第20話 「森の奥の気配・はじめての距離ゼロ事件」
午後の森は、昼の陽ざしを受けてきらきらしていた。
木漏れ日が揺れるたび、森の空気が柔らかく深呼吸しているみたいだった。
みるくはリオンの少し後ろを歩きながら、ドキドキする胸を抑えられずにいた。
(リオンさんと……二人で森に……いや、ラテもいるけど……二人で森……デートじゃないけど……デートじゃないよね!?)
「みるく、いま、でーとでーと、って心が言ってる〜」
「わああああっ!? ラテ、心読まないで!!」
「読んでないよ〜。みるくの心、声に出てるんだも〜ん」
「出てないよ!!」
わちゃわちゃしていると、リオンが振り返り、優しく笑ってくれた。
「ふふ……二人とも、仲良しですね」
「ひゃっ……」
その笑顔だけで、森の温度が3度くらい上がった気がした。
リオンはゆっくりと地面にしゃがみこみ、足跡を見つめる。
「みるくさん。これ……猫の足跡に見えませんか?」
「えっ……」
そこには、小さな肉球の跡が確かにあった。
大きさは……ラテの半分ほど。
「これって……!」
「ノアの、かもしれません」
リオンの声が少し震えているのがわかった。
こんなに大切に思っているんだ……そう思うと胸が熱くなる。
ラテが足跡をくんくんと嗅ぎ、顔を上げた。
「このあしあと……ちょっとだけ、さみしいにおいがするよ」
「さ、寂しい……?」
リオンの目が曇った。
「……ノアは、知らない場所でずっとひとりで……」
声のトーンが落ちていく。
みるくは胸がぎゅっと締め付けられた。
(そんなの……つらいよね……)
気づけば自然と、みるくの手がリオンの手に触れていた。
「……リオンさん。ノアちゃん、早く探してあげよう。きっと待ってるよ」
リオンはそっと、指を絡めるように握り返してきた。
「……ありがとう。あなたがいてくれて……本当に良かった」
「ぁ……っ……!!」
(な、な、なにこれ……!?指……繋いでる……!?えっ……普通こんな……?だめ、思考がとろける……!)
その瞬間。
森全体の時間が、ふわりと止まった。
風も、葉の影も、鳥の羽ばたきも、すべてが静止する。
動いているのは……みるくと、リオンと、ラテだけ。
「みるく〜、あまあまの気配しゅごいよぉ〜」
「ラテっ、黙って……っ!!」
時間が動き出す前に、けっこう致命的なことを言わないでほしい。
リオンはみるくを見つめたまま、優しく微笑んだ。
「みるくさんは……不思議ですね。僕、みるくさんといると……安心感があるんです」
「そ、そんな……っ」
胸の奥が、甘さと切なさで苦しくなる。
と、そのとき。
……カサッ。
茂みが揺れた。
みるくは反射的にリオンの腕にしがみついた。
「ひゃあああ!!」
リオンはみるくをかばうように抱き寄せ……その距離、ゼロ。
「大丈夫。僕が守ります」
「む、むり……ちかい……っ……!」
顔が熱すぎて、視界が溶けそう。
ラテだけがのほほんとしている。
「みるく〜、このさきに“なにかいる”よ〜。あっ……でも、こわいにおいじゃないよ?」
リオンとみるくは顔を見合わせた。
次の瞬間、小さな影が木の陰から……ぴょこんと顔を出す。
ふわふわの耳。
つぶらな瞳。
小さな小さな体。
リオンは一歩前へ出て、息をのんだ。
「ノア……?」
森の空気が、一気に甘く、切なく、静かに揺れた。




