貴女の婚約者が決まりました
「ファウスティーナ
貴女の婚約者が決まりました」
「えっ!?
わたくしの婚約者ですか?」
「ええ、そうです
もちろん、貴女の婚約者ですよ」
「まだ、わたくし、15歳なのですが…」
「あら、貴族でしたら、普通のことですよ?」
お母様に呼ばれて、お母様の部屋に足を運んだ15歳の少女は、その言葉に驚きました。
少女の名は、ファウスティーナ。
彼女は、薄茶色の、ふわふわとした長い髪に、柔らかな印象の琥珀色の瞳をした、ベルナルド男爵家の長女にあたる少女です。
王都の騎士団に所属するお父様と伯爵家出身のお母様、5歳年下の実弟と暮らしています。
長女なので、嫁入り出来る殿方を、探す必要があるのですが、まだ、15歳ですから、思った以上に婚約者が決まるのが早くて驚きました。
「どんなお方なのですか、お母様?」
「貴女のお父様が決めて下さいました。
アレッサンドロ伯爵家の嫡男、ルドヴィーコ様というお方でございます。金髪に濃い碧眼、19歳の騎士見習いの青年です。」
「アレッサンドロ伯爵家の!?」
お会いしたことはありませんが、騎士学校で、首席として、名前が上がっていたお方です。
つまり、卒業しましたら、お父様と同僚になる予定の見習い騎士ということになります。
しかし、そのお方は………
「大変優秀なお方だと思いますが…」
「ファウスティーナ、不安なのですか?」
「そのルドヴィーコ様とケルディーノ伯爵令嬢のマルティーナ様が恋仲になられたという噂話が巷で広まっているようなのですが…」
「まあ! そのような噂が!?」
マルティーナ様は、大変美しい金の長髪にぱっちりとした黒目の、18歳の美少女です。
彼女は、数多の殿方から婚約者になって欲しいと言われている中で、ルドヴィーコ様を選び、恋仲となったと聞いていますよ?
「その噂は、本当ですの?」
「私は、シャリーナ姉様から聞きました。」
「まあ! シャリーナ夫人が言っていたのなら、本当かもしれませんわね。」
シャリーナ姉様は、父方の従姉にあたります。
ラナンス男爵家の長女で、ターナー伯爵夫人となられたお方です。
社交界で、それなりに有名人なので、いろんな情報を教えてくださるのです。
その噂が本当のことでしたら、3歳年上の伯爵令嬢を敵にまわすことになるのでは?
我が家は、ごく普通の、男爵家です。
後ろ盾として、2つの伯爵家がついてはいますけれど、さすがに、伯爵令嬢を敵に回したくはありませんよ?