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「ところでお嬢様。ピアの方はまだまだ時間がかかりそうなのでその間私と一緒に出かけてみますか」
どういう訳かミサンガ作りの話が屋敷の外へも漏れ、仕事として教わりたいという人が増えたらしくピアはその指導に思いのほか苦労しているらしい。
「私が変な愚痴を言ったから気を遣ってくれるんだねありがとう」
「いえいえ、お嬢様の鬱憤を晴らすのも私の役目です」
「どこでもいいのよね?」
「ええ、お嬢様のお望みのままに」
行きたい所と聞かれたらこの街の中も見て回りたいし、日本に居たときには見られなかったこの国なりのいろんな景色も見てみたい。
けど、やっぱり最初の目的である召喚の紋章をまだ一つも消せていないのが心にずっと引っかかってる。なんだかんだ遠回りしすぎている感じがして当初の目的自体を忘れそうで怖い。
「もし時間が許すなら召喚の紋章を消しに行きたいんだけど」
「その間ピアの食事は摂れなくなりますがよろしいので?」
「私だって必要とあればそのくらいの我慢はするよ」
夜間ヴィオに抱えて貰って飛んで行けばそう何日もかからないよね。またしばらく昼夜逆転生活になりそうだけどこの際そんな事言ってられない。
それに変な悪人に絡まれる心配がないと思えばそっちの方が心身的に負担が軽い気がする。ヴィオが一緒だし。
「私も隣国での商会出店の進捗具合も確認したかったのでお嬢様の申し出に感謝いたします」
「もうそんなところまで話が進んでるんだ」
そう遠くない未来にヴィオが立ち上げた商会やブランドの名がこの世界中に広まってそうだな。
「お嬢様の商会ブランドですから当然です」
「私なの!?」
「勿論でございます」
いやいや、だって私ほとんど何も関わってないよ? 第一その商会の名前すら知らないよ。
「ねえ、一応確認の為に商会の名前を聞いてもいい?」
「葵商会です」
私の名前そのままじゃん。やだな、名前だけのお飾り社長みたいじゃない。でも名前を使われてるからそこに責任ものしかかってくるし困るよ。
「私の責任重大って感じなんだけど」
「お嬢様は十分責任を果たされております」
「そんな訳ないじゃん」
だってどんな商会で何をしてるのかなんて全然知らないし、肝心のお店を見たこともないんだよ。それで責任を果たしてるとか言われても納得できないよ。
「お嬢様の作られたミサンガがなければ商会もこんなに早く大きくはできませんでしたし、乳製品やカカオの商品化はさらなる発展を果たす足がかりになっております。すべてはお嬢様のその記憶や発想力があってこそです」
「そうなの?」
「私を信じないのですか?」
「騙されてるとは言わないよ」
でもさ、実感がないというか自分の力じゃないのにっていう思いはそう簡単には拭えないよ。
「では本店の店舗ができ次第お嬢様をご案内いたします。お嬢様もその目でご覧になれば納得いただけるかと存じます」
店舗の確認って・・・。それはヴィオの手腕の確認みたいなもので私の実績の確認じゃないじゃん。
まぁでも、ここで駄々をこねても何一つ変わらないのは事実だろうしまぁいいか。ヴィオに任せた私の実績って事で納得するしかないんだよね。きっと。
「分かった。商会のことはすべてヴィオに任せるよ。これからもよろしくね」
「御意」
「それじゃ今夜さっそく隣国に向けて出発って事でいいのかな?」
「よろしいですよ」
「あっ、でもピアにもちゃんと知らせておかないとね」
ちゃんと話し合っておかないとまた目を離した隙に妙なことされても困るしね。
こう言っちゃなんだけど、一緒に居たら問題ばかりで離れていても不安ってホント困った天使だよ。