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どうぞよろしく番のあなた

作者: 海野はな

 彼は不器用な人だった。


「はじめまして。ええと、人間は番うとき、どうするんだ?」


 町の大通り。買い物かごに入りきらなかったカブを抱え、市場から歩いてきたリタの前に突如現れた彼は、いきなりそう言った。

 初対面でこんなことを言われたら、まずすべきことは大声で助けを求めるか逃げるか、どちらかだろう。だけどそうしなかったのは、彼の両耳の上に角が見えたからだ。


「あぁ、人間は番うではなく結婚というのだったか。どうしたら結婚できる?」

「はい?」

「まさか番が人間だとは思わなかったんだ。もうちょっと勉強しておくべきだった」

「つがい」


 いきなりの結婚宣言である。

 プロポーズどころか婚約もしていない。そもそも相手が誰だか知らない。なにせ初対面。

 それにも関わらず、全部をすっとばして当然結婚するものだと進めてくる。どう考えてもおかしい。叫んでもいいと思う。


 だけどリタは自分の口から声が漏れないように、必死に押さえた。


 どこからか「竜人様だ」と言う声が聞こえてきた。やっぱりそうなのか、とリタはごくりと唾を飲み込む。

 人と少し違う形の耳の上に角があり、人よりも大柄な身体をしている。そして赤い瞳に銀の髪。リタは今まで見たことがなかったけれど、目の前に現れた人は聞いていた竜人の特徴を綺麗に捉えていた。


 リタのいる場所は人間の国だけれど、この世界には獣人の国もあり、世界全体を見れば多種多様な種族が暮らしている。竜人はそれら中でも最上位の種族。本気になれば一人で一国くらい簡単に滅ぼせるほどに強いが、人数が少ないために滅多にお目にかかることはない。


 基本的に竜人は温厚で穏やかな性格をしているらしい。こちらから自身や大切なものに危害を加えることがなければ、いきなり襲い掛かってくることはない……と言われている。

 もしかしたら竜人にとっては人間など取るに足らないちっぽけな生物、くらいの感覚で、そもそも関心がないだけかもしれない。


 そうは言っても、目の前の彼がそうだとは限らない。今リタが叫んで、もしこの町が飛ばされたら笑えない。何とか穏便に済ませなければとリタは深呼吸した。


「あの、はじめまして?」

「うん、はじめまして」

「えっと、これはその、どういうことでしょうか?」

「どういうことって、君は僕の番でしょ」


 獣人の中には番という習性を持つ種族もいて、番を見つけたら生涯を共にするのだという。竜人はどうやらその番の習性を持つらしい、という知識はリタにもあった。


「番とは、誰と誰が、でしょうか?」


 チラリと横と後ろを確認したが、近い距離に人はいない。彼の目は明らかにリタにロックオンされている。


「僕と、君が」

「あなたは竜人様ですよね?」

「うん、そう」

「私は人間です」

「知っている。僕も予想外なんだ。普通は同じ種族だからさ、なんでこうなったのか僕にもわからない」


 彼は首を傾げる。どうやら彼も状況が理解できていないらしい。


 番は基本的には同じ種族同士のはずだ。番とは人間で言うならば夫婦のことなのだから、それはそうだろう。人とサルは種族が近くても結婚することはないし、犬と猫だってどんなに仲が良くても夫婦にはならない。


 だけどごくまれに、本当にごくごくまれに、何を間違えたのか違う種族を番だと認識することがあるらしい。しばらく前に隣の隣の隣あたりの町の人間の娘が鳥族の番になった、とかいう話を聞いたような気がする。


 それでも竜人の番が人間だなんて聞いたことがない。

 状況がわからずに目を白黒させていたリタを、彼はまじまじと覗き込んだ。


「ところで、まさかと思うんだけど、僕を番だと思ってなかったりする?」

「……ええと、そうですね?」


 そう告げた瞬間、彼は目を見開いた。赤い瞳がさらに赤みを増し、口には小さい牙が見える。驚いてヒッと喉がなってしまった。

 これはまずい。怒らせたりしたら町の人達なんてプチっとやられるかもしれない。


 だけど、どうしたらいいというんだ。あなたの番です嬉しいです感激です、なんて演技できる余裕はないし、彼がそうしてほしいと思っているはずもない気がする。


「番だと思ってない」

「はい……」

「思ってないの!?」

「あの、そもそも、人間には番という習性がありませんから、何をもってして番というのか、よくわからないといいますか、なんと言いますか……」


 番だと思っていないというか、わからないのだと、リタは口ごもりながら一生懸命に説明した。だんだんと彼が横に傾いていくのが怖い。


「そうか、僕は今こんなにも嬉しいのに、君とこの喜びを分かち合えないのか!」

「……えぇ?」

「番だぞ。番に出会ったんだぞ? 竜人にとって人生最大の喜びだと言われているのに……」


 竜人が現れたという珍しさからか、周りには町人が集まり始めている。そんな中で彼はショックを隠しきれない顔をしている。

 どうしよう、これは喜ぶ気配を見せたほうがいいんだろうか。でも嘘はつかない方がいい気がする。違ったとわかったときにぷちっとやられるのは困る。正解がわからない。


「あ、あの……」

「まさか、もう君は番って……じゃなかった、結婚しているのか?」

「いえ、それはないです」

「伴侶はいない」

「いないです」


 なぜか彼は二度確認してくる。


「そうか、それはよかった。さすがに伴侶がいたら、引き離すのは気が引ける」

「えぇ……?」


 幸いリタは現在十七歳で結婚も婚約もしていないが、もししていても引き離す前提のようだ。できれば放っておいてほしい、という希望は一瞬で砕け散った。


「番だと認識してもらえていないのは残念だが、相手がいないならば問題はないよな?」


 疑問形だけれど、リタはそれに返す答えを持っていない。いや、リタに聞いているわけではないのかもしれない。ただ自問自答しているかのようだ。怒っていないことにホッとはしたものの、問題なくはないと思う。むしろ問題しかないと思う。なにせ、種族が違う。


