第17話 「甘さ上昇・村での噂編」
村の朝は、いつもより妙にざわざわしていた。
みるくがパン屋へ向かう道すがら、井戸端会議のおばあちゃん達が、まるで待ち構えていたかのように振り返った。
「最近のみるくちゃん、なんだか……ねぇ?」
「うんうん、あれは恋の匂いだねぇ」
……。
みるくの足が止まり、顔が真っ赤になる。
「ち、ち、違いますっ!!」
すると肩の上で、ラテがふよっと尻尾を揺らした。
「みるく?なんか、村の人たちが……あまあまのにおいって言ってるよぉ〜?」
「や、甘い匂い!? 私、そんな匂いしてないよ!?」
「してるよ。リオンに会う前は“みるく味”、会った後は“はちみつ味”ってかんじ?」
「ど、どういう例えなのぉ!?!?」
おばあちゃん達はみるくの声に驚いて振り向くが、ラテの声にはまったく反応なし。
みるくはふと気づいて固まった。
(……あれ? )
「ラテの声……やっぱりみんな、聞こえてないんだ……」
ちょん、とラテがみるくの頬に前足を置く。
「うん。ラテはね、みるくにしか見えないし聞こえないんだよ?」
ラテは悪気ゼロの笑顔で、尻尾をふりふり。
そんなやり取りの最中……パン屋のドアが開いた。
「みるくさん、おはようございます」
リオンが柔らかく微笑んで出てきた。
その一瞬で、みるくの胸の甘さゲージが爆発する。
「お、おはよう……ございます……」
みるくがしどろもどろになっていると……ラテがひょいっとリオンの肩に跳び乗った。
「わぁ〜、パンのにおいだぁ〜。おいしそう〜」
その瞬間。
みるくが息をのむと、それと同時に周囲の風がぴたりと止まり、パン屋の前にいた鳥も羽ばたきを止める。
「……また、と、止まってる……?」
みるくと、リオンが呟くと、ラテは降りてきて尻尾をゆるゆる。
「みるくとラテがお話ちゅうはね、まわりのじかんが……とまったり、ふわっとしたりするの。へへっ、“まもりだま”みたいなもの〜」
「守り玉!? 可愛い言い方で誤魔化さないの!!」
「だってほんとだもん」
みるくが頭を抱えていると……。
リオンが心配そうに、でもどこか照れたように見つめてくる。
「みるくさん……なんだか今日、いつもより……可愛いです」
「ほええええええええ!?!?!?!」
声にならない悲鳴が響くと同時に時が動き出した。
村のおばあちゃん達は大騒ぎ。
「やっぱ恋だわ!」
「若い子はこうでなきゃねぇ!」
みるくは完全にアップアップしてしまい、その場にしゃがみ込みそうになった。
そんなみるくの横に、ラテがちょこんと寄り添う。
「みるく?ラテね……わかるんだ。これはね、うんめいのひとってやつ?」
「な、なんでラテがそんなことわかるのぉ!」
「だってラテ、心のスイッチ、ぽちって動くの、聞こえるんだよ〜?」
みるくの胸は甘く跳ねた。
リオンはそんな様子を見守りながら、柔らかく笑う。
……村中が噂で騒ごうと。
……時間が止まろうと。
みるくとリオンとラテだけが知っている、小さな秘密の世界”がそこにはあった。




