第10話 「気付けば、私の周りに輪ができていた」
イベントから数日。
私は村の道を歩いているだけで、声をかけられるようになった。
「みるくさん、おはよう!」
「この前の遊びの日、本当に助かったわ」
温かい声に囲まれ、胸がくすぐったい。
こんな日が来るなんて、前の世界の私じゃ想像もできなかった。
ラテは得意げにしっぽを振り、
“ぼくが守ってるんだよ”と言いたげな顔で私の横を歩く。
そんな朝の散歩の途中……
「みるくさん!」
村長さんが小走りでやってきた。
私は背筋を伸ばして、緊張しながら会釈する。
「先日の催し、とても評判がよくてね。そこで提案なんだが……」
村長さんが息を整えて続けた。
「村の子どもたちの集まりを定期的に行いたいと思っていてね。みるくさんに、子どもたちの“遊び教室”をお願いしたいんだ」
え、私が……教室……?
心臓が跳ねた。
不安と嬉しさが一気に押し寄せる。
「で、でも私、人前に出るのは得意じゃなくて……」
そう言うと、村長さんは穏やかに笑った。
「君の良さは“得意じゃないのに、子どもたちを思って動ける”ところなんだよ。それに……」
村長さんの視線の先に、子どもたちが隠れてこちらを見ていた。
アーシャとルッカ、それに他の子たちも。
みんながそわそわしながら、期待に満ちた目で私を見ている。
「あのね、みるく先生……」
アーシャが近づいて、両手をぎゅっと握りしめた。
「もっと、一緒に遊びたいの。もっと教えてほしいの」
胸がズキンと鳴った。
あまりにもまっすぐな言葉に、息が詰まりそうになる。
私は……。
こんなふうに誰かに求められたこと、あっただろうか。
「……わ、私でよければ……やりたいです」
その瞬間、子どもたちがぱっと弾けるように喜んだ。
大人たちからも温かい拍手が起こる。
気付けば、私の周りに自然と輪ができていた。
家に帰る道、ラテが私の横でぴょんぴょんと跳ねる。
「ラテ、お仕事増えちゃったね。でも、私……ちょっとだけ自信がついた気がする」
そう言うと、ラテは私の足に鼻をこすりつけた。
……みるくは知らない……。
ラテは昨夜、村の大人たちの心の“迷いの棘”をひとつずつ抜いて歩いた。
反対意見も不安も、そっと優しい気持ちに変えていった。
……みるくの背中を押すために。
“ぼくが全部整えるから、みるくは笑っていて”
ラテはそう言いたげに、尾をゆっくり振る。
私は気付かないまま、
新しい一歩を踏み出していた。




