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『人見知り独身の私、ドラマの恋に憧れてたら……チワワのラテが影で異世界を無双していました』  作者: talina


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第29話 ノア、ひとつになる瞬間

 まばゆい光が、森の深層を包み込んだ。


 みるくは思わず目を閉じ、リオンの胸に顔をうずめる。


 鼓動が、はっきり聞こえた。

 早くて、強くて……必死に守ろうとする音。


「……だいじょうぶ……だよ……」


 自分に言い聞かせるように、みるくは呟いた。


 ラテの声が、光の中から聞こえる。


「ノアちゃん……いまね……選んでるよ……ひとりで生きるか、だれかと生きるか……」


 光が少しずつ、やわらいでいく。


 みるくがそっと目を開けると……そこには、二匹のノアがいた。


 震える“本体のノア”。

 淡く輝く“光のノア”。


 ふたりは、互いに近づき、額をそっと合わせる。


「……にゃ……」


 小さな声。


 それは、怖さと、寂しさと、帰りたい気持ちが混じった鳴き声だった。


 光のノアが、やさしく瞬きをする。


 その体が、ゆっくりとほどけるように、粒子になっていく。


 そして……。


 その光は、本体のノアの胸へ、静かに溶け込んだ。


 ぱあ……。


 柔らかな光が、ノアの全身を包む。


「ノア……!」


 リオンが思わず声を上げる。


 ノアは一度、大きく息を吸い……。


「にゃあ」


 はっきりと、いつもの声で鳴いた。


 その瞳は、怯えではなく、確かな意思を宿していた。


「……戻った……」


 ラテが、ほっとしたように尻尾をゆらす。


「うん……ノアちゃん、ちゃんと“ひとり”に戻れたよ……光も、心も……ぜんぶ……」


 だが……すべてが終わったわけではなかった。


 光を失った影が、森の奥でぐらりと揺れる。


 さっきまでの勢いはない。

 けれど、消える気配もない。


「……影のひと……」


 みるくは胸に手を当てた。


 影は、形を崩しながら、低く呻く。


 ……カエ……レナ……イ……


 ラテが、そっと前に出る。


「ねぇ……影のひと……ノアちゃんの光はね……もう“返すもの”じゃないんだよ……」


 影は、揺れる。


「デモ……ヒカリ……」


「うん……ほしかったよね……だって……ずっと、ひとりだったんだもん……」


 ラテの声は、やさしく、でもはっきりしていた。


「でもね……“帰り道”は、だれかの心を奪って作るものじゃないよ」


 影は、苦しそうに歪んだ。


 みるくは一歩、前に出る。


 足は震えていた。

 それでも、逃げなかった。


「……あなたも……迷子だったんだよね……」


 影が、ぴたりと止まる。


「リオンさんみたいに……急に知らない世界に来て……ひとりで……誰にも気づいてもらえなくて……」


 影が、微かに揺れる。


 みるくは胸の奥が、痛くて仕方なかった。


「……帰りたいって……思うよね……」


 沈黙。


 そして、影は……少しだけ、形を変えた。


 ほんの一瞬。


 人の輪郭が、見えた気がした。


「……みるく」


 ラテが、みるくを見上げる。


「このままだと……影のひとは……ずっと、この森に縛られちゃう……」


「……どうすれば……?」


 ラテは、小さく笑った。


「ラテね……ちょっとだけ……“道”をつくれるよ」


「え……?」


 リオンが息を呑む。


「それって……」


「だいじょうぶ〜。ラテは消えたりしないよ〜」


 ラテはぴょんっと跳ねて、影の前に立つ。


「影のひと……ねぇ……“帰りたい”って気持ち……まだ、ある?」


 影が、かすかに頷くように揺れた。


「じゃあね……ついてきて……ラテが……“出口の音”……教えてあげる」


 ラテの体が、淡く光り始める。


 それはノアの光とは違う、あたたかくて、やさしい光。


 みるくの目に、涙がにじむ。


「ラテ……」


「だいじょうぶだよ、みるく……ラテは……ちゃんと、戻ってくるから……」


 ラテはそう言って、えへっと笑った。


 ラテの光に導かれ、影はゆっくりと形をほどいていく。


 風が吹き、葉が揺れ、森が深く息をつく。


 影は、最後に一度だけ振り返った。


 ……アリ……ガト……


 その声は、確かに“人”のものだった。


 そして……影は、消えた。


 光も、闇も、すべてが静まる。


 森は、ただの森に戻っていた。


 ノアはリオンの足元へと歩み寄り、そっとすり、と体を寄せる。


「ノア……!」


 リオンはしゃがみこみ、ノアを抱きしめる。


 ノアは逃げなかった。


 喉を鳴らし、安心したように目を閉じる。


 みるくの胸が、いっぱいになる。


(よかった……ほんとに……)


 そして……ぴょこん。


 みるくの肩に、いつもの重み。


「……ただいま〜」


「ラテ……!!」


 みるくは思わずラテを抱きしめた。


「もぉ〜、ぎゅってすると毛がぐちゃぐちゃ〜」


 でも、ラテは嬉しそうだった。


 リオンはその光景を見て、目を細める。


「……全部……終わったんですね……」


 みるくは、そっと頷いた。


「うん……でも……これから、だね」


 ノアを抱いたリオンと、ラテを抱いたみるく。


 森の出口へ向かって、並んで歩き出す。


 それぞれが、ちゃんと“帰る場所”を見つけた……。

 そんな、あたたかな夕暮れだった。

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