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「誰かー助けてくれーーー」
助けを呼ぶ声に葵がそちらを確認すると、休憩地から先に出立したらしい荷馬車が暴漢に襲われている。
「誰かと言ってはいるがあの者どもには私たち以外見えては居ないだろうに白々しい」
ヴィオ、そんな身も蓋もないことを・・・。
「勿論お助けするのですよね?」
ピア、攻撃ができないから? 自分で助けるという選択肢は無いの? 確認されても私も助けることはできないよ。
「ヴィオお願い」
「助けてもお嬢様に利はありませんよ」
さすが悪魔。冷めてるなぁ。
「それでも助けを求められたのに死なれでもしたら寝覚めが悪いわ」
「お嬢様。人間というのは一度助けると際限なく要求をするようになりますよ。さらにこちらに利用価値があると判断すると見境がなくなる生き物なのです。ですから関わるだけ無駄。このまま放っておいてあの荷馬車を手に入れる方がお嬢様の為になるかと」
「それでも助けたいの! 自己満足よ悪い?」
自分の力で助けられないのがもどかしい。でも、この場で今あの人たちを助けられるのはヴィオだけだ。自分でできないことを人に強要するのは気が引けるけど、そんなことは言ってられない。
「ふぅ・・・。仕方ないですね。襲っている奴らを消し去れば良いのですね?」
「それはマズいわ。そんなこと目撃されたらヴィオが悪魔だってバレるじゃない。消し去る以外の方法でお願い」
「御意」
ヴィオが勢いよく駆け出す。
「あのぉ、お嬢様。ちなみにですが襲っている者どもは勿論悪いのですが、襲われている方にも罪はあるかと思うのです。放っておくと片方だけが殲滅されますよ」
「何が言いたいの?」
「私は深く関われないので・・・」
ったく、まだそんなこと言ってるし・・・。
「じゃあ、ヴィオが殲滅してしまう前に例のおたま攻撃で眠らせれば良いじゃない。詳しい話はそれから聞くわ。早く行って」
「わ、分かりました!」
葵は走り出したピアを追いながらヴィオに待ったをかける。攻撃を仕掛ける寸前でどうにか間に合った。
ヴィオは物理攻撃で倒すつもりだったみたい。お城で手に入れた剣を手にしているし。
ヴィオの登場で場が凍ったように止まったところにピアが乱入。おたまを片手にコンコンコンと良い音を響かせ暴漢たちを次々と倒していく。
見ているととっても痛そうに思うけど多分痛みはそんなに無いんだよね? 精神的なダメージだけだってピアは言ってたし。たんこぶができてないから信じるよ。
「ごめんねヴィオ。強要しておいて止めさせるなんて事して」
「いえ」
「おい! こちらに被害が出たぞ。もっと早く助けるべきだっただろう」
うへぇ~。こういうタイプだったのかぁ。
「お嬢様への暴言許せません。消し去っても?」
だからすぐにその考えになるのどうにかできないかな? 確かに言葉の暴力ってのはあるから、ヴィオが腹を立てるのも分かるけどさ。
「これはあなたたちへの天罰です!」
コンコンコンコンコン!!!
ピアのおたま攻撃の方が早かったようで、馬車の中に居た者たちまで倒れていく。
ピアも意外に素早く動けるんだね。それにその台詞は決まり文句なの? 言わないとダメなやつ? もしかして言わないと効果が無いとかかなぁ・・・。
「この者たちは王城の異変を素早く察知し国が乱れる前に出てきた商人ですね」
「ピアにはそんな事も分かっちゃうんだね」
って事は商人としては判断力や決断力に長けているって事なのか。それはそれで凄いよね。性格はアレだけど。
「お嬢様。私から提案がございます」
「何よヴィオ?」
「この者どもを私の僕としてもよろしいでしょうか?」
「僕って悪魔の眷属にするって事?」
「いえ、眷属にするまでもない輩です。お嬢様のために働かせるだけのただの手足です」
「それって奴隷みたいな感じ?」
「いえ。こやつらの利益を取り上げるのではなく少々利用するだけの話です」
何をどう利用するって言うのだろう? でもヴィオには何か考えがあるようだし、消し去る発言に比べたら平和的ともいえる。それにこのままこいつらを野に放って悪事を働かれるよりはマシなのか? まぁ、いいかぁ。考えたって未来は見えないしね。
「あくどい事は無しだよ。こいつらにさせるのも絶対にダメだからね」
一応念を押しておこう。
「お嬢様。でしたらこの者どももそうすべきです! 探せばまだ仲間が居るのですから放っておけないでしょう」
えっと、ピア? さっきは深く関われないって躊躇してなかった? それとも何か吹っ切れた? でもまぁ、この暴漢盗賊たちを改心させればこの国の男尊女卑的古くさい意識改革には役に立つのかな。
「ヴィオ的にはこいつらも何か役に立てそう?」
自分でできないことは誰かに相談するのは良いとして強要はしない。こいつらにはこれからは奪う生活を改めて貰って建設的に生きて行って欲しいけどね。
「お嬢様が必要だと考えるのでしたら私はかまいませんよ」
「じゃあお願い」
ヴィオはこうして僕を抱える事になった。
だけど、本当に大丈夫か?