第18話 「旅の理由。甘くて切ない告白未満編」
ある日の村の道……。
みるくは、ほんの少し速足で歩いていた。
理由はひとつ。
(リオンさんのこと……もっと知りたいなって……)
ラテはみるくの肩の上で、ゆらゆら揺れながら楽しそう。
「みるく〜? なんか胸が“とくとく”ってしてるよ〜。はちみつ味が今日もふえてる〜」
「や、やめてよぉラテ! 変なこと言わないの!」
「へへっ、だってほんとだもん〜」
そんな会話をしながら村の外れに差し掛かると、木の根元に腰掛けているリオンが見えた。
風に揺れる髪。
柔らかい微笑み。
そしてその手には、丁寧に折られた紙の地図。
「みるくさん、お散歩ですか?」
「え、あ、その、た、たまたまです……!」
みるくは必死に平静を装うが、ラテだけが知っている。
心臓の“どきどきスイッチ”がさっきから鳴りっぱなしであることを。
ラテはちょこんとリオンの膝の上に飛び乗った。
「りおん〜ひざ、ふかふか〜」
「ふかふかなんですか……? ラテは本当に可愛いですね」
(聞こえてるのは私とリオンさんだけ……)
その事実が、みるくの胸を静かに温める。
リオンは手の地図を見つめたまま、ふとつぶやいた。
「……今日も、見つかりませんでした」
みるくの足が止まった。
「探し物……ですか?」
「はい。ずっと探しているんです」
ラテが首をかしげる。
「にゃんこ〜?」
リオンは少し驚いたように笑った。
「……そう。猫です。小さくて、白くて、尻尾だけ少しだけ黒い……ノアという名前の猫です」
その声はどこか、胸にふわりと引っかかるような優しさと寂しさが混ざっていた。
「ノアは、僕が向こうの世界で……唯一の家族だったんです」
みるくは小さく息をのむ。
「リオンさんも異世界から来たの?……」
リオンは遠くを見る。
その表情は、今まで見たどんな笑顔よりも静かで切ない。
「突然、この世界に落ちた時……ほんの一瞬、ノアの声が聞こえた気がして。もし同じように飛ばされていたら……知らない世界で、一人で泣いているんじゃないかと思えて……」
ラテはそっとリオンの手の上に前足を乗せた。
「りおん……やさしいね。ラテ、わかるよ〜。だいすきだったんだね」
「ありがとう、ラテ」
みるくの胸がきゅっと締めつけられる。
優しい人だ。
そう思うだけで、心がまた甘く跳ねる。
「リオンさん……」
みるくが言葉を探していると、ラテがリオンに聞こえないようにひそひそ声で囁く。
「みるく〜?いまね心が……すきすきすき〜ってなってるよ?」
「う、うるさいよぉぉラテ!!」
リオンはそんな二人(と一匹)を見て静かに笑った。
「みるくさん」
「は、はいっ」
「……ノアを追って旅をしているうちに、こうして村に辿りつけたこと。あなたと会えたこと……きっと、意味があったんだと思います」
みるくは耐えきれず、顔を真っ赤にして俯く。
ラテは満足そうに尻尾を振った。
「ふふ〜。みるくとりおん、どんどん“はちみつ味”になってる〜」
と、その瞬間……。
ふわっ。
また周囲の音が溶けるように消え、時間がゆっくり止まった。
「……あ」
「ラテとお話してると、やっぱり……こうなるんですね」
リオンも気づいている。
2人だけに共有された、不思議で小さな秘密。
時間の止まった森の中。
風も鳥も、すべてが甘さに包まれたように静止していた。
ラテがふにゃっと笑う。
「みるく、りおん……だいじょうぶ。これはね、ラテが、ふたりをまもってるからなんだよ〜」
その言葉は優しくて、温かくて。
みるくの胸にそっと灯る。
(ラテも……私たちのこと、大切に思ってくれてるんだ……)
やがて風が動き出す。
リオンは地図をたたみ、みるくに向き直った。
「ノアを探す旅……もう少し、この村に滞在しながら続けようと思います。みるくさんと……ラテにも、助けてもらいたいので……」
「っ……!」
みるくの頬が一気に真っ赤になり、ラテの尻尾はぶんぶん揺れた。
「みるく〜?よかったね。もっといっしょにいられるよ」
「ラテっ!! それ以上言っちゃだめぇぇぇ!!!」
森に響くみるくの悲鳴。
だけど、胸の奥は……たまらなく甘い。




