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「ちょっと離して。一人で歩けるわ!」

「おまえ本当に子供か?」


あっ、ヤバっ。ここは本当の幼女だったら怖くて泣き叫ぶところか。子供だった頃のことなんかすっかり忘れてるし身近に幼い子供なんて居なかったからなぁ。

でも私はヴィオを助けるって決めたの。泣き叫んでいる場合じゃないのよ。


「私をいったいどうする気?」

「その答えを私は持っていない。私はおまえを賢者様の所へ連れて行くだけだ」


やっぱり居るんだ。賢者。いったいどんな人なんだろう。魔法を極めた長い白髭の仙人のような人で、スッゴい魔法をバンバン使ったりするんだろうなぁやっぱり。


でもそんな人がいったい私に何の用があるって言うんだろう?

あっそうか、ヴィオをあんな目に遭わせた張本人だ。どんな魔法であのヴィオを拘束したんだろう? 当然解除もできるんだよね?

何が何でも絶対解除させてやる。もし解除できなかったらタダじゃおかないんだから!


それにしても随分歩くのね。いったいどこまで行く気よ。だんだん人の気配もなくなってきたけど大丈夫なの? 地下牢から出されたらもっと厳重に隠された拷問部屋なんて事はないよね・・・。

さすがにこんな幼気な可愛い幼女を拷問なんて・・・。しないよね?


「知りたいことは何でも素直に話します。けして抵抗しません。お願い痛いのだけはやめて!」


葵は人気のほとんど無くなったお城の奥まった部屋の扉が開くと同時に叫んでいた。


「ハハハ、面白いことを言う子だね」

「へっ、け、けんじゃ、さま?」


想像していたよりずっと若い声にその姿を確認した葵は思わず部屋中を確認しそして戸惑った。

やたらと居心地良さそうなその部屋にはどう見ても十五、六歳の青年しか居ない。それも部屋着としか思えない身軽な服装でソファーにゴロンと転がり寛いでいる。


何この超羨ましい状況。私の憧れが詰め込まれてるじゃない。そうよ私もこんな部屋でゴロゴロダラダラしてピアが作った美味しい物食べて平和にのんびり過ごしたい!


「君、本当に子供?」

「な、なによ急に」

「僕の質問には何でも素直に答えるんじゃなかったの?」


あっ、そうだった。予測とのあまりのギャップにすっかり動揺しちゃった。ヤバいヤバい、ヴィオを助けなくちゃいけないんだった。


「召喚された時に怒りにまかせて悪魔を召喚したら反動でこの姿になったのよ」


信じるか信じないかは分からないけど素直に話したわよ。正直に話すって言った手前嘘をついて罪を重ねたくはないしね。


「へぇ、じゃあ君も召喚者か」


・・・・・・君も?


「って事は、あなたも?」

「そう。本当に迷惑な話だよね」


ホントホント。


「ねぇ、あなたはどんな世界からいつ召喚されたの?」

「僕はもう数えるのも面倒なくらい遙か昔。多分千年くらいは余裕で経ってるかも」

「えっ?」

「信じられないよね。召喚された影響なのか不老不死になったみたいなんだよ。僕がいた世界は戦争が絶えなくて、この世界に来たときは魔法が使えることに興奮して帰りたいなんて考えもしなかった。少なくとも僕がいた世界よりは何も無いけど平和だったからさ。でもさぁ、不老不死って辛いよ。本当にここに来るまで大変だったんだ・・・」

「どう大変かはちょっと想像がつかないけど、うん、冗談でもネタでも無いのは伝わってるよ」

「君って素直なんだね。僕の嘘だとか演技だとは思わないの?」

「嘘なの?」


そうじゃないって信じたい。第一私に嘘をつく理由がないし。


「まぁ昔の事なんて忘れてる事も多いし、自分でも嘘か本当か分からなくなることはあるね」

「でも大事なことは忘れられないでしょう」

「確かにそうだね。姿が変わらないことを不審に思われヴァンパイアと疑われ襲われ街を追われたり、僕が使う魔法の威力に目を付け利用しようとされたり、そりゃあ辛い思い出ほど忘れられないね」