「じゃあ、どうしたら人間は結婚できるのか教えてほしい。まずは何をしたらいい?」

「結婚。竜人様と、私が?」

「そう」

「私が竜人様の番だなんて、なにかの間違いではないでしょうか?」


 リタはただの町娘だ。美人でもなければお嬢様でもないし、特筆すべきことは特にない。強いて言うならばちょっと気が強いと周りからは言われる程度の、ごく平凡な娘なのである。

 かたや彼は王様ですら頭を下げるという竜人様だ。リタを番とやらにする利点が全くないし、人間の小娘が番だなんて嫌に違いない。そう思いながら顔を上げると、彼はリタに向けてニッコリと笑った。


「竜人が番を間違えるなんてこと、あるはずがないよ。君は僕の番だ。竜人は番と一生を共にする。だけど人間とは感覚が違うこともあるだろうし、えっと、僕はどうしたらいいんだろうか」


 ネズミと象くらいの力の差がある相手に逆らえるはずもない。

 リタの一生が勝手に決まった瞬間であった。





 あまりにも人が集まってしまったために、二人はとりあえず場所を移した。彼はすんなりとリタの後をついてくる。まるで虎の威を借る狐のように、二人からすっと人が避けていく。なんだかリタはいきなり偉くなった気分……なわけがない。やるせない。


 チラッと斜め後ろを振り返ると、彼はニコッと笑いかけてくる。怖いけれど邪心のなさそうな純粋な目だ。リタは笑えているのかどうか分からない笑みを返して、また前を向いた。


 リタは年齢イコール恋人いない歴である。密かに思いを寄せていた人は結婚して隣町に行ってしまったし、また密かに思いを寄せていた別の人はいつのまにか罪を犯して捕まっていたし、婚約者とデートする友人を羨ましく思っていたし、私にもいい人が現れないかなーなんて思っていた。いずれは結婚したいという思いだってないわけじゃない。けれど、これは想定外である。想定外すぎる。


 そんなことを思いながら町外れにある教会に入った。端にあるベンチに腰を降ろし、話を切り出す。


「ええと、結婚するときに人間はどうするのか、という話でしたよね?」

「そうそう。僕は人間のことはよくわからないから、教えてくれると助かる」

「人間に合わせてくださるのですか?」

「君は人間だからね」

「……わかりました。まず、人間の結婚には段階があります」


 番だの結婚だのというのは全く実感が湧かないが、彼にとっては決定事項らしい。

 それに、なにせ竜人様が相手である。町の人だけでなく領主様やお貴族様だって、どうぞどうぞとリタを差し出すだろう。小娘一人よりも竜人様の機嫌を取るほうが国や町のために大事だ。リタがもし仮に王様だったとしてもそうする。


 ということは、だ。どう考えても逃げられないわけである。

 それならば、少しでもいい条件にもっていきたい。決してお姫様待遇を求めているわけじゃない。だけど、種族の違う彼に振り回されて辛く短い一生を終えました、なんてことにはなりたくないのだ。

 幸い彼にはリタの話を聞いてくれる気があるらしい。


「段階?」

「そうです。お互いを知り、お互いが相手を好きになったら恋人になって、家族にも認めてもらえたら結婚する。そんな感じです」


 そうでない場合も多々あるが、おおむね間違ってはいないだろう。恋愛結婚ばかりではなくても、少なくともリタの周りはお互いに気持ちがあっての結婚がほとんどだ。


「そうなのか。もし相手を好きにならなかったり、家族に認められなかった場合は?」

「それは結婚しません。別れます」

「別れる……、そんなことがあるのか」


 番を見つけたら即結婚であるという竜人には、別れるという感覚がわからないらしい。彼は赤い瞳で私を覗き込む。できることならば逃げ出したいという気持ちを探られているようで、どうにも居心地が悪い。


「怒らないで聞いてくれますか?」

「もちろん」

「私には番というものがわかりません。だから私にとって今のあなたは、いきなり現れた見知らぬ竜人様なんです」

「……そうだよね」


 彼はあからさまにシュンとした。心なしか角さえも下を向いているように感じる。

 怖いと思っていたはずの相手だ。きっとリタよりも年上で、力も全然強くて敵う相手ではない。それなのにそんな彼の顔を見たら、なんだか番だと思えない自分が申し訳ないような気がしてきてしまった。


