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馬車は貴族様仕様だけあって荷馬車と比べたら段違いに乗り心地は悪くはなかった。
とは言え、リクライニングシートは無いし座席のクッションも硬いしサスペンションが無いから振動がしんどい。でもピアが新たに作ってくれた座布団のようなクッションが大活躍。枕にもなるしね。
それに身体強化魔法と回復魔法の練習がはかどるはかどる。かなり上達したと思う。そろそろ別の魔法の練習を始めても良いんじゃないかな。
「ねえピア。そろそろ別の魔法の練習を始めても良いんじゃないかな」
「移動中に使える魔法ですか?」
「そうだね」
物語の中の攻撃魔法なんて馬車の中じゃ練習できないだろうけど、きっと何かあるよね?
「では折角話に出たことですし浄化の魔法を覚えます?」
「浄化魔法って攻撃魔法じゃ無いの?」
「浄化は汚れや異物など魔のものを清浄にすることを目的にした魔法なんです」
「汚れや異物って、じゃあ私の体や今着ている服も綺麗にできるって事?」
「そ、そうです」
思わずピアに詰め寄っちゃったじゃない。そんな便利な魔法があるならもっと早く言ってよ。
「今すぐ教えて!」
・・・・・・・・・
あぁ~、スッキリした。思った以上じゃない。髪のベタベタもさっぱりしたし、何気に服のヨレヨレ具合も改善した気がするよ。これってもしかしたら細菌とか有害物質にも効果があるんじゃ無いの? 念のため馬車の中も綺麗にしておこうか。
「ねえピア。この魔法ってさあちこちに溜められたり放置されてる例のアレに使えるんじゃ無いの?」
「例のアレですか?」
「排泄物の事よ。詳しく言わせないで」
この世界のトイレ事情はボットンと言うよりツボみたいなのを使用している。いわゆるオマルだ。
それを畑の飼料にしたり穴を掘って埋めたり垂れ流したりどこぞに放置し放題。困ったものだよね。不衛生ってだけじゃ無く何気に匂うし。
「でも魔法を使うには適正というものがあってですね」
「適正って何よ? 魔法はみんなが使えるんじゃ無いの?」
「それぞれが持つ魔力量には違いがあるんです。なので全員が同じ魔法を使えるって事じゃ無いんです」
「なによそれ。生活に便利な魔法くらい全員が使えるようにしなさいよ」
「魔法は使い方によっては危険が伴うんです。ですからそう簡単には広められないんです!」
「ちょっと待って、それって本当なら貴族だろうが平民だろうが使う気になれば魔法を使えるのにあえて広めてないって事? 自分が魔法を使えるって気づきもしない人が沢山居るって事なの?」
「平民に知恵を与えるのは危険としているのは事実です」
ああそうか、この世界の文化レベルの低さを甘く見ていたよ。そうだよね地球にもそんな時代があったというか、今でもそんな国が存在しているんだった。
「じゃあさぁ、生活改善の第一歩よ。せめてこの浄化魔法をみんなが使えるようにするにはどうしたら良いか考えよう」
建物の側に普通にう○ちが転がってたり、油断してたら建物の上階から降ってきたり、あちこちに匂いが漂っているのはもうホント勘弁して欲しい。このままじゃ何か悪い病気が流行り出すよ、地球の歴史がそうだったようにね。
「浄化魔法を付与した物を広めるのはどうです。それに魔力を通せばその程度の浄化なら誰でもできるし使っているうちに身につく場合もあるんです」
あるんですって・・・。そんなに簡単なことなら何でもっと早くやらなかったのよ。いくら現実世界に直接関与できないって言っても知恵を授けるくらいはできたんじゃ無いの。そう言う衛生観念やモラルの改善意識が文化レベルを上げていくのよ。
「付与って簡単にできるものなの?」
「お嬢様ならコツを掴めば簡単ですよ!」
何その全開笑顔は、ちょっと腹が立っていた気分もどうでも良くなるくらい呆れるわ。ホント、ピアはこれだから・・・。
「じゃあピアは何か身に着けられそうな物を作ってよ。私がそれに浄化魔法を付与していけば良いんでしょう」
「じゃあミサンガはどうです? 布は沢山ありますからそれを上手く作り替えます!」
「それでいいわ。付与の仕方を教えて」
「でしたらお嬢様が作られるそれはあの商人に売らせ広めましょう」
ヴィオも聞いてたんだね。そうと決まれば作るわよ。この世界の全人口分作るつもりで頑張るわよ!!