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夜がうっすらと明け始めた頃、葵たちは街道に降り立ち歩いていた。

やっぱり飛んでいるところを見られるのは騒ぎになりそうで面倒だしね。


「どこかで馬車でも手配するってできないの?」

「王城にあった馬車を拝借してくればよかったですかね?」

「ピア、それはダメだよ」

「なぜです?」


この天使は犯罪意識に無頓着になったのか? 先々がちょっと心配なんだけど・・・。


「王家の所有する馬車になんて乗っていたらそれこそ大騒ぎだよ。私たちは一般人なんだよ。目立たないのが一番だよ」

「そ、そうですね」

「昼はどこかでゆっくり休み、このまま夜に移動すればよろしいのでは?」

「ヴィオ、それじゃぁまるっきり昼夜逆転生活になってしまうじゃん。ヴィオはその方が良いのかもしれないけど、やっぱりそれはそれでどうかと思うんだよ。急ぎの時は仕方ないだろうけどさ。何にしてもお腹が空いた。ピアどこか休めるところで何か作ってよ」

「分かりました。ではこの先の休憩地で少し休みましょう」

「休憩地?」

「街道を行く馬車や旅人が休む為に整地された場所ですね」


高速道路のパーキングエリアみたいな感じなのかな? でもフードコートやお土産物売り場はきっと無いよね・・・。あっ、なんだかソフトクリームが食べたくなってきた。


「ねえ、ピア。ソフトクリームは作れない?」

「ソフトクリームですか? 牛乳がありませんね」

「牛乳があれば作れるの!? じゃああのお高いアイスクリームとかも可能?」

「バニラビーンズや果実に抹茶にチョコレートといった食材がないのでまったく同じ物は無理です」


ピアは葵の記憶の中から葵が食べたことのある高級アイスクリームを念入りに調べたのか、何やら目を輝かせている。その顔からしてピアも食べたいと思ったのは間違いない。食材が揃えばきっとピアが似たものを作ってくれるだろう。ならば今はこの世界でも食べられると分かっただけで十分だ。アイスクリームだけじゃ無くパフェやクレープも絶対に食べたい! 何ならスナック菓子だって・・・。そうだ、持ち合わせに無い食材を捜す旅って言うのもいいね。


「何にしても取り敢えず牛乳を手に入れよう! そうすればバターにチーズも手に入れたも同然よね」

「山羊の乳も美味しいと言う意見もありますよ」

「その辺の研究はピアに任せるよ。私は食べるの専門にする」

「見えてきましたね。あそこがそうです」


食べ物に気をとられている間に休憩地に着いていた。やっぱり楽しい話をしていると時間ってあっという間に過ぎるよね。


朝が早いせいか休憩地にはまだ何台かの馬車が止まっていて、出発の準備を始めているのか人の動きもあった。


「馬車って夜の間はやっぱり走らないんだね」

「暗いですし夜は魔物の動きも活発になると言われてますから」

「魔物がいるんだ?」

「近づく魔物はことごとく消し去っていますからご安心を」


えっ? 知らない間にそんなことしてくれてたのヴィオ。そのお辞儀の仕草も素敵よ!


「ありがとうヴィオ。何も言わないのに知らない間にしてくれるってそうそうできない事だよ凄いね」

「私は朝食の支度を始めます。お嬢様何か食べたいものはありますか?」


ヴィオを褒めたので対抗意識でも燃やしたのかピアが詰め寄ってくる。


「じゃぁ、おにぎり?」


ふと頭に浮かんだのは明太子のおにぎりだった。

なんとなくだけどおにぎりって日本人のDNAに組み込まれていると思うんだよね。かなり昔から食べられているみたいだし、きっと嫌いな人は居ないだろう。ふと思い出して食べたくなることもあるし。


