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『人見知り独身の私、ドラマの恋に憧れてたら……チワワのラテが影で異世界を無双していました』  作者: talina


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第34話 「外では普通、家では甘い」

 村の朝は、いつもどおり静かだった。


 みるくは籠を抱え、井戸の前で列に並んでいる。

 その少し後ろに、リオンが立っていた。


 ……距離は、ちゃんと“普通”。


(……外だと……これくらいが……普通……)


 昨夜と今朝の出来事が、嘘みたいだ。


「おはようございます、みるくさん」


 穏やかで、落ち着いた声。

 村人に向ける、いつものリオン。


「おはようございます」


 みるくも、同じように丁寧に返す。


 それだけ。


 肩も触れない。

 視線も、長くは合わない。


「最近、よく一緒にいるねぇ」


 井戸端のおばあさんが、にこにこしながら声をかけてくる。


「え、ええ……子ども教室の準備とか……」


「旅人さんも、親切で助かるよ」


 リオンは、軽く頭を下げる。


「いえ。お世話になっています」


 完璧だ。


(……ちゃんと……大人……)


 みるくは、なぜか少しだけ寂しくなる。

 

 市場でも同じ。


 並んで歩くけれど、間には少し空間がある。


 人とすれ違うたび、リオンは自然にみるくを庇うが、触れない。

 あくまで、礼儀正しい距離。


(……触れないんだ……)


 みるくは、胸の奥がきゅっとする。


 ラテが、小声で囁く。


「みるく〜。外のリオン、かっこいいけど……ちょっと、さみしいね〜?」


「……うん……」


 即答だった。


 家に戻り、扉を閉めた。


 ……その瞬間。


「……お疲れさまでした」


 声が、近い。


 振り向く前に、リオンの気配がすぐ後ろにある。


(……え……)


「……人前だと……我慢してました」


 低く、静かな声。


 みるくの心臓が、跳ね上がる。


「が……我慢……?」


「はい。……距離」


 距離。


 その言葉の意味が、理解できてしまう。


 靴を脱ぐ。

 同時に、動く。


 気づいたら、みるくは壁際。


 逃げ道、なし。


 リオンは触れない。

 触れないけれど……近い。


「……みるくさん」


「……は、はい……」


「……外だと……あなたを、意識しすぎて……」


 言葉を探すように、一瞬、視線を逸らす。


「……変な誤解を、されそうで……」


 みるくの胸が、きゅっと鳴る。


「……でも……」


 視線が、戻る。


「……家では……少しだけ……近くに、いたいです」


 ……甘すぎる。


 みるくは、完全に思考停止した。


 ラテが、棚の上からごろんと転がる。


「うわ〜……これ……“外では理性、家では本音”ってやつ〜?」


「ラテ……!」


「ギャップ……やばいね〜」


 ノアは、ふたりの足元をくるくる回る。


 リオンは、一歩だけ下がる。


「……嫌でしたか?」


「……い、嫌じゃ……」


 言いかけて、言葉が詰まる。


 でも、逃げない。


 それが、答えだった。


 リオンは、ほっとしたように微笑む。


「……よかった」


 それだけで、空気が甘くなる。


 夕方。


 並んで座るふたり。


 距離は、外より近い。

 でも、朝ほどでもない。


 心地いい、曖昧な距離。


 みるくは、ぽつりと呟いた。


「……外と……家と……リオンさん……違うんですね……」


 リオンは、少し照れた。


「……はい。家は……気を抜いても、いい場所なので」


 その言葉が、胸に残る。


 ラテが、満足そうに尻尾を揺らす。


「ここね〜。ふたりの“帰る場所”になりはじめてるよ〜」


 みるくは、そっと微笑んだ。


 外では普通。

 家では甘い。


 そのギャップが……心を、ゆっくりと溶かしていった。

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