 きっと彼が言っていたように、本来だったらお互いが番だと認識して喜びあうはずだったんだろう。彼にとっても番がリタだというのは残念だったに違いない。

 それでもリタを放すという選択肢はないようだけれど……。


「だから、見知らぬ人からいきなり番だ、結婚だ、と言われても……正直なところ怖いのです。竜人様はずっと強いから、人間なんて簡単にどうにでもできるでしょう?」

「どうにもしないよ」

「そうですか?」


 彼は苦笑して「そうだよ」と言った。意外と優しい顔をしていることに、リタは一瞬だけドキッとした。


「うん、わかった。人間は出会ったばかりの相手といきなり結婚はしないんだね」

「基本的にはそうですね」


 お貴族様は政略結婚で結婚式当日に顔を合わせる、なんてこともあるらしいが、そういうことにしておく。


「僕は、僕が怖くないって知ってもらって、好きになってもらわないといけないってことか。どうしたら君は僕を好きになる?」

「うーん?」


 彼は首をコテリと傾けて、まっすぐにリタに聞いてくる。残念ながら、リタはそれに返せる答えを持っていない。自分でもこんな人が好き、と言える具体的なイメージがないのだ。


「あの、まずは竜人様を知る時間をいただけませんか? どんな生活をしているのか、好きなもの、嫌いなもの。なんでも教えてほしいです」

「もちろんだよ。じゃあまずは、僕のことを伝えるところからだね」

「最初に、お名前を聞いてもいいですか?」


 私がそう聞くと、彼は嬉しそうに微笑んだ。


「僕の名前はバルドゥイーン」

「バ、バルドゥ……ン?」

「バルドゥイーン。呼びにくいだろう。バルでいい」

「バル様ですね」

「番に様をつけて呼ぶ竜人はいない。そのままバルと呼んでくれると嬉しい。君は?」

「リタです。私のこともリタってそのまま呼んで下さい、バル」




 寝て起きたら夢だった、ということを期待したけれど、翌日もバルはやってきた。もう一度寝たらきっと、と期待したけれど、やっぱりその翌日も彼はやってきた。さすがのリタも夢である説は諦めた。

 

 二人の交流は、意外にも順調だった。

 バルは町中にしばらく滞在することにしたらしく、毎日リタのところへやってくる。そしてリタが「なんでも教えてください」と言ったとおりに、ひたすら自分のことについて語った。


「僕の両親は竜人の番で、僕は生まれてから三十年くらい竜人の里で過ごしたんだ。成人は迎えたけれど番が里の中にはいなかったから、それから二年くらいは里を出ていろんなところを巡ってた。だから僕は今三十二歳くらいなのかな? 竜人は自分の年齢を正確に覚えていないんだ。千歳を越える人もいるから、覚えてられないよね。記録にはあるから調べればわかるけど……」


 ずっとしゃべっている。遮らなければ、本当に、ずっと。


 リタの家の前の小さな畑を二人で耕すザクザクという音に、バルの声が重なる。リタはもちろん竜人であるバルに畑仕事をさせるつもりなんてなかった。だけどリタが耕していたら、バルが自分もやると言ったのだ。


 最初は鍬の持ち方も危うかった。農具を使ったことがないのかと聞くと、自分の爪で耕せるから、と言われた。竜人は自分の身体をある程度変えられるらしく、見せてくれた爪はとても怖かった。


 リタが怯えたのが分かったのか、バルはあからさまにしょんぼりして「ごめん」と項垂れた。バルに出会ってからの短い時間でも、彼が攻撃的でないことくらいはわかる。その爪の先を人間に向けるはずがないことだってわかっているけど、それでもやっぱり怖かったのだ。


 それからずっと、バルは人間のやり方で畑仕事を手伝ってくれながら、話し続けている。自分の爪を使った方が早いのに、リタに合わせているのか、それとも怖がらせないようにという配慮か、慣れない鍬をぎこちなく使ってくれている。


「竜人の里っていうのは僕らの故郷で、竜人はみんなそこで生まれるんだ。成人までは外に出ちゃいけないことになっていて、成人の儀式を終えて番が里の中にいなかったら、外に探しに行く人が多いみたい。僕もそうして里を出て、仲間がいるかもしれないところを目的地にしつつ、のんびり旅を楽しんでたよ。それで……」


 寿命が長く、時間の感覚が人間とは違う竜人の成人は、だいたい三十歳くらいらしい。

 成人を迎えるまでの時間の流れは人間の半分くらいの速度で進んでいるようなので、おそらく三十二歳だというバルは、人間に換算すれば十六歳前後だろう。そう考えると十七歳のリタとそんなに違わない。精神年齢もそのくらいか、もっと幼いようにもリタは感じた。千年以上生きるという竜人の中では、バルはかなりの若者らしい。


「この町に来たのは本当に偶然だったんだ。だってまさか人間の町に番がいるとは思わないし、僕の番が人間だなんて思っていなかったから。実は別の仲間に会うために移動してて、その通り道だったんだ。彼女はまだ番がいないから、もしかしたらって話を聞いててさ。ここからずっと先の獣人の国にいるって聞いてたんだけど、でも彼女じゃなかったみたいだから獣人の国には行く必要がなくなっちゃった」


 バルはリタを見てニコッと笑う。そんな笑った顔には、どこか少年っぽさが残っている。人間感覚で言えば冷たくも見える整った顔つきに、笑うと見える小さな牙。人間にはない赤い瞳も最初は怖かった。

