第12話 「みるく、ちょっとおやすみ」
子ども教室が始まって三回目の朝。
私は目を覚ますと、体がいつもより重かった。
「……あれ、だるい……」
ぼんやりと起き上がった瞬間、視界がふらりと揺れた。
横で寝ていたラテが飛び起き、「みるく!?だいじょうぶ!?」と言いたげに必死に顔を覗き込む。
「ちょっと疲れが出ちゃったのかな……今日は教室、お休みにしよ……」
そう呟いた瞬間、玄関の方から控えめなノックが聞こえた。
「みるくさん……?入ってもいいですか?」
リオンの声だった。
ラテが一瞬「うーん…今は…」と困った顔をする。
でも、私の状態が悪いと悟ったのか、“まあ、許可するか……”という目になった。
私は布団に倒れたまま返事をした。
「ど、どうぞ……」
扉が開き、リオンがそっと入ってくる。
私の顔を見るなり、表情が変わった。
「みるくさん、顔が真っ赤じゃないか。熱がある」
おでこにそっと手を当てられて、一瞬、心臓が跳ねた。
私は慌てて布団を抱え込む。
「だ、だいじょうぶ……! すぐ治るから……」
「だいじょうぶじゃないよ。今日は休んで。教室は僕がひとりで見てくる」
「えっ……!」
リオンは微笑んだ。
「子どもたち、みるくさんのこと大好きだけど、
具合の悪い先生に無理して来られるほうが心配するよ」
……その通りすぎて、何も言い返せない。
「でも……ひとりで大丈夫……?」
「任せて。僕、子どもに好かれるのだけは得意なんだ」
ラテがぴょんと飛び上がり、“師匠として最低限の評価はする”みたいな顔でリオンの肩をぽんぽん叩いた。
だが、ラテが見えるのはみるくだけ。
リオンは自分の肩を不思議そうに見つめていた……。
教室の時間になると、リオンは子どもたちのところへ行き、私は家で布団にくるまって休むことにした。
ぼーっとしていると、額に冷たい布が乗せられた。
「ラテ……?」
小さな体で水を運んできたのか、タオルをくわえて何度も往復してくれている。
そして、私の胸の横に丸くなり、小さな鼻で額を押す。
ふわりと、体が軽くなるような感覚が広がった。
(これ……ラテの癒しのちから……?)
ラテは何も言わず、ただじっと寄り添いながら、
“ずっと一緒にいるからね”とでも言うように尻尾を揺らしていた。
胸がじんわり温かくなって、私はいつの間にか眠ってしまった。
気がついたとき、部屋は夕方の光でやわらかく染まっていた。
そっと起き上がると、リオンが台所で何かを温めている。
「起きた? ちょうど良かった。スープ、作ったんだ。食べられそうなら少しでも」
私は驚いて目を瞬かせた。
「り、リオンさん……そこまでしてもらうわけには……」
「いいんだよ。みるくさん、いつも子どもたちのために頑張ってるんだ。困ったときは、お互いさま」
その言葉に、胸がぎゅっと締めつけられる。
……こんなふうに優しくされたの、いつ以来なんだろう。
スープを口にすると、薄味でとても優しい味がした。
「……ありがとう。」
リオンは照れくさそうに微笑んだ。
「明日にはきっと元気になるよ。無理しないで、ゆっくり休んでね」
その穏やかな声は、スープよりも、布団よりも温かかった。




