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荷馬車で昼夜問わず走り続けた結果、三日ほどして国境近くの街へたどり着いた。

ヴィオが寝ずに馬を走らせてたのとピアが馬に回復魔法をかけ続けた結果なのだが、なんだか馬が可哀想で仕方なかった。


勿論適度な食事休憩は取ったけどゆっくり休むというレベルではなかったからな・・・。それに私も少しでも早くこの窮屈な状態から解放されたかったので何も言わなかったのだから同罪かぁ。


「みんなと合流するまでこの街に滞在するのでしょう?」


荷馬車を提供してくれた商人と盗賊たちは歩いてこの街を目指しているのであと何日かかるか予定が立っていない。それまではこの街で時間を潰して待つ予定。


「取り敢えず宿の確保ですね」


ピアが何かを言おうとしたのを遮りヴィオが提案してくる。


「そうね。私も体を伸ばしてちょっとゆっくりしたい」

「もう、仕方ありませんね」


ピアには別に何かしたいことがあったようだが危険信号が点滅している気がするので無視無視。もしかして危険察知の能力でも授かったか?


「あの街ほどじゃないけどこの街も結構賑やかだね」

「お城での異変もまだ知られていないのでしょうか?」


ピアが声を潜めるように話す。


「えっ、そんな感じの情報ってピアもヴィオも察知できるんじゃないの? 私はてっきりできるものだと思ってたよ。」

「そうでした! 街に着いたばかりでうっかりしてました」


普通そんなことうっかりしないよ。なんだかだんだん人間っぽくなってきてるというか天使としての威厳みたいなのは皆無だよピア。


「ココの領主もあの王城で姿を消した中に居たようですね。ですので知らせも遅れているのでしょう。商人たちの方が情報が早い。ただどう判断するかはそれぞれでしょうが」


なるほどなるほど。この世界には情報伝達機能ってあまりないんだね。って事はこの街で魔女狩りが始まる心配は無いって事だよね。それなら安心して休めるな。


「それじゃあゆっくり休んだら食材探して街を散策しようよ」

「そ、それよりもう少し快適な馬車を手に入れませんか! もう荷台はこりごりです」


ピアもやっぱりあの状況はキツかったのかぁ。そりゃそうだよね。天使といえども苦痛は感じるだろうし、逆に天使だから辛抱強く我慢していたのかも。ごめんよ、また何か面倒なことを言い出すのかと身構えちゃったよ。私にはやっぱり危険察知能力は芽生えていなかった。というよりもっとちゃんと察しろよって話だったよ。


「ごめんねピア。私、自分だけが辛いって思ってた。快適な馬車絶対に手に入れよう」

「お嬢様がお辛いのは理解できます。しかしあなたがに先に泣き言を言い出すとは信じられません」


いやいや、ヴィオ。そんなに責めなくても良いと思うよ?


「ヴィオも大変だったよね。ここまでありがとう」


考えてみたらヴィオは寝ずに荷馬車を走らせてくれたんだ。けして楽な日程だったはずが無い。だから他人の泣き言を見過ごせないんだろう。


「お嬢様のことを思えば当然です」


ピアのことを睨まないであげて。それじゃまるでピアが私のことを思っていないみたいに聞こえるよ。ほら、縮こまっちゃったじゃない。


「まあまあ、ピアだって私のことを思っての提案だよ」

「そ、そうですよ! お嬢様のことを思えばです」


あっ、ヴィオの表情が険しくなってく。コレはヤバいかも・・・。さらなるお説教の始まりか?


「おい、おまえたち。この街で見かけない顔だな。上品そうな服装といいただの平民ではなさそうだ。その美しさは俺の側に置くにはちょうど良い。俺の下僕にしてやろう。ありがたく思え」


やたら偉そうにしているお坊ちゃま風青年が三人の男を侍らせ胸を張りピアノ前に立ち塞がる。


何言ってんのこいつ。あっ、そういえばこの国じゃ女性は男性に逆らえないんだっけ。ましてや偉そうにしているところを見るときっとろくでもない貴族か何かのご令息だろう。でもこちらにはヴィオも居るんだよ。見えてないの? 大丈夫?


「おい、ガキの分際でレガリス様を睨むとは生意気な」


男の一人が振り上げた手をヴィオがガシッと掴む。


「お嬢様に何をするつもりです?」

「なっ!」


男はヴィオに睨まれ逆らえなくなったようだ。

それにしても私って何かというと睨んでると言われるけどそんなに目つきが鋭いのかな? それにしてもこの愛らしく幼気な少女に暴力を振るおうなんて許さない。ヴィオ、止めてくれてありがとう。でも消すのは無しだからね。


「私の連れに何かご用ですか?」


ヴィオがさらに殺気をにじませ男たちに詰め寄る。


「わ、私に逆らってただで済むと思うなよ!」


ヴィオの威圧に逆らえるなんてお坊ちゃまも意外にやるじゃない。でも逃げ出さないところを見るときっと動けないんだね。ご愁傷様。


「タダで済まないとどうなるのでしょう」


ヴィオがお坊ちゃまの額に手を触れる。

あっ、もしかして僕にしちゃったの? ピアは驚きすぎたのかおたまの天罰をくだすタイミングを逃してるみたいなのに、ヴィオはやっぱり抜け目がないね。


「是非我が家でおくつろぎください」


えぇぇーー、そう来たかぁ。見ず知らずの他人の家でくつろげるか心配なんですけど・・・。


「ねぇ、ここってさぁ」

「領主の館ですね」


ヴィオがニッコリと微笑みながら教えてくれる。

だからその笑顔怖いよ。もしかしてすべて見越してやってるの?


「レガリス以外の家族は王都に居たようですね」


ピアが少し悲しそうに教えてくれる。

あっ、でも察し。このお坊ちゃま家族から見放されていたのかもね。

レガリスの屋敷は王都で見た貴族の屋敷ほど大きくはないが贅の限りを尽くしてますといった感じだった。


「ヴィオ、本当にこの屋敷を宿代わりにするつもり?」

「ええ、この街にお嬢様がゆっくりできるようなこれ以上の宿はございません。それに乗り心地の悪くない馬車も手に入ります」


やっぱり色々と計算ずくでしたか・・・。


「客を連れてきた。丁重にもてなすように」


レガリスがこの屋敷の執事らしい男に指示を出すと早速客間に案内された。

うん、王都のあの宿より広く豪華で逆に落ち着かない感じ。でもベッドから転げ落ちる心配は無いからまぁいいか。


それより久しぶりにのんびりゆっくりお風呂に浸かりたい。この屋敷にお風呂は無いかしら。

えっ? 浴室って無いの? 隣の部屋に浴槽を持ち込んで準備をするんですか? すべてお任せをって、止めて服は自分で脱げるし体も自分で洗えるってばーーー。私は一人でゆっくり湯船に浸かりたかったの。・・・まさかと思うけど浴槽内で体を磨いたあとこのまま体を拭いて終わりって事は無いよね? えっ、終わりなの? いやいや、服くらい自分で着られるってば。


うっかりお風呂に入りたいと言ったせいで逆に疲れ果ててしまった・・・。この世界の文化レベルと貴族様式を甘く見ていたよ。はぁーー。ちっともゆっくりものんびりもできてないよ。


お腹から息を吐き出し独り言で愚痴るとベッドへと潜り込み葵は五秒で眠りについた。どこでもどんな状況でも寝られるのが特技だ。そしてたいていの嫌なことは眠って忘れるのだった。



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