 だけど表情が豊かで、とてもわかりやすい。

 いつの間にか、あまり怖さは感じなくなっていた。


「この町に入った時、引かれるような感じがしたんだ。うーん、説明が難しいんだけど、磁石みたいな感じ? 絶対に近くにいるってすぐに分かった。それで……」


 よく話すことがなくならないものだなと感心してしまう。

 だけど話し続ける彼が嫌だとは思わなかった。むしろあまりに必死すぎて、少し笑ってしまう。


「僕は不器用なんだけど、でも鍬さばきも少しは上手くなったでしょ」

「えぇ、とても。だけどね、バル」

「なに?」

「そんなに深く掘らなくていいのです」

「え?」


 バルの前にはしっかりした穴が掘られている。何を埋めるつもりなんだろうか。そんなに深く植える苗はない。


「ごめん、また失敗しちゃった」


 バルは慌ててその穴を埋める。

 昨日は別のところに植えた苗を踏みつぶした。雑草を抜くつもりで植えた苗も抜いた。鍬で自分の足を打ってしまったり、水を撒いていたはずなのにずぶ濡れになっていたりした。不器用だと言っているのは本当かもしれないと、リタは思わず笑ってしまった。


「バル、少し休憩にしませんか?」

「どうして? まだできてないところがあるよ」

「そうですけど、そろそろ疲れたのではありませんか?」

「……あぁ、そうか。リタはこのくらい動くと疲れるんだね、なるほど」


 竜人とは体力も全然違うらしい。バルは疲れた顔ひとつ見せていない。


「バルは疲れないの?」

「このくらいでは大丈夫。でも五日間飛び続けた時は疲れたかな。広い海に出ちゃったみたいで、休めるところがなかったんだ」

「飛べるんだ」

「飛べるよ。必要になったら翼を生やして飛ぶんだ。小さいときから翼を出す練習と飛ぶ練習を繰り返してね、普通は五歳くらいでできるようになるんだけど、僕は不器用だから十歳でやっとだったな……」


 バルはまた全力で話し始める。バルがどういうところで育って、どんなことをしてきたのか。話を聞くのは楽しい。全然違う世界のことを知れるし、バルのこともよくわかる。だけど、どうにも彼が頑張っている感じがした。


「バル、あのね」

「なに?」

「たしかに私はあなたのことが知りたいし、教えてほしい。そう頼んだのも私。だけど、そんなに一気に言わなくてもいいのですよ」

「ごめん、うるさかった?」

「そうではなくて。話してくれるのは嬉しいけれど、話したいときに、話したいだけでいいの。無理に急がなくていいの。だってまだこれから、時間はたくさんあるでしょう?」

「あぁ、なるほど」


 その日から、バルはひたすら話すということはなくなった。

 代わりにリタが話す時間が増えた。彼はいつも嬉しそうにリタの話を聞いてくれた。二人の間に笑う時間が増えた。




 耕した土に植えたトマトの実がなるころ、二人は恋人にランクアップした。


「人間は恋人になったら何をするんだ?」

「うーん、贈り物をし合うとか?」

「贈り物か……。それなら、竜人が贈り合うといえばこれなんだけど」


 バルは自分の襟元から手を入れたと思ったら、何かを取り出した。半透明のうろこ状のもの。それを軽く服で拭いてから、どうぞと渡された。手に取るとほんわりと温かい。光にかざすと複雑な色できらめいて、とても綺麗だ。


「これは?」

「僕のうろこ。人間にはないんだっけ?」

「うろこはないなぁ」

「そっか。竜人は身体の一部にうろこがあって、一人一人模様や形が違うんだ。だから交換して相手のものを身につける」

「そうなの。とても綺麗……え?」


 バルを見ると、ちょっと照れた顔をしながらニコニコしている。そのお腹あたりの白っぽい服が、じわじわと赤く染まってきていた。


「バル! それ!」

「ん? あぁ、ごめん、血が出ちゃった」

「出ちゃったって……!」

「普通はすんなりうろこが取れるらしいんだけど、僕は不器用だから、ちょっ引っ掻いちゃったみたい。大丈夫、すぐ治るよ」


 バルはなんてことないという顔をしているけれど、けっこう出ている。リタは怪我の具合を見るため、急いでバルの服をめくろうとした。だけどバルは「わぁ、駄目だよ!」となぜか顔を赤くして、何度言っても見せてくれない。


「ちょっと、手当しなきゃ! 恥ずかしがってる場合じゃないでしょう」

「大丈夫だってば。僕にとってはなんてことはないんだってば」

「でもそれだけ血が出てるじゃない。竜人だから痛くないってことはないでしょう?」

「自分で手当できるから!」


 結局彼は走って逃げてしまった。動いたらまた血が出そうなのに、リタでは追いつけない。


 後日、リタは贈ってくれたお礼と共に嬉しいけれど、身を削るような贈り物は今後しないでほしいと伝えた。


「えー、でも怪我は治るし、うろこだってまた生えるのに。僕はそれよりリタにもっててほしいんだけど」

「今回もらったものを一生大事にするから」

「一生持ってたらさすがにくすむんじゃない? 綺麗なほうがいいよ」

「でも!」

「わかったよ。それなら、自然に剥がれ落ちたものならばいいでしょう?」


 なお、この竜人のうろこ一枚に軽く豪邸が建つ価値があると知ったのは、しばらくあとになってからである。



 人間であるリタにはもちろんうろこがないので、代わりに刺繍したハンカチを贈ることにした。少し時間をもらって、バルの名前とちょっとした飾りを丁寧に刺繍した。

 それを渡すとバルはとても喜んでくれた。……というところまではよかった。


「ねぇリタ、お願いがあるんだけど。このハンカチに、リタの髪を一緒に縫ってくれないかな?」

「……はい?」

「僕もリタの一部を持っていたいんだよ。一本でいいから」

「えぇ? 人間はそんなことしないよ。それにそれは、気持ち悪くないかな……」

「気持ち悪くないよ!」


 彼の懇願に負け、リタは刺繍したハンカチに自分の髪の毛を縫い付けた。少しでも可愛らしいほうがいいかと思って花の形にしてしまったのもまた、失敗の原因の一つかもしれない。作っておきながらなんだが、呪われそうである。いや、呪う側か?


