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「ヴィオやっぱり戻ってないね。まだ時間かかるのかな」
「立ち寄る街は決めてあるんですから先に行ってもかまわないでしょう。それにヴィオならお嬢様の気配くらい探れるはずです」
ピアと二人ってのが不安なんだってば。はっきり待ち合わせしとけば良かった。
「でもピアは馬車を操れないよね? 私は絶対に無理だよ」
「歩いて行けば良いじゃないですか。途中で誰かが馬車に乗せてくれるかもしれませんよ」
「こう言っちゃなんだけど、いつもと違うことをすると何か揉め事を引き寄せてる気がするんだよね。だから見ず知らずの人は安心できないって言うかさぁ」
「どうして分かっちゃったんですか!」
えっ、本当に引き寄せてるの揉め事を? 気のせいじゃなくて?
「それってどういう意味か聞かせてくれない?」
「罪深い者を引き寄せるようにしてみました」
してみましたって・・・。
「ちょっと何言ってるのか分かんない。もっと詳しく聞かせてよ」
「ですから、お嬢様が悪人成敗行脚をすると決めたようなので悪人が寄って来るように設定したんです」
「設定っていったい何の?」
「そういう運命だと思えばいいじゃないですか」
「いいじゃないですかって・・・。いいわけないじゃん!」
私とピアのどっちにそんな設定をしたというの? どっちだったとしても別行動が少ないんだよ。それじゃピア、あんたただのトラブルメーカーだよ。トラブルを自ら引き寄せてどうすんの? 私はそんな事ちっとも望んでないよ。私の望まないことはしないんじゃなかったの?
「でも、罪人を減らし世界の平和を目指すんですよね」
「そんな壮大な目標なんて持ち合わせてないわ。私は小さな平和を望んでるの。はっきり言わせて貰えばそれって真天罰を炸裂させたいピアの願望なんじゃないの?」
「そ、そんなぁ~」
やっぱりピアの願望だったか。
「ヴィオが別行動なのに変なトラブルに巻き込まれたくないよ。その設定すぐに戻して」
「じゃぁ、少し弱めで・・・」
「弱めでも絶対にダメ! トラブルは極力無しの方向でお願い!!」
悪人に絡まれやすい運命だなんてホント勘弁してよ。そんなの好き好んで望む人の顔が見てみたいわ。私は平和にのんびり過ごしたいの。できればなんの憂いもなく美味しい物食べてゴロゴロダラダラするのが夢なの。
「ちょっと引き受けてくれればお米と大豆を最優先で手に入れます!」
「・・・・・・」
何その交換条件。ちょっと心が揺らいだじゃない。って言うか、それって逆に言うと最優先にしないとなかなか手に入れられないって事? 本当に? まさか私を騙してないよね? 信じるよピア。そろそろお米も醤油もお味噌も恋しくて仕方なかったのよ。お寿司と味噌汁が食べられるなら多少の揉め事は我慢するかぁ。
「仕方ないわね。ちょっとだけなら協力してもいいよ」
「ありがとうございますお嬢様! それじゃさっそく歩いて行きましょう」
「ピア、あんたがそんなに明るいと逆に不安なんだけど・・・」
「大丈夫です。お嬢様を危険に晒したりはしないですよ」
当然だわ! 危険な事なんてホント絶対に勘弁してよ。早くヴィオが戻って来てくれないかしら。
緊迫感もなくのんびり歩いていた葵は走り寄ってくる人の気配に振り返る。と、いきなり抱き上げられ一瞬ヴィオが戻ってきたのかと期待するがしかしその乱暴な扱いにその淡い期待は儚く消え去った。
さっそく揉め事かぁ・・・。ホント速攻だな。ピアの能力炸裂って感じか。変なところに天使の実力出さないで欲しいよ。
「これはかなりの上玉だな」
「ああ、これなら間違いなくお館様お喜びになるだろう」
「こっちのガキはどうします?」
「そこそこにはなりそうじゃないか。そういう趣味のヤツもいると言うし一応お館様に判断を仰ごう」
な、何よ、そこそこって。この美少女の価値を見抜けないなんてあんたたちの目は節穴か。それにそういう趣味ってどういう趣味よ。
ピアってば何そんなに嬉しそうな顔してるの、ホント信じられない。って、天罰炸裂させないの? えっ、もしかしてこのまま大人しく掴まるつもり!? 危険には晒さないって言ってなかった? 今まさに危険を感じてるんだけど!
これだからピアの言うことはあてにならないのよ。お願いヴィオ助けて。
葵の願いは空しく、葵とピアはキツく体を縛られ暗い馬車の中へと押し込められたのだった。