「そんなことが・・・」

「何しろ僕は人よりかなり長い時間魔法の研鑽ができたからね。良かったのか悪かったのかは判断に困るけど、でもそのお陰で今の生活があると思えばまぁ良かったのかな」

「そうなんだ」

「君さぁ、人ごとのように聞いてるけどもしかしたら君も不老不死かもしれないって考えないの?」

「えっ!」

「僕が召喚されて不老不死になってるんだから当然君もそうかもしれないよね?」

「ええぇぇーーー」


考えもしなかった。


「困るわ、それは。このまま姿が変わらないとなったら一生永遠に幼女のままって事よね。私だってちゃんと成人してお酒も飲んでみたいし素敵な人と出会って恋愛だってしたいのに!」


彼の姿が千年も変わらないって事は私もこの幼女の姿のままって事でしょう。

あっ、でも小説じゃ長命のエルフはゆっくり成長するんだっけ? って事は成長する可能性はあるのか?


「君の考えるところはそこ? まぁ僕も確かに始めは不老不死をちょっと喜んだけどね。でも実際そうなってみると辛い事の方が多いよ。君もそのうち分かるだろうけどさ」

「何よ。はっきり言ってよ」

「まず恋愛はできなくなるね」

「何でよ?」

「大事な人はみんな僕より先に死んでいくんだよ。永遠に看取り続けるんだ。そうなるとそれが辛くて人と関わり大事な人を作るのが怖くなる。子供や孫の見た目が自分より大人になっていくのもちょっと辛かったけどね」

「確かにそうかも」

「それに人間あまりにも退屈だと死にたくなるんだよ。まぁ、どうやっても死ねないけどね」


サラッと言ってるけど何度も死のうとしたって事?


「退屈だったの?」

「充実していたと思うかい?」

「少なくとも今のこの状況は私の憧れていたものだわ」

「ここに来るまでが大変だったんだよ。国を乗っ取ったり。少なくとも人の記憶を操作できるようになるまでは僕に安住の地はなかったね」

「私には想像も付かない苦労があったって事だね」

「これからは君もその苦労をするんだ。まぁ頑張って」


何そのヴィオみたいな笑顔。ちょっと怖いわ。


「まだ私が不老不死だなんて決まった訳じゃないでしょう」

「ああそうか、それでその暢気な態度なんだ。君ってかなりイライラするよ」

「ごめん。でも明日のことは明日の私が考えるから大丈夫。それよりヴィオの拘束を解いて欲しいの」


今の私の一番の目的はヴィオの事よ。私が本当に不老不死かなんて問題はそのあとあと。


「そうだった。なんで君拘束されなかったの?」

「何でって聞かれても私にも分かんないわよ」

「僕はもう二度と召喚者が現れないようにあの紋章に手を出した者に対してトラップを仕掛けたんだ。だけど君のような例があっては困るから対処法を考えないといけないんだよね」

「でも本当に自分でも分からないから答えようが無いわ。だけどあの紋章は綺麗に消したからここではもう二度と召喚される事は無いわよ」

「あの紋章を消しただと!?」

「そうよ、ちゃんと消したわ。私も私のように召喚される人が無いようにあちこちにあるという召喚の紋章を消す為に旅をしていたのよ」

「どうやって消したんだ!」

「どうやってって、ピアに教わった魔法で・・・」

「ピア?」

「そうよ。ここには一緒に来てないけど私にはもう一人仲間が居るのよ。その子に教わった魔法よ」

「ふぅ~ん。・・・・・・」


やだ何よ急に黙り込んじゃって。ピアの話はしない方が良かったのかな?

って言うかこの子は他の国の召喚の紋章はどうでも良かったのかな?


「僕の知らない魔法がまだあるなんて実に興味深い。是非その子に会わせてよ」

「合わせてくれって言われてもこの国には居ないのよ。今は別行動中で・・・」

「じゃあ僕が会いに行くよ。この部屋から出るのも随分と久しぶりだが大丈夫だろう。すぐに案内して」

「ダメよ。その前にヴィオの拘束を解いて。じゃないと私は何もできないわ」

「仕方ないな。君が地下牢に戻るまでには拘束は解いておくから迎えに行って。僕もその間支度をするから裏庭で待ち合わせしよう」

「分かったわ。ありがとう」


葵はヴィオの拘束が解かれると聞いて勢いよく部屋を飛び出していた。



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