第22話 「揺れる気持ちと、はじめてのお願い」
ノアが森へ消えていったあと。
リオンはその場に立ち尽くしていた。
みるくはそっと、その横顔を見つめる。
さっきまで淡く光るような気持ちで満たされていた胸が……今は、少し痛んでいた。
(……リオンさん、泣きそう……)
声を掛けようとしたその瞬間。
「みるく〜……リオンの心、いま、ぎゅうってしてるの……」
ラテがみるくの肩に乗り、こっそり囁く。
(ぎゅう……)
みるくは胸がじわっと熱くなる。
「……リオンさん」
そっと呼ぶと、リオンはかすかに笑った。
けれどその笑顔は、いつもの優しいものとは違った。
「ごめんなさい……。せっかく、みるくさんと一緒にいたのに……ノアを見た途端、僕……」
「いいの。そんなの……気にしないで……」
言いながら、みるくは気づく。
(あ……わたし……リオンさんが誰かを想う顔を見るの、こんなに……苦しいんだ……)
胸の奥で、小さく波が立った。
ラテがみるくの耳元でふわっと囁く。
「みるく……いまのはヤキモチっていうやつだよ〜?」
「ち、ちがっ……!!」
「ちがわないよ〜、ぜぇったい。ラテはね、心の音、聞こえるんだもん」
「ラテっ……!! しーっ!!」
慌ててラテを押さえると……。
「……?」
リオンが首をかしげた。
みるくは真っ赤になって誤魔化すように笑う。
「な、なんでもないですっ!」
その後、3人は村へゆっくり戻ることにした。
森を離れるにつれ、リオンの表情も少し落ち着いてくる。
けれど時折、ノアが消えた方向に視線を向ける。
(……心配だよね、当然……)
歩きながら、みるくは思わず拳を握った。
(わたし……何もできないままじゃイヤだ……)
すると、不意にリオンが立ち止まった。
「みるくさん」
「え?」
振り返ると、リオンは少し迷ったように唇を噛んだ。
そして……覚悟を決めたように、まっすぐみるくを見る。
「……ひとつ、お願いがあります」
「お、おねがい……?」
心臓がどきん、と跳ねた。
リオンは息を整え、深く頭を下げる。
「……ノアを探すのを……手伝ってくれませんか?」
みるくの胸が、ぎゅっと切なくなる。
「もちろん……っ!もちろん手伝うよ!!」
言った瞬間、リオンの目が驚いたように見開かれた。
「みるくさん……本当に?」
「うん……!だって……リオンさんの大事な子なんだもん。わたしも……ノアちゃんにちゃんと会いたい……!」
みるくの言葉に、リオンは胸に手を当てる。
「……ありがとうございます。本当に……力強いです」
その目は、涙がこぼれる寸前のように優しかった。
みるくは納まりそうにない胸の熱を抱えながら、笑う。
……その瞬間。
「ふたりとも〜、いまね……きらっって音したよ?」
ラテが嬉しそうにくるくる回る。
「き、きらっ……?」
「うん、いっしょにすすむって音!これはね〜……運命の人が、一緒に歩きだすときの音なんだよぉ〜!」
「ラテーーーッ!!」
みるくは顔を覆った。
リオンは、真っ赤になってかすかにうつむく。
「……運命……」
「り、リオンさん!? ちがっ……いまのは、ラテが勝手に……!」
「あ、いえ……嫌じゃないです。むしろ……少し、嬉しいです」
「うわああああああああ!!」
みるくは膝から崩れ落ちた。
ラテはその横で、ほかほかした表情でふりふり。
「へへ〜、ふたりとも……いい感じだよ〜?」
そんな甘い空気の中……。
ふと、森の奥から小さな冷たい風が吹いた。
みるくの背筋に、ぞくり、と鳥肌が立つ。
(……まただ……ノアちゃんが走っていった方……)
ラテがぴたりとみるくの肩の上で止まった。
「……みるく。なんかね……ノアちゃんの心の向こうに、だれかいる……」
「だれか……?」
ラテはめずらしく、真剣な顔をした。
「うん。ノアちゃんを、よんでるひと。あのね……この世界のものじゃない……かもしれないの」
みるくの胸の奥に、再び不安が芽を落とす。
けれどリオンは、まっすぐ前を見つめて言った。
「みるくさん。明日から……いっしょに探しましょう」
「……うん!」
甘い約束と、静かな不安が入り混じる夕暮れ。
みるくの心は……これまでにないほど揺れていた。




