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葵の意気込みに反してピアが作ったミサンガに浄化魔法を付与するのは大変だった。
何しろ移動する馬車の中での内職作業のようなものだ。集中力は続かないし馬車の揺れによって作業がちょくちょく中断させられる。しかし確実に浄化魔法の熟練度は上がっていった。
「ねえピア。ピアのミサンガ作りより私の付与の方が時間がかかるんだからこっちも手伝ってよ」
「仕方ありませんねぇ。あっお嬢様、あまり強い浄化魔法は付与しないでください。使えない人が出てしまいます」
「その強弱の感覚がよく分からないよ」
「魔力の込め方で違ってくるんです。そのくらいの感覚は上手に掴んでください!」
何それ。物語の中みたいに浄化魔法レベルいくつなんて唱えるのとは違うんだよ。感覚を掴めって言われても加減が分からないよ。
要するに手を抜けって事か?
・・・ああそうか、魔法はイメージって物語の中でみんなが言ってるじゃない。明確にイメージして勝手に魔法名を付けてしまえば良いのか? うん、なんかできそうな気がする。
アレやコレやを綺麗に清潔にするイメージ。イメージイメージ・・・。名前を付けるならやっぱりクリーンだね。
「おおぉ、できたよ! 見てみてピア。これでどうよ」
「さすがお嬢様です! これなら安定して作れますね!」
やればできるもんだね、ピアにお墨付きを貰ちゃった。ふふ、これからは魔法はちゃんとイメージしてついでに名付けることにしよう。
あっ、今チラッと魔法名を格好良く唱えながら攻撃している姿が脳裏に浮かんだよ。私も実は魔物と戦いたいのかも。無自覚最強とかに憧れてのかな。怖いけど・・・。
「お嬢様、少し休憩にいたしましょう」
ヤバい、夢中になりすぎて馬車が止まったのにも気づかなかったよ。
「ありがとうヴィオ。あとどのくらいで国境を抜けられるの?」
「移動する商人の馬車が思ったより多く少々手間取ってしまい申し訳ありません」
「いいよ。ヴィオのせいじゃないし」
もしかしてこの国から逃げ出す商人が多いって事なのかな。
「ヴィオのせいですよ。派手に人々を消し去るから王都で暴動が起こってるんです。商人は自分の財産を守ろうと必死なのでしょう」
それを言ったら私のせいって事になるじゃん。いや、違うな。やっぱり召喚なんて禁忌を行ったあいつらが全部悪い。
「ピアがそんな風に言うなら召喚なんて禁忌を許しているこの世界の神様が悪いんじゃないの」
「そ、そんなこと・・・」
「起きてしまったことの責任を押しつけ合ってもしょうがないよ。この話は無しねピア」
「はい」
反省も後悔もちょっと立ち止まる程度にしないとね。囚われすぎたら前を向けなくなって大事な自分の時間を無駄にすると思うんだ。肝心なのは過ぎた過去をどう生かすかだよ。きっとね。
「それより折角だから何か美味しい物を食べたい」
「またそれですか。具体的に何と言ってくれないと困るんです」
ピアが何かどこかで聞いたことのある愚痴を言ってるよ。そういえばお母さんもお父さんによく言ってた。ってことは私ってお父さんと同じなのか。見てたのに全然学んでなかったって事か。まぁいくら体が幼児に変わったとはいえ性格や考え方まで急には変えようもないしな。あっ、これからは愛らしさを売りにするって決めたのにすっかり忘れてたよ。トホホ・・・。
「ハンバーグが食べたいな♡」
どうよこの愛らしさ全開の笑顔に仕草。まいったかピア。私にだってこれくらいはできるんだよ。
「またですか、ハンバーグですね」
あれっ、何、渾身の私の上目遣いをスルーするの? ここは可愛い~って萌えるところじゃないの? それにハンバーグはバンズに挟めばハンバーガーにもなるし、カレーライスにトッピングしても美味しい主役にも脇役にもなれる優れものだよ。それとも別に何か不満でも?
「ピアがハンバーグが嫌なら別のものでもいいよ」
「そうですか! じゃあお好み焼きを作ってもいいですか? 今ならソースも作れそうなんです! 青のりと鰹節は無理ですが無くても大丈夫ですよね?」
何だよやっぱりか。じゃあ始めから素直にお好み焼きにするって言えばいいのに。そうすれば私も無駄な演出をしなくて済んだのに。
「無くても良いかと聞かれれば勿論いいんだけどね。あると無いとでは大違いなんだよピア」
「そうなんですか・・・」
「でも折角ピアが興味を持ったんならお好み焼きにしようよ。それで今度青のりと鰹節を手に入れたらその違いを楽しもう。それよりマヨネーズとお箸は大丈夫なんだよね?」
「ええ、任せてください!」
こうして葵は久しぶりに青のりと鰹節の無いお好み焼きを堪能し、折角ソースを作ったのなら次は焼きそばをとピアに聞かれる前にリクエストしたのだった。