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「ところでさ、大魔法使いは別の場所に居るって言うから離れたところにいるのかと思ってたのに意外と近くにいたんだな」
「ううん、隣国だよ。それにみんなのこと名前で呼んでよ。もしかしてモーヴは大賢者様って呼ばれてたいの?」
「そんなことないけどって、隣国からどうやったらここまでこんなに早く来られるんだよ!」
「さっきも言ったでしょう転移だよ転移。転移魔法使ったんだって」
「なんだよその魔法。転移なんて言葉聞いたこともないぞ」
「あれっ、転移知らない? 私の居た世界では常識だったよ」
「そんな常識知らないぞ!」
モーヴは地球からの召喚者じゃないって事なのかな。それとも千年も昔だから知らなくて当然なのかな。
「私の居た世界では鑑定とアイテムボックスと転移魔法は召喚者の三種の神器と呼ばれて定番だったよ」
「そうなんですか!?」
何でピアが驚くのよ。
「じゃあ、ぁ、ぁ、葵も使えるのか?」
名前を呼ぶのってそんなに大変? うっすら顔を赤くしてなんだかちょっと可愛いかも。
「そんな訳ないじゃん。作り話として有名だっただけで実際にそんな能力持ってる人なんて居なかったし」
「なんだ作り話かよ」
「作り話を馬鹿にしちゃダメなんだよ。そういう想像が創作に繋がるんだからね。いずれは本当に実現するかもしれないんだよ」
スマホなんて昭和時代の夢が詰まった最たるものだってお父さんもお母さんも言ってた。夢は実現可能だって。考えることが大事だって。
スマホが使えなくなった今その言葉の意味がようやく理解できた気がするよ。
「それでこれからどうするんだよ。いったん部屋に戻ればいいのか」
「ピア、不老不死の解除にどのくらい時間がかかるの?」
「そんなのやってみないと分からないじゃないですか。加護を外すのなんて初めての事なんですから」
「大丈夫なの?」
「大丈夫ですって。この私にすべてお任せください」
その自信満々なところが不安を煽るんだってば・・・。
「お嬢様一つお伺いしてもよろしいですか?」
「何よヴィオ」
「それでこの先エルンスト国へ戻る予定はあるのでしょうか?」
「そうよね。ピアが来たって事はもう戻る必要もないのよね。ピア、もう戻らなくてもいいんでしょう?」
「ええ、必要な事は済ませてきました!」
そんな簡単に済ませられたんなら始めからそうすればいいのに。って言ってもあの時はそういう判断できなかったんだろうな。私もピアも。
「そういう訳よ。それでヴィオは何か予定があるの?」
「この国での商会の活動に少し本腰を入れたいのですがよろしいでしょうか」
「また時間がかかりそうね」
「すでに動いている者も多く基盤は整っておりますのでお嬢様をそうお待たせはしないかと思います」
「別にいいよ、気が済むまでやって。私はピアとモーヴに少し魔法を教わるから」
「そうなりますとお嬢様の滞在先を急ぎ用意いたします」
あっそうか。すっかりあの居心地の良さそうなモーヴの部屋に居候する気満々だった。でもあの部屋にピアと二人で押しかけるのはさすがに問題があるよね。
「城に部屋を用意させるよ」
「いや、それはちょっと勘弁して。貴族の屋敷でも気が休まらないのにお城でゆっくりのんびりなんてできないよ」
「下手に部屋から出るからそう思うんだよ。城の中だなんて思わなきゃ別にどこでも一緒だろう」
普通に部屋から出たいってば。街の散策だってしたいしね。
って、そうだった。あの悪人ホイホイの妙な設定の事があったんだ。
あっ、でも、あれぇ・・・。
「ねえピア、加護は外せるのよね。だとしたら私のあの妙な設定ももしかして本当は外せるんじゃないの?」
「・・・・・・」
「黙ってるって事はそういう事だね。今すぐ外して!」
「だってお嬢様ぁ~」
「だってじゃないよ。ピアの悪人成敗は反対しないし協力もする。だからお願い今すぐ外して。これ以上下手に絡まれたりしないで済むなら絶対にその方がいい。心の平和を取り戻せるならホント協力するからお願いだよ」
ピアが天罰炸裂させたいなら邪魔しないし反対しない。たまになら売られてもいない喧嘩を買いに行って悪人探してもいいよ。
「仕方ないですね。もうホント大変なんですよ一度授けたものを外すのって」
何言ってんの。勝手に授けといてその態度はないんじゃない。今は一刻も早く外して欲しいから黙っておくけどいつか仕返ししてやる。
「それでは私はお嬢様の滞在先を決めて参ります」
「ええお願い。できれば街の探索がしやすそうな所がいいな」
「御意」
悪人に絡まれなくて済むなら思う存分街の中を見て回れるよね。
あぁ、やっと本当の自由を手に入れられる気分だよ。
「お嬢様は魔法の修練をするのですよね」
「するわよ。するけど街の探索もしたいでしょう」
分かってるよ。魔法の修練もミサンガ作りもするよ。分かってることをいちいち言わないでよ。テンションが下がるじゃない。これだからもう・・・。