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『人見知り独身の私、ドラマの恋に憧れてたら……チワワのラテが影で異世界を無双していました』  作者: talina


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第40話 「朝の音が、増えただけ」

 朝の家は、音が多い。


 鍋が火にかかる音。

 包丁がまな板に当たる音。

 窓の外で鳴く、小さな鳥の声。


 そして最近――

 その音の中に、もうひとつ増えた。


「……おはようございます、みるくさん」


 寝起きで少し低い、リオンの声。


「お、おはよう……!」


 みるくはフライパンを持ったまま、びくっと肩を跳ねさせた。


(な、なれない……!まだ全然なれない……!)


 同じ家で迎える朝も、もう何日目だろう。

 それなのに、声をかけられるたびに心臓が跳ねる。


 リオンはエプロン姿のまま、台所の端に立つ。


「……今日は、何か手伝えますか?」


「えっ!? い、いいよ!大丈夫!」


「でも……」


 そのとき。


「みるく〜、リオン〜、朝はね〜、協力すると“夫婦力”が上がるんだよ〜」


「ラテ!!」


 棚の上でごろごろしていたラテが、しっぽをぶんぶん振る。


「まだ夫婦じゃないです!」


「え〜? でも生活は、ほぼ夫婦だよね〜?」


「ちがいます!!」


 リオンは、困ったように笑った。


「……でも、ラテの言い方はさておき……一緒にやるのは、悪くない気がします」


 その言葉に、みるくの手が一瞬止まる。


(……一緒に……)


「……じゃあ……野菜、切るの……お願いしてもいい……?」


「はい」


 ふたり並んで立つ台所。


 距離は、肩が触れそうで触れないくらい。

 包丁の音が、ふたつ並ぶ。


 ノアは足元で、ころんと転がりながら二人を見上げている。


「……ノアちゃん、今日は機嫌いいね」


「みるくさんに、懐いてますね」


「え……?」


 ノアは、みるくの足にすりっと頬を寄せた。


「……あ」


 胸が、きゅっと鳴る。


(……うれしい……)


 その様子を見て、ラテがにこにこ。


「ノアちゃんね〜、ここが“おうち”って思いはじめてるんだよ〜」


「……おうち……」


 リオンが、その言葉を小さく繰り返す。


 包丁を置いて、ふっと息をついた。


「……不思議ですね」


「え……?」


「旅をしてたときは……朝の音なんて、気にしたことなかったのに」


 リオンは、窓の外を見る。


「今は……この音がないと、落ち着かない気がします」


 みるくの胸が、あたたかくなる。


(……それって……)


 言葉にしたら、壊れてしまいそうで。

 みるくは、ただ笑った。


「……朝ごはん、もうすぐできるよ」


「はい」


 そのとき――

 風が、ほんの一瞬だけ冷たくなった。


 窓の外の木々が、ざわ、と揺れる。


 ノアが、ぴくりと耳を立てた。


 ラテも、動きを止める。


「……ラテ?」


「……ううん。だいじょうぶだよ〜」


 でも、その声は少しだけ、いつもより小さかった。


 リオンは気づかないふりをして、再び包丁を握る。


 みるくは、胸の奥に残った小さな違和感を、そっと押し込めた。


(……きっと、気のせい……)


 朝の音は、変わらず続いている。


 ただ――

 少しだけ、世界が息を潜めているような気がした。

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