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葵は外見だけでなく自分の中の何かが変わったのを確かに感じていた。
「ああ、マスター申し訳ございません。あまりにも甘美な魂の香りに我慢できず、その魂まで消滅させてしまうところでした。これはけして許されることではないでしょう。どうか私に罰をお与えください」
悪魔だというのに驚いたことに葵の目の前に跪き許しを請うてきた。
なんだかイメージと違うよ? 本当に君悪魔? M属性の悪魔って大丈夫?
「そうですよ、あなた! 私が居なければ今頃はどうなっていたかお分かりですの」
なぜか胸を張りズビシと悪魔に向かって指を指す天使。
天使なのに人を指さし糾弾ってどうなの? まぁ悪魔は人じゃ無いけど・・・。
何にしても自分の姿が幼くなってしまったと言うことはこれでもう本当に元の世界へ戻ることは叶わなくなったと言うことか・・・。
天使が居るって事はこの世界には神様も居て、もしかしてもうワンチャンあるかと期待してたのに。いや待てよ・・・
「私の願いを叶えてくれるって言ったよね? 元の世界に戻すのが無理ならこの見た目を元に戻すことはできるの?」
「えっと、それは、そのぉ・・・」
「何よ、はっきりしなさいよ!」
飛び跳ねるのかと言うほどビクッとする天使。
「ハイ。私には無理です!」
ある意味予想通りの返事にもうがっかりすることもできなかった。
「それじゃあいったい何ができるのよ」
「神の領域の力を行使すること以外でしたら大丈夫です!」
だからその神の領域の力っていうのが分からないんだってばさ・・・・・・。
「ふぅ~・・・。要するにたいしたことはできないって事だよね。じゃあもういいわ」
何かを言いたそうに口をパクパクさせてからガックリと項垂れる天使。
「ではマスター、この私めに罰を」
跪いたまま頭を下げていた悪魔が割り込んできた。
すっかり忘れてたよごめんね・・・。
「罰って言ったってそんなの思いつかないよ」
「そうやって私を責め続ける罰なのでしょうか? この先私が低俗どもの魂の採取すら許されることなく飢えに苦しむ様をマスターは楽しもうというのですね」
「違うわ!」
思った以上に使えない天使に何を考えているか分からないM属性かという悪魔相手に葵は頭を抱える。
「ではこやつに名を与えその魂を縛り付けるのはいかがでしょう。そうすればこの先こやつはあなた様の意思に反した行動はできなくなります」
項垂れていたはずの天使がおもいっきり復活している。
天使ってピュアなんじゃないの? 悪魔相手だからそんなに好戦的というか攻撃的なことを考えつくの?
「そうなの?」
「それはいい! そうすればマスターの魂が朽ちるまで私はマスターの思うままに力を貸すことができます」
いやに嬉しそうにする悪魔に疑念の目を向けると慌ててうつむく悪魔。
それって何かの罠だったりしないよね?
「・・・。マスターのその甘美な魂と繋がれると思うとつい嬉しくて・・・・・・」
なるほど、名を与えるとは魂が繋がると言うことなのか。でもそれって本当に大丈夫なのか? まあ、ポンコツとはいえ天使が言い出したことだからきっと危険はないのだろうけど・・・。
「いいわ。ヴィオレデヴェーグ。あなたの名前よ。略してヴィオって呼ぶね」
「あぁぁ、ありがとうございます」
ヴィオレデヴェーグは震えるようにして自分の体を抱きしめる。
「そしてピアニー。これはあなたの名前よ。これからピアって呼ぶね」
葵はポンコツ天使にズビシと指を指す。
どうだ参ったか! 人を呪わば穴二つって言うのよ。君にも同じめにあって貰おう。
「えっ・・・。えぇーーー」
髪を掻き乱しながら慌て始めるピア。
「こ、困ります。私はあくまでもこの世界を管理する身であって深く干渉することは許されていないのです」
「でももう遅いよね。契約できちゃったでしょう。第一ピアの管理がなっていないからこんなことになっているのよ。現実世界をしっかり見つめて学び直す必要があるわ。これがあなたへの罰よ」
「・・・ハイ」
「ヴィオレデヴェーグ。ピアニー。これからよろしくね」
葵はこうして悪魔とも天使とも思いがけず契約をすることになったのだった。