「お米も海苔も明太子も鮭もありません~」

「味噌を塗って焼いたおにぎりも好きだよ」

「味噌もまだありませんけど参考までに覚えておきます!」


泣き出しそうになったりフンスと気合いを入れてみたり、なんだか忙しいピアを見て葵もさすがに申し訳なくなる。

別にいじめてる訳じゃないよ。感情豊かなピアの反応にちょっと好感を持っただけだからね。


「ごめんごめん。簡単に食べられるものが良いと思ったんだ。ピアに任せるからお願い。その辺はピアを信頼する」

「そ、そうですか。是非お任せください。では、急いで作りますね!」


どうにか機嫌を直してくれたようでよかった・・・。

ピアはいそいそと調理用の魔導具や鍋などを異空間から取り出し調理を始めた。

えっと、人目があるこんな所でそんなに堂々と調理を始めて大丈夫なの? それも考えて簡単な物って言ったつもりだったのに・・・。ほら、やっぱり注目を集めてるよ。どうするの? あっ、ヤバい。ヴィオが殺気立ち始めちゃったじゃない・・・。


出発準備に忙しい一団とは別の何やら怪しげな男たちがピアを取り囲んだ。


「随分と便利そうな物を持ってるじゃないか。俺たちが使ってやろうか」

「何なら姉ちゃんごと使ってやるぜ」


ヴィオは葵のことしか考えていないのか、葵を無視してピアに迫る男たちに興味をなくしたようだ。

このままじゃピアが襲われそうなんだけど大丈夫なの? ヴィオ助けてくれるよね?

葵が不安で声も出せずオロオロしていると、ピアが手に持っていたおたまを振り上げた。


「コレはあなたたちへの天罰です!」


コンコンコン!!


凄く良い音が鳴り響き、男たちの頭におたまの打撃がヒットすると男たちは文字通り目を回してその場に倒れた。

おたまって凶器だったんだね。それ鉄製だよ。かなりのダメージじゃないの? 音だけだから平気って、ホント? 信じるからね!


「ねえピア。彼らはどうして目を回してるの?」

「彼らには自分が過去に犯した悪事を見せています。そしてその被害者側を経験させているのです。罪が軽ければすぐにでも目を覚ますでしょう」


やられたらやり返すってアレかな? それなら倍返しくらいしても良いと思う。何やら苦しそうにうなっている男たちを見ると相当罪も深そうだ。

くわばらくわばら。私は間違ってもあのおたま攻撃を受けないように気をつけようっと。多分そんなにあくどい罪は犯していないと思うけど、知らない間に誰かを傷つけていることもあるからなぁ・・・。


「天使ってそういう事もできるんだ」

「本来は罪を判断し天罰を与えるのは神の仕事なのです。ですが個人に対してなら私でもこのくらいのまねごとはできるんです!」


神は一人一人を相手にはしていられないって事なのかな? だったらやっぱりこの国が犯した罪を罰して欲しいと改めて願うよ。


「こいつらが反省して改心すると良いね」

「そう願うばかりです」

「私は無駄だと思いますけどね。こういう輩は消し去る方が手っ取り早い。こんな風に歪んだ魂もそれなりに好きなんですよ」


ヴィオがまた不穏な発言をし出したからこの話はこれでお終い。


「この男たちは簡単に起きそうもないし放っておきましょう。それよりご飯にしようよ」

「そうでした。すぐにできあがります。ヴィオも召し上がりますよね?」

「私は必要ないです」

「そうなのかぁ。じゃあ食べたくなったらその時は付き合ってよ。やっぱりご飯は大勢で食べる方が美味しいって思うし、それに食べない人と一緒に居ると気になっちゃうんだよね私は」

「何を気にするというのですか?」

「食も一種の欲でしょう。欲って罪を作りやすいっていうか、見せびらかして食べてるようで気が引けるんだよ。それなら分け合った方が気分良く食べられるって思っちゃうんだ」

「おかしなことを考えるんですね。しかしお嬢様がお望みならそれも致し方ない。気分よく味わえるよう私もご一緒しましょう」


悪魔も天使も普段は何を食べていたんだろうか? 何にしてもピアが作ってくれた具だくさんスープは三人で食べるととても心に染みる気がしました。



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被害者側を経験。すばらしい天罰
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