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「まぁ済んでしまったことを嘆いても仕方ないわね。取り敢えず使えそうな物をいただいてココを出ましょうか」
「まぁ、そのような事・・・」
「私に対する慰謝料で正当な要求なの。それにこの先何をするにもお金は必要よ。それともピアがすべてどうにかしてくれるの?」
「そ、それは・・・」
「じゃあグズグズしない。手分けして使えそうな物を集めましょう」
葵は二人と別れ本能の赴くままに食堂を探して城内を彷徨った。そう、とてもお腹が空いていたのだ。
ヴィオとピアはきっと食事をしなくても平気な属性なんだろうけれど、朝から何も食べていない上に色々ありすぎてもう限界だよ。
お城の食事ならきっと美味しい物が見つかるはずだと葵は期待値MAXでスンスンと匂いを頼りに城内を歩く。すると思った通り何やら美味しそうな匂いが漂いだしている。
やったね!
走り出して見つけた部屋はどうも使用人たちの食堂のようで、ちょっと広い空間にテーブルと椅子が並び何人か分の食べかけの食事がテーブルの上にある。勿論食べかけを食べる気にはなれず続き部屋になっている調理場へと足を運ぶ。
あるじゃんあるじゃん。
多分使用人用のだろう料理が鍋にまだ残っていたので葵は迷うことなく食器によそい、パンとカトラリーを手に持ち食堂へと入り直す。
この際お腹に入るなら贅沢は言わないよ。食べることは生きること。それにコレを作った人の為にも無駄にはできないしね。
「いただきます」
パンと言うよりスコーンのようなそれを噛み砕きながらスープを口にする。
まぁこんなものか。
野菜くずや肉片がごちゃごちゃに煮込まれたコンソメスープ擬きはちょっとだけ薄味で物足りない感じもしたがけしてまずいと言うほどでもなかった。
空腹が何よりのごちそうと言うしね。
葵がスープをおかわりしようかと考えているとヴィオが戻ってきた。
「やはり人間の財宝に対する欲は尽きないようです」
どこから取り出したのかテーブルの上にジャラジャラと金銀宝石の類いが山積みされる。
これはいったいどこから出したの? ああ、別空間に収納できるのですか、それは凄いですね・・・。
でも宝石などの装飾品なんて私には必要ないよ? 別に欲しいとも思わないし、売るのも面倒くさそうだしこのお金の類いだけいただいておこうか。
武器や防具? そんなのもっと必要ないよね? 私じゃ絶対に使えないよ。えっ? 今更戻すのも面倒ですか。ええ、別に邪魔にならないならどうぞ好きに保管しておいてください。
思っていた以上の収穫を喜ぶヴィオに葵が少しだけ呆れているとピアも戻ってきた。
「使えそうなものと言われましても私では判断できませんでしたぁ~」
「それでその本?」
エルは両手に何やらお高そうな装飾の本を山と抱えていた。
「ええ、魔法の本に魔導書の類いですのでお嬢様のお役に立つかと思いまして・・・」
「あっ、ありがとう」
そうね魔法の修練をするって言ったわ、そういえばさっき。ちょっとだけ忘れてたけど・・・。
「それよりピアに聞きたいんだけど。料理の材料があれば私が食べたいものを作れたりする?」
「お任せください。お嬢様の記憶にあるものを忠実に再現して見せましょう」
「本当! 本当にホント!?」
ピアは持ち上げといて落とすのが得意だからね。かなり不安なんだけど信用しちゃうよ? 幼児化してしまったこの体で今まで通り自分で料理できるか不安なんだよ大丈夫? それにお助け調味料の数々も無いけど本当に大丈夫?
「再現や作り替えは私の得意とするところです。お任せください!」
葵の不安をよそに自信満々に胸を張るピア。
その態度がすでに不安を煽るって気づいてないのかな・・・。
「じゃあさ、ここにある食材や私の着替え用の衣類を作るための布が必要なんじゃないかな。使えそうなものってそういう意味だよ」
「そっ、そうですね」
「ついでに聞くけど、ヴィオは収納空間を持ってるみたいだけどピアはそういうの無いの?」
「それくらい私にもできますよ!」
いやに自信ありげに胸を張るけどじゃあ何で両手に抱えて持ってきたの? なになに、見せたかったとな。要するに深くは考えて無いんだね。だからさぁ、そういうところがポンコツだって言われる所以だよ。
ふぅ~。多分言っても理解できないよねきっと。
葵はピアを手伝って食材や調理器具に便利そうな魔導具の類いと縫製前の布を見つけどんどん収納させる。それはもう有無を言わせず遠慮などせずにありったけ。
だって必要でしょう。衣も食も絶対に! それだけは譲れないよ。まぁ、住はいずれ目的を果たしてからね。住みやすい楽園が見つかるといいなぁ、この世界に・・・。
「さあて、準備ができたならこんな所はさっさと立ち去りましょう。誰かに見つかるのも面倒だからね」
「次はどちらへ?」
「だから召喚場所を消滅させるって決めたよね? 私はその場所を知らないよ。知っているピアが案内してよ」
「そ、そうでしたね。ではまずは隣のエルンスト国へと参りましょうか」
「僭越ながら私がお嬢様をお抱えし飛んで行けば時間の短縮が可能でございます」
ヴィオがとても魅力的な提案をしてくる。
「そうね。面倒になったら頼むけど今は明るいから止めておこう。誰かに見られて騒がれるのは面倒だわ。それに折角だからこの世界をのんびり旅してみたいし、ピアに現実を見ろって言って手前もあるしね」
「お嬢様。魔法の修練もお忘れ無く!」
「そ、そうね。じゃあ今度こそさっさと出発しましょう」
葵たち一行は城内ですれ違い始めた人々のざわめきを無視して堂々と城門から街へと出たのだった。