「あの、バル。できたんだけど、その……」

「わぁ、ありがとう、リタ! ずっと大事にする」

「う、うん。いや、やっぱり大事にしなくていいよ。いつでも作れるし、すぐ捨ててもらっていいから」


 むしろすぐに捨ててほしい。渡しておいてなんだが、もう呪物にしか見えない。

 彼はものすごく喜んでくれた。なんというか、複雑だ。やっぱり竜人の考えることはわからない。違う種族を理解するのは難しいと、リタは改めて感じた。




 人間であるリタに、番というものはよくわからない。だけどリタがバルに惹かれるまでに、時間はかからなかった。


 バルはリタを番だと言ってから、ずっとリタだけを見ていた。一生懸命に自分のことを話しながら、リタを、そして人間の世界を理解しようとしてくれた。竜人と人間では育った環境も常識も、なにもかもが違う。彼から見たら人間なんて弱くてちっぽけな存在のはずなのに、彼はできる限りリタに合わせようとしてくれた。


 彼はやろうと思えばいつだってリタを連れ去ることができたし、リタの意志とは関係なく無理やり結婚させたり、意のままに操ることだって簡単だ。俺に合わせろともし言われたならば、リタは拒むことができない。

 もしリタがバルの立場ならば、相手のやり方に合わせるなんて面倒なことをせずに、さっさと連れ去ったようにも思う。そうしてしまうほうが簡単なはずなのに、彼は決してそうはしなかった。


 バルにとって馴染みのないこの町に住み始めてもう一年。その間にバルがたくさん戸惑って、困って、努力していたことを私は知っている。今ではすっかり町に溶け込んで、リタは町の皆から羨ましがられるようになった。

 ずっとリタに合わせて、ちっぽけな人間の小娘ために一生懸命になって。不器用にも程がある。


「すっかり私の家族もバルの味方ね」


 お互いを知って、恋人になって、家族に認めてもらえたら結婚する。バルにとっては達成する必要もない人間はそうすると伝えた条件のようなものは、とっくにクリアしていた。


「じゃあ、僕と結婚してくれる?」


 バルがパアッと顔を明るくしてリタを見る。

 いつでもリタのことを考え、リタが望むようにしてくれる。そんな彼に惹かれないはずがなかった。

 リタの気持ちはすでにバルにあった。

 だけどリタは、そんなバルに釣り合うような人間ではない。バルに惹かれれば惹かれるほど、リタはそう思うようになった。ごく普通の町の娘。特別なものは何も持っていないのだ。


「バル、私は人間なの。空も飛べないし、贈れるうろこもない。できることも竜人様とはたぶん全然違う。番というものも、やっぱりよくわからない」

「うん、知ってる」

「それにね、私はバルよりずっと早く歳を取る。あなたがほとんど変わらないままなのに、私はすぐにおばさんになって、おばあさんになって、そしてずっと早く死ぬの」


 バルがリタをしっかりと見てくれていることはわかる。だけどリタには同じ気持ちが返せるのかわからない。番というものがわからないから。

 それに、寿命の違う竜人とリタが、同じように生きていけるのかもわからなかった。


「番じゃなかったとしても、同じ竜人と過ごすほうがバルにとってはいいんじゃないの?」

「それはないよ。番がいるのに一緒に過ごさないっていう選択肢が竜人にはないんだよね。もしリタがまだ結婚したくないっていうなら待つよ。でも、そろそろ僕のことをちゃんと見てくれると嬉しいんだけど?」


 バルが悪戯っぽく笑う。その顔を見て、リタは眉を下げた。


「もう、ちゃんと見てるよ」

「えっ」

「見てないわけないでしょう。バルったら、毎日毎日飽きもせず私の前に現れてはなんだかんだと絡みついてくるんだから、見るなって言う方が無理っていうか……」


 違う、そうじゃない。そんなことを言いたいんじゃないのに、なんで付きまとわれて迷惑みたいな言い方になっちゃうんだろう。バルはいつだってまっすぐに気持ちを向けてくれるのに、リタにはそのまっすぐが難しい。


「私でいいの?」

「リタがいいんだよ」

「本当の、本当に?」

「結婚してって言ってるのはこっちなのに、何度聞くの。本当の、本当に決まってるでしょ」


 バルは純粋な顔で笑う。その顔が眩しい。


「それなら、私をバルの世界に連れてって」

「……それって?」

「私をあなたの番にして、って言ってる。私には番の気持ちが分からないから、バルと同じ気持ちを返せてるとは思ってないけど、それでも、私だって、その……バルのこと……好き……だから」


