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盗賊たちのアジトは森の中にあった。
何軒かの家が建ち並び小さいながらに畑もあって、多分以前はちゃんとした集落だったのだろうと推測できる。きっと貧しすぎて村ごと盗賊に身を落としたのかもしれない。何しろこの国の政策や風習に貴族たちなんて揃いも揃ってろくでもないからね。
「ピア頑張って!」
ココへはこの人たちを改心させるために来たんだし、発案者はピアなんだから是非頑張って貰おう。私にできるのは応援するくらいだ。
「任せてください!」
ピアは張り切って走り出し、例の「これがあなたたちへの天罰です」を口にしながら有無を言わせずコンコンコンとおたまを鳴り響かせる。
「暇だね」
自分に何もできないことがどかしい。
「お嬢様は少しお休みになってはいかがです」
「ココで? 今?」
抱っこされたままじゃ恥ずかしくて寝られないよ。って言うかピアが頑張ってるのに無理だよ・・・。それに思った以上に抱かれ心地が良くて十分休めてるから大丈夫。
「ふふっ」
止めて、その優しげな笑顔。ヴィオが本当は悪魔だということを忘れそうになるよ。ホント困ったものだ。
「お嬢様。済みました!」
「は、早かったね」
「何人も残っていませんでしたから!」
ピアが褒めてとばかりにニカッとした眩しい笑顔を向けてくる。
でもさぁ、考えてみたらこれだけの為にここまで付いてきた私って意味があった? 街道で商人たちと待機してても良かったような気がするよ? でも、まぁいいか。
「これでここの人たちが改心してくれると良いね」
「そうですね」
「取り敢えずここの者たちは家の中に押し込んでおけば大丈夫でしょう。指導者だけ僕とすればあとはお嬢様が気に病む事はありません」
「指導者って盗賊たちのボスよね? それだとこの貧しい村でみんなが暮らしていけるか心配なんだけど」
「お嬢様。永遠に面倒を見るのなら別ですが、気まぐれに手を貸すのは控えた方が良いかと思います。少しばかりの知恵を授けあとは自分たちで考え行動させるのが良いでしょう」
ヴィオが正論を言っているのは分かるけど・・・。ここはなんて言うかもっと何か役に立ってこの人たちの生活の改善を促したいじゃない。
「商人たちは躊躇無く僕としていたのに盗賊たちは放置するの?」
「利用できるものがありません」
利用できるものって・・・。そりゃぁ見た感じ貧し村でしかないし、そのせいで他の人から奪っているんだろうからそう言われてしまうと身も蓋もない。
でもだからこそ、何か手助けができれば何かが変わるんじゃないかと思ってしまうんじゃない。そりゃぁ私は通り過ぎるだけの旅人で、私自身この人たちに何もしてあげられないのは確かだけれどね。
「そうですよお嬢様。お嬢様は一つの盗賊団を壊滅させた。それでいいじゃないですか」
事実上壊滅させたのはピアなんだけど・・・。
「ピアってばのんきなことを言ってるけど、この人たちがまた貧しさに負けて盗賊になったらどうするのよ。その方が後悔が大きくなるに決まってじゃない」
「その為に指導者に少しばかり知恵を授け僕とするのです。だから大丈夫です」
ヴィオとピアは似たようなこと言ってるけどなんだか安心感が全然違う。そうだよね、自分でできもしないことをしたいと駄々をこねるのはやっぱりダメだよね。今回は何かできるだろうヴィオに後を任せた。そしてピアの言うように一つの盗賊団を壊滅させた。それで納得するしかないだろう。
しかしいずれは自分でも何かできるように絶対になってやる。そう、さしあたってまずは魔法をもっとちゃんと使えるように頑張ろう。せめて自分の身は自分で守れるくらいには・・・。ヴィオにのほほんと抱っこされている場合じゃなかった。反省反省。
「うん、これからは私も頑張るよ」