第21話 「 でもなにか違う……ノアの秘密」
小さな影は、木の陰からそっと姿を現した。
薄い灰色の毛並み。
つぶらな瞳。
小さくて、少しだけ震えている体。
みるくは、息が止まった。
(……猫……?可愛い……けど……これが……ノアちゃん……?)
リオンはゆっくりと膝をつき、その猫にそっと手を伸ばす。
「……ノア……?」
声が震えていた。
ずっと探してきた、大切な家族。
その姿を、ようやく見つけたのだから無理もない。
でも……猫はリオンの手から、ほんの少しだけ距離を取った。
触れられないほどではない。
けれど、抱っこを許すほどでもない。
どこか、ためらうように。
ラテがみるくの足元からひょこっと出て、小首をかしげる。
「みるく〜、このねこちゃん……ノアちゃんのにおいはするんだけどねぇ……ぜんぶじゃない感じするの」
「ぜんぶじゃ……ない?」
「うん。なんか、なにかが足りないにおいだよ」
みるくとリオンは同時に猫を見る。
ノアと思われるその猫は、みるくを見て……不思議そうに瞬きをした。
(あ……かわいい……)
思わず手を伸ばしたその瞬間……。
「しゃっ……!」
小さく威嚇された。
「ひゃあっ!?」
みるくは慌ててリオンの方へ下がり、ぎゅっと袖をつかむ。
ノアの瞳は、どこか怯えている。
リオンは優しく声をかけた。
「……ノア。僕だよ。覚えてない……のかな?」
猫は答えない。
ただ、すこしだけ耳を伏せた。
みるくの胸がちくんと痛む。
(せっかく会えたのに……どうして……こんな顔……)
ラテはふよふよとリオンの足元に移動し、鼻を近づけてからひょいっと振り返った。
「ねぇ、みるく。このねこちゃん……つよいまもりがついてるよ?」
「まもり……?」
「うん。神さまみたいな……そんな感じ〜」
「神さま……?」
その言葉に、みるくの背筋に小さな冷たさが走る。
(ラテみたいに……そういう存在……?もしかして……ノアちゃんも……?)
リオンも気づいたらしい。
「ノアに……何か、起きている……?」
そのとき……ノアがふとリオンの近くへ来て、鼻先をそっと服に触れた。
リオンの目が揺れる。
「ノア……」
次の瞬間、ノアはくるりと向きを変え……森の奥へ走り出した。
「ノア!!」
リオンが立ち上がり、追おうとする。
だが……。
「リオンさんっ!」
みるくが反射的に腕をつかんだ。
「危ない……!この森、奥に行くと……ラテが前に危ないって……!」
「みるくさん、ありがと……でも……追わないと……ノアが……!」
その声は、泣き出しそうだった。
ラテがみるくの横で小さく尻尾を揺らし、真剣な表情になる。
「リオン〜。おっかけるのはだめなの。いまのノアちゃんは、呼ばれてる方へ行ってるだけだよ」
「呼ばれている……?」
「うん。ノアちゃん、いまちょっと……きもちが分かれてるの」
リオンは息をのみ、みるくはその腕をぎゅっと握った。
「……リオンさん、大丈夫……?そばにいるから……」
涙をこぼしそうなリオンが、静かに頷く。
「……ありがとう。みるくさんがいてくれると……救われます」
その声は、かすかに震えていた。
森の風が、そっと二人の間を通り抜ける。
ノアは確かにそこにいた……切ない再会。
みるくはそっとリオンに微笑む。
「……大丈夫。ノアちゃん……絶対に、もう一度会えるよ」
ラテはそんな二人を見上げて、ほわっと笑う。
「うん。だいじょうぶだよ〜。みるくとリオンがいっしょなら……きっとあえるよ」
その言葉に、ほんの少しだけ空気が和らぐ。
けれど……森の奥に消えていくノアの気配には、まだなにか別の影が寄り添っているように感じられた。
みるくは胸の奥に、不安の種が落ちた音を感じた。