 だんだん声が小さくなっていく。たぶんリタはひどい顔をしている。

 バルは目をこれでもかというくらいに見開いた。リタが気まずくなって目を逸らすと、バルはリタを思いっきり抱きしめた。



 二人は町の教会で結婚式を挙げた。竜人には結婚式という習慣はないらしいけど、なぜかバルのほうが張り切っていた。

 規模は大きくない。バルが張り切ったおかげで一般的な庶民の結婚式よりは少しだけドレスの質が上がって、お花の量も多かったけれど、それでも普通の町の結婚式だ。そのはずだった。

 相手が竜人だったからか、当日は周辺の貴族や領主様まで出てきてしまって、なんだか大変だった。どうしてそうなったのか、バルも知らないらしい。


 リタは幸せな新婦になってバルに嫁いだ。いきなりバルから「僕の番」と言われた時にはもう家族に花嫁姿を見せることも叶わないのだと諦めていたけれど、家族からも町の人からも祝福される、素晴らしい式だった。



 式を終えてしばらくして、二人は場所を移した。リタが望むならばこの町にずっと住み続けてもいいとバルは言ったけれど、竜人は力が強すぎるために一か所に留まるのはその町や領にとってよくないとリタは聞いていた。竜人に頼りきってしまい、人だけで生活できなくなるからだ。


 竜人の中でも、竜人の里以外では一か所に留まらないように、違う種族とあまり深く関わりすぎないように、と教えられているらしい。


 リタを通してバルに協力してもらいたい、といった話もすでになくはない。人の良いバルは、頼まれたらきっと手を貸してしまう。それが人間の社会にとって、必ずしも良いこととは限らない。


 二人はいろんな町を転々としながら、竜人の里を目指した。とても楽しい日々だった。だけどやはり二人は種族が違って、それゆえにお互いに理解するのは難しかった。


 例えば。

 歩くよりも速いからといきなりリタを抱えて飛んだり(怖かった)

 リタが言わないと飲食しなかったり(竜人は五日くらい飲まず食わずでも全然大丈夫らしい)

 食べ物として芋虫をたんまり取ってきたり(怖かった)

 寝なかったり(竜人は五日くらい寝なくても全然大丈夫らしい)

 リタの寝顔を一晩ずっと見ていたと言われたり(怖かった)

 ひたすら動き続けたり(竜人は五日くらい休まなくても以下同文)


 時間の感覚にはかなりの違いがあって、「ちょっとこの町に寄っていこうか」の「ちょっと」が一年くらいだったり、「この前仲間の竜人とこんなことを話した」の「この前」が十年以上前だったりした。


 今まで人間として生きてきたリタとは、常識も考え方も、何もかもが違った。

 人間同士の結婚でもお互いの価値観を合わせるのに苦労すると聞いた。けれどその比ではないと思う。

 そう思いながらも、リタだって結婚した経験があるわけじゃないから、もしかしたら人間同士でもこんなものなのかもしれない、とも思う。


 一度リタが倒れたことがあった。体力が全然違うことはわかっていたものの、それでもなるべく迷惑を掛けたくないと思って頑張って歩き続けてしまったのだ。暑い日だった。

 目が覚めたとき、倒れたリタよりも死にそうな顔をしているバルと目が合った。そしてリタは余計に迷惑を掛けたことを悟った。


「ごめん、ごめんよ」

「なんでバルが謝るの。言わなかったのは私だよ」


 そんなことがあってから、二人は今まで以上にたくさん話した。人間には物理的に難しいといった話から、これは好きだ嫌だというお互いの性格の話、それからたわいのない話まで、思うところはお互いになんでも話した。



 竜人がとても穏やかだというのは本当のようで、リタはバルが怒ったところを見たのは一度きりだ。


 ある町で一人で買い物に出かけたことがあった。まだ明るい時間だったし、人通りも多い場所だったから大丈夫だと思ったのだ。だけど大丈夫じゃなかった。

 路地裏に連れ込まれて誘拐されそうになった。

 後から知ったことでは、若い女性を集めて他国に売る組織的な犯罪だったらしい。


 バルは一つの町程度の広さであれば、番であるリタの場所を把握できる。そのリタが町から遠ざかろうとしていることを不審に思い、探しにきたところ、猿轡を噛ませられて両手を縛られたリタと数人の女性がいたのである。


 結果としては、怒り狂ったバルが組織ごと壊滅させた。売られる寸前だった女性たちからも、国や領からも感謝されることになったが、その時のバルは怖かった。

 実行犯たちが倒れるまでの時間は、ほんの一瞬だった。本当に強くて怖かった。

 怖くて、それでいてこれ以上になく安心した。

 実行犯たちはかろうじて生きていたが、リタが見ていなければ生かしていなかったとバルは言った。竜人の本気を知った。


 ちなみにバルは、リタがどんどん遠ざかっていくのを自分から逃げようとしているのかもしれないと思って、絶望に打ちひしがれていたらしい。思わず「なんでよ」とツッコミを入れてしまった。


「もし私が逃げたら、そのまま逃がしてくれるの?」

「えっ……えっ。それは、えーと、うーん、うーん、うーん……」

「いや悩まなくていいから。連れ戻してよ」

「えっ」

「ごめん、ひどいこと聞いちゃった。逃げることはないから。バルが私を捨てなければ、私からは離れないから。助けてくれてありがとう、バル」




 ようやく竜人の里についたとき、リタはすでにおばさんと言える年代になっていた。


「ねぇバル、本当に大丈夫かな」


 いつもは強気なリタでも、さすがに不安だった。リタは親になったことはないけれど、息子が「僕の番だ」といってワオキツネザルを連れてきたらどう思うかくらいは分かる。「ハァ?」である。

