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都会のフィルター

作者: 湍水仁

田舎から都会に引っ越した。

仕事の関係だった。


変なところだと思う。

水は薬品の味がするし、家賃の割に部屋は狭い

人が多い街並みは人工物に溢れ、

覆い隠すような作られた自然。

星は見えず、川や海は培養液というのが相応しいくらい汚染されて緑に光っている。


唯一同じなのはヒトと僕だけ。


初めて僕は故郷の景色を懐かしんだ。

なんてことはなかった田舎道を。

なんてことはなかった小川を。

なんてことはなかった星空を。


都会にきて数ヶ月。

秋の終わりに僕は会社をサボった。

ふと何処かから、誰かにそうしなければいけないような気がして、そうした。


朝から酒を飲み、ふて寝。

起きては飲んでの繰り返し。


気づいたら、日も変わり午前2時17分

そんな時間だった。


僕は寝巻きのまま一枚上着を羽織り、

イヤホンをつけ、大音量の音を流しつつ、

夜に繰り出す。


マンションが敷き詰められた街のついでみたいに舗装された歩道のある川辺に辿り着く

海につながっているのか、幅が広い大きな川だった。


そこは別世界だった。


ヒトはいなく、街並みの汚さは夜の暗さが

夜景として覆い隠す。

汚くて臭い川は、闇に紛れることで夜景を映すスクリーンとなり、作られた自然共に街の灯りと調和する。

歩道には鼻持ちならない犬を飼った婦人や健康目的のスポーツマンもいない。

匂いは鼻がぐずっているせいでわからないし、耳元で響く、お気に入りの音楽がノイズから僕を守る。


ただ、1人。

ただ1人、僕だけがそこにいた。

ふと、空を見上げると

かけた月と、微かだが。

確かに星はそこにあった。


その日以来、

蛇口には浄水器をつけ、

マスクをして、

イヤホンをつけ、

色のついたメガネをかけて、

僕は日常を過ごす。


夜と朝の合間にあの時間だけは、メガネだけ外して夜を楽しみに都会を見下ろす。


僕は都会に生きていいんだと、初めて認められた気がした。


ある日。

ふと思い立ち川辺から

いつもの風景をスマートフォンを使って、

写真に収める。

静謐の中で、パシャリと音が響く


その写真は、僕の心を支えるとても美しい情景を切り取ったようだ。


けれど、何か違う。

僕はそういえばと、思い立ちスマートフォンで写真を編集をしてみる。


そして、適当にフィルターをかけてみる。

光度を上げたり、角度を変えてみたり、エフェクトをかけてみたり。

普段こう言ったことはしないので苦労したが、しっくりする仕上がりになったので写真に適応し保存する。


改めてみて、その出来上がった写真の出来栄えに自画自賛をする


けれど、けれど、

その瞬間僕は気づいた。

気付いてしまって、吐き気がして、写真を消して、イヤホンもマスクもむしり取って逃げるように帰宅した。


あの日から二ヶ月経っていた。

仕事を辞めた僕は

都会ではないどこかにいる。


そのどこかは昔住んでいた田舎にとても近くて、僕は身一つでそこに流れ着いた。


遥か昔は何も感じなかった煌々とした満点の星空をとても美しく尊いもので、僕はそれをただ眺める


あの都会の閉塞感からは解放されて、今はただ満たされている気持ちだけが残っていた。


ただ、一つ恐ろしい事がある


田舎の星空を眺める。都会にいた頃とは比べ物にならない、本物の景色。安心する場所だ。


本当にそうか?


恐ろしい声がたまに僕の耳元か、あるいはの臓から聞こえてきて、あの美しさを捉える瞳を曇らせる。


そんなだから最近僕は声が聞こえるたび、目を擦ってしまう。

そこには都会にいた頃かけていた色眼鏡はないはずなんだけれど、声が聞こえるたび、僕は擦らずにはいられないのだ。


最近は視力も落ちてきた。

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