表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『人見知り独身の私、ドラマの恋に憧れてたら……チワワのラテが影で異世界を無双していました』  作者: talina


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

32/50

第32話 「朝の無防備/重なった目覚め」

 朝の光は、思ったよりも早くやってきた。


 障子越しに差し込むやわらかな光が、みるくのまぶたをくすぐる。


「……ん……」


 寝返りを打とうとして、みるくはぴたりと動きを止めた。


(……あれ……)


 いつもと違う。


 聞こえる音が、ひとつ多い。


 規則正しい、静かな呼吸。

 壁の向こうから、すぐ近くで。


(……リオンさん……)


 昨日から一緒に住んでいる。

 分かっている。

 分かっているのに……。


 朝一番に意識すると、心臓が変な動きをする。


(……意識しちゃだめ……普通、普通……)


 みるくは布団の中で、そっと深呼吸した。


 そのとき。


 ……こつ。


 何かがぶつかる、軽い音。


 続いて。


「……っ!?」


 壁の向こうから、リオンの声。


 みるくは跳ね起きた。


「リ、リオンさん!?」


 慌てて立ち上がり、まだ寝ぼけたまま襖に手をかける。


(だ、大丈夫かな……!?)


 ……がらっ。


 勢いよく開けた、その瞬間。


 どんっ。


「――っ!」


「――っ!?」


 鈍い音と一緒に、視界がぐらりと揺れた。


 気づいたときには……。


 みるくは、リオンの胸に倒れ込んでいた。


 リオンは後ろに尻もちをつき、そのまま受け止める形。


 ……近い。


 ものすごく、近い。


 みるくの額は、リオンの肩に。

 リオンの手は、みるくの背中に。


 息が、混ざる距離。


「…………」


「…………」


 数秒間、完全に静止。


(……なにこの状況……)


 みるくの頭が、真っ白になる。


 リオンの鼓動が、はっきり伝わってくる。

 早い。

 自分と同じくらい。


「あ……あの……」


 先に声を出したのは、リオンだった。

 声が、少しだけ掠れている。


「……だ、大丈夫ですか……?」


「……だ……だいじょう……ぶ……です……」


 声が裏返った。


 その瞬間、みるくは自分の姿に気づく。


(……パジャマ……)


 寝起き。

 髪はぼさぼさ。

 顔も、たぶん……ひどい。


「――っ!!」


 みるくは一気に顔が熱くなり、慌てて離れようとする。


「す、すみません!! いきなり開けて!!」


 だが。


 足がもつれて、またバランスを崩す。


「わっ……!」


「――っ、危ない……!」


 今度は、リオンがしっかり支えた。


 結果。


 また、近い。


 さっきより、さらに近い。


 みるくの視界いっぱいに、リオンの顔。


 寝起きなのか、いつもより少し柔らかい表情。

 前髪が、少し乱れている。


(……こんな顔……反則……)


 リオンも、完全に固まっていた。


(……近い…………みるくさん……無防備すぎ……)


 ラテの声が、絶妙なタイミングで響いた。


「おはよ〜……あれ〜?」


 棚の上から、ラテが顔を出す。


「……ふたりとも……朝から……ぴったんこ?」


「ラテーーーッ!!」


「ち、ちがいますっ!!」


 ほぼ同時に叫ぶ二人。


 ノアはその横で、欠伸をしながらのんびり。


ようやく距離ができる。


 みるくは顔を真っ赤にして俯いた。


「……ご、ごめんなさい……寝ぼけて……」


 リオンも耳まで赤い。


「い、いえ……僕こそ……」


 少し沈黙。


 気まずいのに、嫌じゃない。


 ラテが、にやにやしながら尻尾を揺らす。


「ふたりとも〜、今ね……心の音、さっきよりもっと大きいよ〜?」


「聞かなくていい!!」


「ほんとだもん〜」


 リオンが、咳払いをしてから、少し照れたように言った。


「……でも……」


「……?」


「……朝、顔を見られるの……悪くないですね……」


「――っ!!」


 みるくの頭が、完全に沸騰した。


 台所から、朝の音がし始める。


 お湯を沸かす音。

 カップを置く音。


 さっきの事故が、嘘みたいに、日常が戻ってくる。


(……でも……)


 みるくは、胸に残った感覚をそっと抱えた。


(……同居って……こういう……“不意打ち”が……あるんだ……)


 ラテが、満足そうにくるりと回る。


「ふふ〜。これね……“朝の無防備イベント”成功〜」


「成功じゃないっ!!」


 でも……。


 みるくは、少しだけ笑ってしまった。


 同じ屋根の下。

 同じ朝。

 近すぎる距離。


 恋には、まだ名前がないけれど……心は、確実に、追いつかなくなってきていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