 リタはワオキツネザルではないけれど、きっと竜人からしたらそのような分類に違いない。


「大丈夫だよ。みんな優しいから」


 優しいから大丈夫、の根拠がわからないけれど、バルに連れられて入った里で実感した。本当に優しいから大丈夫だった。


 まず、わらわらと竜人が集まってきて、リタは大注目された。人間より大柄な竜人に囲まれて、リタは縮こまるばかりだ。そしてバルが自分の番だと紹介すると、大歓迎されたのだ。


「大丈夫だったでしょ?」

「竜人様って心が広すぎないかな。私だったらワオキツネザルを歓迎しないよ」

「ワオキツネザル?」

「なんでもない」


 リタは里に滞在する間に竜人たちと仲良くなり、質問攻めにあった。バルとどうやって出会ったのかというところから、今の状況まで。番という習性があったとしても、コイバナというものにきゃっきゃするのは竜人でも変わらないらしい。


 話をしていた竜人たちに、人間がバルの番で嫌だと思わないのかを聞いてみたら、それは全く思わないと返ってきた。人間が番だなんてバルドゥイーンらしいと、そう思ったらしい。それは少しだけ切なそうな顔だったけど、嫌味なところはひとつもなかった。


「私が番なのがバルらしいってどういう意味?」

「僕は竜人の中では小さいし、力も弱いし、他のみんなが簡単にできるようなことでもなかなかできなくて、不器用だから……。番が竜人じゃなくても納得っていう感じかな。みんなリタのことを嫌がっているわけじゃないよ」

「それはわかってるよ。みんな私にもすごく優しいもの」

「リタ、僕のこと、嫌いになった?」


 思ってもいないことを聞かれて、リタはきょとんとバルを見上げる。


「なんで?」

「他の竜人のほうがかっこいいから」


 バルはちょっと拗ねた顔をしている。

 人間の中にいると大きくて圧倒的な力を持っているバルも、たしかにここにいると小さく見える。彼が仲間と呼んでいる竜人たちからも、頼られているというよりは可愛がられているようだ。


「そんなわけないじゃない。他の竜人様をかっこいいと思ったことはないし、それに……私にはバルだけだよ。まだ疑うの? 馬鹿」


 リタがツンとしながら返すと、バルは「リタぁ!」と抱きついてきた。


「苦しいっ! これで力が弱いっていうなら、他の竜人様なら私は死んでる」

「ごめんごめん」

「謝らなくていいから力弱めてっ」




 いつのまにか、リタはおばあさんになった。

 竜人としてはまだ若者のバルの隣にいると、どう見ても夫婦ではなくて祖母と孫だ。それでもバルはリタから離れることはなかった。


 若い時には少しの無理ならできたけれど、もうそれもできない。

 そんなリタのために、バルは町の外れに小さな家を買った。もう移動しなくていいように、ここでゆっくりできるようにしてくれたのだ。


「人間の男はね、パートナーが年を重ねると若い女性と浮気したりするんだって」

「えっ、なんで?」

「さぁ。若い方が綺麗だからじゃない? もちろん、人間の中でもごく一部の話よ。男ばかりが浮気するわけでもないし、一途な人だっていっぱいいるけれどね」

「うーん、番じゃないっていう感覚が僕にはわからないから、若いほうが綺麗っていうのが理解できないなぁ。若いときも今も、リタがリタであることに変わりはないし。僕には常にリタが一番」


 バルはリタの皺の寄った額にチュッと口付ける。


「私、幸せだなぁ」


 思わずそう呟くと、バルがハッとしたような顔でリタを見た。


「本当の、本当に?」

「なんでそんな泣きそうな顔するの。私が嘘をついたことがあった?」

「ないけど、でも……」


 バルがリタに罪悪感を持っていることに気が付いたのはいつだっただろう。無理やりリタを連れてきたのだと、彼はそう思っているらしい。

 リタは何度も否定した。一緒に来たのはリタの意志でもあるのだし、嫌だと思ったことは一度もないと何度も言った。そもそもバルは無理やりを強いることができる立場ながら、そうするような人ではないのだ。それでもどこか思うところがあるようだった。


「本当の、本当に。幸せな人生だった。あなたといられて、私は幸せよ。ねぇバル、聞いてくれる?」

「なに?」

「私はこの年になっても、番の気持ちはわからない。わかったらよかったのにね、でもわからないのよ。だけど、これだけは信じてほしいの。番じゃなくても、私は私の全てでバルを想ってる。バルが私を想ってくれている以上に、私だってバルを想ってる」

「……うん」


 もしバルと一緒じゃなかったらどうなっていただろう、と考えたことがないと言えば嘘になる。誰か別の男性と結婚して、子供がいたりしたのだろうか。今ごろは孫に囲まれていたりしたんだろうか。それももしかしたら幸せだったのかもしれない。

