26
コンコンコンコンコンコンコン!!!!!
「これはあなたたちへの天罰です」
相変わらず良い音だ。でも真天罰なんて言っておきながらやっぱりおたまなんだ。それそんなに気に入ってるの?
「でも何で全員なの?」
襲撃現場にはまさに今始まりましたというタイミングで本当に間に合った。するとピアがいち早く馬車から飛び出し、その場に居た全員におたま攻撃を炸裂させた。全員にだ。
「この中に罪の無い者は居ません。それに私が天罰を与えたことを覚えていられると面倒なんです」
「そりゃそっか。罰を受けたのを自覚していたり目撃されたらピアが天使だってバレる危険があるしね」
「それもですが、お嬢様にどんな迷惑がかかるか分からないです」
「私に?」
「何が原因でどんな災難に遭うのか私でも予測できないんです」
そう思うなら派手に天罰炸裂させるのを止めたらどうよ・・・。
「その時はこの私が必ずやお嬢様をお守りいたします」
うん、とっても頼りにしてるよヴィオ。
「いえ、私が返り討ちにするから大丈夫です!」
「返り討ちって・・・。天罰与えて改心させるんじゃ無いの?」
「そうです、一網打尽です!」
ピア、なんか色々間違ってる気がするよ。
「それでこの人たちはどうするの?」
「大丈夫です。ここからが私の真天罰の威力発揮です。すぐに目を覚まし帰る場所に行き着いてから天罰が発動されます。勿論今あった事の記憶は消してます。どうです? 凄いでしょう」
それ自分で言っちゃうの? って言うか、これってピアの為のイベントだよね。私的にはまったく面白くも可笑しくも無くてただ付き合っただけの感じなんだけど・・・。でも、まぁ、気分転換にはなったのか?
「それでアジトまで一網打尽にするんだっけ? それにしてもこの国は一見豊かそうなのにそれでも盗賊の類いって居るんだね」
「肥沃な大地がそう見せているだけで実は国民の貧富の差は大きいのです。特に特権階級と農奴開拓民とはの差は歴然たるものがあります」
「やっぱりどこの国も似たり寄ったりって事なんだ」
そういえばあんなに豊かで平和そうな日本でも問題になってたと思う。でもそれが人から奪っても良い理由にはならないよね。
もっとも私の平和な人生を奪われたからとあのお城に居た人たちを消滅させ金品を奪ってきた私が言うのも可笑しい話だけど。
「国の政策と国民性の違いもあります」
何にしても私じゃどうすることもできない問題だね。やっぱり私は私にできることをコツコツ頑張るよ。
「アジトにはピアかヴィオが行けば十分でしょう。私はミサンガ作りに戻るよ」
「良いのですか、お嬢様」
「ピア、何そのもったい付けた言い方にニヤけた顔は。アジトにいったい何があるというの?」
「フフフ。アジトにはたいしたものはありません。でも私見つけちゃいました。カカオの木ですよ。カカオの木!」
「カカオってあのカカオ? もしかしてこれからはチョコレートも食べられるって事!?」
「そうですよお嬢様。チョコレートアイスにチョコクッキーにチョコレートケーキ。何ならカレーの隠し味にもできるんですよ。興味ないですか?」
「あるわよ! 絶対手に入れて!!」
「ではお嬢様の為にカカオ農園でも作りましょうか」
「ヴィオ、是非そうして」
ヴィオは簡単に言ってるけど多分ヴィオに任せておけば大丈夫。ピアではちょっと不安があるけど。
「じゃあピア。カカオが手に入ったら早速チョコレートケーキが食べたい。作ってくれるよね?」
「勿論です! 私も食べるの楽しみなんです」
「じゃあ早く行こうよ。そのカカオの木はどこにあるの。早く、早く!」
「もう、お嬢様ってば現金すぎです」
だってしょうがないじゃない。チョコレートだよチョコレート。誰だってそうなると思うよ。私はいまだかつてチョコレートが嫌いって言う人に会ったことが無いよ。アレルギーのある人が居るとは聞いたことがあるけど。
「では私はカカオ農園の手配がございますので少々出かけてきます。ピア、お嬢様をお任せしましたよ」
「大丈夫、任せて!」
「ヴィオは一緒に食べないの?」
「後ほどご一緒させていただきます」
そんな風に頭をなでられたらまるで私がわがまま言ったみたいじゃない。チョコケーキを一緒に食べたいって思いも勿論だけどこんな場所での別行動にちょっと不安を感じただけだよ。
「急いでるのに引き留めてごめんなさい」
「大丈夫です。私もお嬢様といただくケーキを楽しみにしております」
「うん。お願いね」
「では急いで終わらせてきます」
葵は凄い早さで姿を消すヴィオの後ろ姿を見送った。
「ヴィオは盗賊のアジトに行ったんだよね?」
「そうだと思いますよ。ではお嬢様、私たちも行きましょう!」
ピアは盗賊のアジトにはもう興味無しなんだね。真天罰は気が済んだって事? それともアジトにはもう誰もいないって事?
「ところでさピア。私ってカカオなんて前に検索したときに小さな画像でしか見たことないのに良く分かったね?」
「お嬢様が一度でも見たことのある記憶はすべて把握できるんです。お嬢様はきっと読んではいなかったのでしょうが、あの時の情報ページは記憶として残ってるから引き出し可能なんです。どうです、私の能力の凄さに驚きました?」
地球とまったく同じ物が存在していて私の記憶が役立つって事に驚いたよ。
「うん、びっくり。って事は、私が覚えていない情報も一度でも目にしていれば何でも引き出せるって事?」
「そうなりますかね?」
「えっ、もしかして食材にしか興味ないとか言わないよね?」
「そ、そんなことは・・・」
あっ、これは絶対あるな。もっとも何でもかんでも覗き見されたら困るのは私だけど。まぁ覗かれて困る記憶もそう無いと思うからまぁ、いいかぁ。
「ピア、これからもよろしくね」
私が美味しい物をこれからもっといっぱい食べられるようにね。
「お任せください!」
葵はピアとカカオの木を目指し意気揚々と歩き始めたのだった。