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「お嬢様。ではこいつらが目を覚ます前に仲間を退治しに参りましょう!」
退治って、鬼じゃないんだからさぁ。それに天使的にその発言はどうなの?
なんだかやる気になっているピアが張り切って歩き出す。
居場所は分かっているらしいから案内は任せるか。
「その前にこいつらをたたき起こします。このままで別の者に襲われるのも面倒かと」
「そんなことができるのですか!?」
ピア、何驚いてるの? 自分にできないことは他の人にもできないって思ってた? まあ、あるよね。そんなことも。ぶっちゃけ私もそう思ってたし・・・。
ヴィオは主らしい商人を目覚めさせる。
「おまえの要望通り助けた。報酬をいただこうか」
「報酬だと!」
あっ、まだ僕にはしてないみたいだね。何でかな? ピアの天罰の途中で目覚めさせたから改心してないみたいだし大丈夫? 何か考えがあるんだよね?
「当然だろう。お主は命拾いをしたのだ。その命に見合った謝礼は出すべきだろう?」
「フン。金貨の一枚も渡せば満足か!?」
「自分の命の価値が金貨一枚だと言っているのか?」
「私は命を落としていない。それにただの平民ごときがあまり欲をかくものではない。この先も護衛を務めるというのならもう少し上乗せしても良いが働きに見合った報酬しか出せん」
この商人は周りの状況を見てもまだ強気で居られるってある意味凄いよね。これが交渉術ってものなの? 金貨一枚の価値が分からないからなんとも言えないけど、あからさまに私たちを下に見た態度だよ。助けられたと思っている自分が今度は私たちにやられるって考えてもいないんだろうな。
「話は決裂したな」
ヴィオが商人の額に掌が触れた瞬間商人が項垂れた。
「お嬢様の要望だ。これからは阿漕なことはするな。この荷馬車は取り敢えず私たちが使わせて貰う良いな?」
「仰せのままに」
驚いたことにあれほど強気だった証人がヴィオにあっさりと跪いたよ。びっくり。
「お嬢様、馬車を手に入れました。これで旅が少しは楽になりますね」
葵はヴィオの商人に対する態度と葵に対する態度が違いすぎてちょっと呆気にとられてしまう。
でもさぁ、馬車を手に入れたらこの先の歩き旅は楽にはなるだろうけどもう飛んでの移動はできないって事だよ。それって逆に不便だったりしない? でもまぁかえってその方が良いのか。
それより・・・。
その笑顔なんだか怖いよ?
「そ、そうね」
でもやっぱり本当に良いのか? ただで荷馬車貰っちゃって。まぁ、何にしても今更か。ヴィオが言ったように商人の命の値段だと思えばきっと安いものなのだろう。
「この商人の性格があからさまに変わってしまっては周りも不審がりましょう。それにこの先役に立って貰うにはこのままの方がやりやすいかと判断させていただきました」
「任せるよ」
葵はそう言うのが精一杯だった。
そしてヴィオは商人側の人間を目覚めさせると手際良く次々と僕としていく。
「おまえたちはこの場でしばらく待機だ。面倒ごとは上手く避けるように。それからこいつらは目覚めてもそのままにしておくように」
目を回したままの暴漢盗賊たちを縛り上げまとめて転がしていた。
暴漢盗賊たちには心から改心して貰わないと意味が無いからやっぱりそうなるよね。ピアの天罰はしっかり最後まで受けてもらおう。
「では参りましょう!」
今度は自分の出番だとばかりに張り切って歩き出すピア。街道を外れ道無き森の中を歩くのは足場が悪く思った以上に疲れる。それに夕べはヴィオに抱えられてたとはいえ寝てないしね。
「ねぇ、抱っこして」
思わず発した自分の言葉に葵は愕然とする。
いやいやいや、あり得ないよね? 何言っちゃってんの? 恥ずかしい! きっと幼児の体に心が引きずられたのだと思いたい・・・。だって本当に疲れたんだもの・・・。
「気がつきませんで申し訳ありませんでした」
赤面する葵を軽々抱き上げたヴィオが申し訳なさそうにするのが痛い。ホントごめんよ・・・。
「ありがとう」
ボソッと呟いたお礼の言葉はちゃんと届いたようでヴィオが微笑んでくれた事に葵は安心したのだった。