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夕べは飛んでいるヴィオの腕の中で眠ってしまったらしく、目が覚めるとまったく覚えのない部屋のベッドの上だった。


夢だったら良いのにな。


葵は夕べの火事の様子を思い出し身震いするが、目の前で起きたことのすべてがいまだに良く納得できていなかった。


「おはようございます」

「おはようヴィオ。付いててくれたんだね」

「ピアが出かけていますのでお嬢様をお一人にはできません」


ピアが一人で出かけるなんて珍しいこともあるものだ。いったいどこで何をしてるんだろう。


「ピアも夕べは大変だったみたいだしね」


覚悟が足りてなかったとか言ってたし、一人で色々考えたいこともあるんだろう。帰ってきたら話くらいはちゃんと聞いてあげないとな。


「特訓をするそうですよ」

「特訓ー! いったい何の?」

「さぁ・・・」


天使にどんな特訓が必要だと言うんだろう。まさか筋トレではないだろうし、魔法関係の特訓なら私も参加したかったよ。


「また夕べみたいに突然雷落としたりしないよね。ホントびっくりしたよあれには」

「お嬢様はあの者どものしたことを直接目にはしていないので納得できないのでしょうが、ピアはその手で人の命を奪う覚悟を持ったようですよ」


いやいや、天使は人の命を救う存在なんじゃないの? 人の命を奪う覚悟って・・・。


「そんな覚悟いらないよね」

「お嬢様には必要ありません。しかしこの世界殺すか殺されるかが基本で命はとても軽いのです。ピアはお嬢様の記憶に触れ平和を願う気持ちがそれを忘れさせていたのでしょう。ピアなりの葛藤がかなりあったようです」


びっくり。ピアが葛藤していたのにもたけど、ヴィオがピアを理解し思いやる発言をしたのにもホント驚きだよ。


「ヴィオに葛藤はないの?」

「私には無いとお思いで?」


ごめんヴィオ。無神経だった。でもそんな言い方はズルいよ。それじゃあヴィオがどんな葛藤をしているのか聞きづらくなるじゃん。


「ちなみに話したくなければ話さなくても良いんだけど、ヴィオはどんなことで葛藤するの?」

「夕べの者のように闇に染まった魂はとても魅惑的で私が心から欲するものです。しかしお嬢様は人の命を奪うことを良しとはされていないので我慢せざる終えません。ですがこの私にその拷問のような苦悩という快楽を与えられるのもお嬢様しかいないのは確かです」

「ちょっと何言ってるかよく分からないんだけど」

「お嬢様は今まで直接人の悪感情に触れることなくよほど平和に過ごしていたとみられます」


そう言われちゃうとまったくその通りだよ。友達からも暢気だとか鈍感だとか言われてた。

それに実際あの村長が娯楽の為に人を殺してたとか聞かされても、ニュースや物語で読んだいじめやパワハラや殺人と同じレベルで許せないと思っただけで、私自身被害者側の辛い気持ちを想像しかできないほど本当に平和な世界で暮らしていたと思う。


この世界に召喚されたあの時は心の底から許せないって思ったけど、結局その気持ちは長続きしなかった。

人を恨むのも呪うのもかなりの熱量が必要だと思う。私には無理だった。全員目の前で消え去ったしね。それに他人を恨んでいる時間があるなら楽しいことに使いたい。楽しく笑えることが復讐にもなると信じたい。でも召喚の紋章はすべて消し去るよ。もう二度とこの世界に召喚される人が居ないように。


「否定はしない。でもやっぱり世の中そんな悪い人ばかりじゃないって信じたい」

「お嬢様のお心のままに」

「そんなことを言っても私の目は誤魔化せませんよ。お嬢様に気づかれないようにあの者の魂を奪ったでしょう。私はあの者に生き地獄という天罰をくだしたつもりだったのに!」


あっ、ピア帰ってたの。気づかなかったよ。


「フフ、よくお気づきで」

「私をあまり侮らないで欲しいものです」

「ヴィオ、本当にそんなことしたの?」

「あの者の魂はあまりにも魅惑的で我慢できませんでした。この私に何か罰をお与えください」


いや、罰をっていわれても・・・。そもそも気づかせないようにした事をあっさり暴露しているピアもピアだし、気づけない私もダメなんだろうなぁ。それにきっとヴィオは普段私の為に魂を奪うことを相当我慢しているんだろうしね。


「ヴィオの言う魅惑的な魂って闇に染まった魂って事だよね。だとしたらその魅惑的な魂を奪うことをこれからは許すよ。ただしなるべく私の気づかないところでやってね」


ヴィオが魅惑的に感じるくらいに闇に染まってる魂はそれだけ悪い事をしている人なんだろうし、そんな人は地球でも死刑だったりするしね。ヴィオに我慢させる必要は無いかもしれないよね。


「あぁぁ、お嬢様・・・」


何? 何でそんなに落胆しているのヴィオ? 私はヴィオの為を思って言ったんだけど。


「いけませんお嬢様。ヴィオにそんな安易に許しては際限が無くなります」

「そんなに悪い人ばかりなのこの世界?」

「そうではありませんが、お嬢様の世界とはモラルが違いすぎるのです。その違いが許容範囲を曖昧にしています」


ピアの話は時々何を言ってるか良く分からないよ。もっと分かりやすく言ってよ。って、私の理解能力が低すぎるのか?


「そうではありません。これからは苦悩という拷問をお嬢様から与えていただけないのだと思うと・・・」


その考えちょっと怖いよ。って相手は悪魔だから色々違うのか? 悪魔とも天使とももっと分かり合う必要があるって事なのか?


「ところでピアは何の特訓をしてたの?」


うん、やっぱり今はちょっと諦めた。きっと分かり合うには時間がかかるだろう。


「その者に見合った天罰の与え方を試行錯誤してました」


そんな吹っ切れたような明るい顔で言われても・・・。


「そっか、頑張ったんだね」

「ええ、生まれ変わった私をどうぞご期待ください!」


えっと、正直そんなに期待はしてないよ。それよりも天罰を与えずに済んだ方が良いに決まってるよね。その辺の改善を考えた方が良いんじゃないの天使的には。


葵はピアにはっきり言った方が良いのかと悩みながら、どこかで自分さえ平和でいられれば良いという思いと、そんなに簡単にできる事ではないという思いから口に出さずにいたのだった。



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