第16話 「距離が縮まる音」
夕暮れの広場の空気が、少しずつ日常の色を取り戻していく。
止まっていた風が流れ、子どもたちの笑い声が戻った。
みるくは涙を拭き、何事もなかったふうに笑おうとしたが……リオンがそっと手を差し出した。
「みるくさん、帰ろう。荷物……持つよ」
その声音はいつもより少し柔らかい。
(……優しい。さっきの言葉を思い出す……)
胸がくすぐったくて、また涙がこぼれそうで、みるくはただ小さく頷いた。
広場を歩きながら、ふとリオンが横目でこちらを見た。
「さっき……怖くなかった?」
「え……?」
「突然、時間が止まってさ。普通なら……驚くよね」
みるくは少し考えて、胸に手を当てた。
「……怖かったよ。でも……それより……」
「それより?」
「ひとりじゃないって思ったら……安心できたの」
ぽつりと落とした言葉に、リオンは足を止めた。
夕日の光が彼の横顔を赤く染める。
その顔を見ていたら、人見知りの性格がぶり返して上手く話せない……。
(……こういう時、なんて話せばいいんだろう……)
うまく言葉が見つからなくて俯いたとき……リオンの指先が、そっとみるくの手に触れた。
ほんの一瞬。
けれど、心臓が跳ね上がる。
「ご、ごめん!嫌だったら……」
「……嫌じゃない、よ……?」
か細い声でそう言うと、リオンは呆けたようにみるくを見つめたあと、顔を真っ赤にして視線を逸らした。
「そう……言われると……困るなぁ……」
「こ、困るの……?」
「うん。理性に悪い」
「り、りせい……?」
恥ずかしさでみるくの顔も一気に熱くなる。
そこへ……。
「は~い、君たち、いったん深呼吸して?」
ラテがぴょこんと飛び出して、ふたりの間に割り込んだ。
「ラ、ラテ!? ちょ、ちょっと……!」
「みるく、顔が真っ赤だし! リオンも!」
「そろそろ一回、空気冷まさないと、進みすぎちゃうよ~?」
「す、進み……っ!?」
リオンが盛大にむせた。
「ほら、とりあえず家まで送ってもらいなさい。みるくはまだ体調万全じゃないんだから」
みるくはこくりと頷きつつ、横目でリオンを見る。
リオンは気まずそうに頭をかいた。
「……よかったら、家まで送らせてもらってもいい?」
「うん……お願い」
返事をした瞬間、リオンの表情がふわっと嬉しそうに緩む。
その顔を見たら、自分の胸も温かくなるのを感じた。
二人の距離は、さっきよりもすこし近い。
歩幅も、自然と揃っている。
ラテは後ろをとことこ歩きながら、満足そうに尻尾を振った。
「うんうん。いい感じ、いい感じ。みるく、ようやく幸せの道が見えてきたね」
聞こえていたけれど、みるくは恥ずかしくて答えられない。
ただ……。
(……リオンさんと歩くの、嫌じゃない。)
(むしろ……)
心がほんの少し軽くなる。
この世界で初めて、ひとりじゃない夕暮れを歩いている。
告白なんてまだ早い。
でも、二人の距離は確かに縮まった。




