 ――「おなじ」。


 ノアは、リオンの“過去”で。

 みるくは、リオンの“いま”。


 比べるものじゃない。


 ノアは、静かに膝から降りると、みるくの隣に戻った。


 そして、くるん、と丸くなる。


 みるくは、そっとノアの背中に手を置いた。


 もう、ためらわない。


「……そばにいるね」


 ノアのしっぽが、またゆっくり揺れた。


 そのとき。


 玄関の向こうで、足音。


「ただいま……」


 リオンの声。


 ノアは、ぴん、と耳を立て。

 それから、みるくを一度だけ振り返る。


 ――大丈夫。


 そんなふうに見えた。


 扉が開き、リオンが入ってくる。


「あ……」


 みるくの隣で丸くなったノアを見て、目を見開いた。


「……仲良くなりました?」


 みるくは、少し照れて頷く。


「……うん。ちょっとだけ」


 リオンは、ほっとしたように笑った。


 その笑顔を見て、みるくの胸がやわらぐ。


 ラテが、どこからともなく現れて、満足そうに言った。


「ふたりとも〜、ちゃんと“家族の距離”になってきたね〜」


「ラテ!?」


 ノアは、ちらっとラテを見る。


 ……そして、なぜか小さく、鼻を鳴らした。


 みるくは気づかない。


 でも――。


 この日から、ノアはみるくのそばを、少しだけ選ぶようになった。

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