 だけど、逆に苦しい道を歩んでいたかもしれない。どうなっていたかなんて、結局わからない。確かなのは、バルと生きた人生が幸せだったということ。


 バルと共に歩まないという選択肢はなかったけれど、もしあったとしても、やっぱりリタはバルと一緒に生きたと思うのだ。だからリタに悔いはない。


 だけど、心残りならばある。

 バルを置いていかなければならないこと。


 番を失った竜人は、自身も近いうちに後に続くことが多いそうだ。ただしそれは、長い時を共に過ごした竜人同士の話。バルはまだ若すぎる。

 バルに寂しい思いをさせることはわかっている。それでも生きてほしいと思うのはわがままだろうか。


「バル、知ってる? 魂は巡るんだって。だから、また私を探して」

「リタ、そんなこと言わないでよ」

「私が生まれ変わった時、また側にいてほしいの。なるべく早く生まれ変わるように頑張るから、だから、この世界で待ってて」


 一人にしてごめんね。そして、ありがとう、バル。

 そう言い残して、リタは目を閉じた。

 いつもは少しひんやりとしていたバルの手が、その日はとても温かかった。



 ◇◇◇



 人間よりもずっと長いが、竜人にも寿命というものは存在する。はっきりとわかっているわけではないが、千から二千年程度だと言われている。

 その長い時を共にした番を失った竜人は、多くの場合遠くないうちに後を追う。故意にそうするわけではなくても、そうなってしまうのだ。それほど竜人にとって番の存在は大きい。


 リタを失って、バルドゥイーンは深い悲しみの中にいた。まるで自分の半身がなくなってしまったかのような喪失感が絶え間なく襲ってくる。

 なるほど、だから……、とどこか冷静な自分が納得した。

 この喪失感に、皆耐えられないのだ。辛くて、苦しくて、もうどうしようもない。胸を掻きむしって、みっともなく泣きわめいて。それでもこの気持ちは収まらない。


 だけど、バルドゥイーンは番の後を追うには若すぎた。どれだけ心が傷もうとも、その身体が弱ることはなかったのだ。


『魂は巡るんだって。だから、また私を探して』


 リタはそう言い残して、バルドゥイーンの元から旅立った。

 おそらくリタはバルドゥイーンを心配したのだ。番を失った竜人が後を追うことを知っていた彼女は、まだ若いバルドゥイーンが自分についてこようとするのではないかと。


「君は残酷なことを言う。そう言われたら、探すしかなくなってしまうではないか」


 一人になってから一年。もしかしたらリタの魂を持った誰かが、もう生まれているかもしれない。

 バルドゥイーンは重い腰を上げた。


 どこにいるかわからない、存在するかもわからないリタの魂を探しながら、バルドゥイーンは彼女との日々を思い出す。

 おはようと言って食事をとって、畑を耕して、町に出て、おやすみと言って同じベッドで眠る。なんでもないそんな日が、今はひどく恋しい。


 ある人間の村を訪れた。だけどやはりリタはいなかった。そこを出て数日彷徨い、別の町に入った。やはり何も感じない。

 そんなことを繰り返しながら、また別の町に来た。


 屋根に上り通りを見下ろすと、若い人間の男女が微笑んでいるのが見えた。その視線の先には小さな子供がよちよちと歩いている。幸せそうに見える日常の風景。


 種族の違うバルドゥイーンとリタの間には、当然ながら子はできなかった。

 竜人が番を離すことはない。何があっても共に生きるのが番だ。だけどそれはあくまで竜人の都合だと、今のバルドゥイーンは理解している。

 リタは人間だった。人間に番の習性はない。バルドゥイーンが番だと言ったからリタは来たのであって、彼女の意志でそうなったわけではなかった。


 よたよたと歩いていた子がつまずいた。子供の泣き声が響く。母親が彼を抱き上げ、あやしている。


 バルドゥイーンは自分にできる限り、リタを大切にした。彼女も幸せだと言っていた。実際彼女は毎日明るく笑っていた。

 だけど、本当にそうだったのだろうか。

 もしバルドゥイーンが手を伸ばさなければ、リタは人間の中で生きただろう。誰か別の人間と結婚して、あの若い男女と子供のように笑っていたかもしれない。周りの人や家族と同じように老いて、支え合いながら散歩でもしたのかもしれない。

 そのほうが、リタにとっては幸せだったのかもしれない。


 それならあの時、声をかけなければよかったのだろうか。

 それは無理だった。出会ってしまったのだ。どうしたって惹かれて、側にいたくなる。


 竜人にとっては、番に出会ったら一生共に過ごすのが常識だ。周りの竜人は皆そうだったし、それ以外を知らなかった。

 リタに出会ったとき、そんな常識を疑うにはバルドゥイーンはまだ若すぎた。番に出会ったのだから番う。当然のことすぎて、疑問にすら思わなかった。


 リタにとっては、そうではなかったのに。


 もしかしたら、とか、こうだったのかもしれない、なんてことを言ったらきりがないことは分かっている。だけどバルドゥイーンがリタの、人間の社会で生きていたはずの一生を奪ったのは事実だ。それに関してバルドゥイーンはずっと罪悪感を持っている。


 どうするのが正解だったかなんて、いくら考えてもわからない。答えの出ない問いを延々と繰り返しながら、バルドゥイーンは町から町へ、人間の国を巡っていた。



 時間の感覚が鈍いバルドゥイーンは、どのくらいの時間彷徨っていたのかわからない。ふと覚えのある感覚がして、胸が高鳴った。

 引き寄せられるままにその方角に向かうと、一人の女性が花屋の前に立っていた。


 姿形は違う。だけど間違いなく惹かれた。リタの魂を持った人がそこにいた。


 バルドゥイーンは屋根から飛び降りて駆け寄り、思わず手を引いた。


「リタ!」


 自分がどんな顔をしていたかわからない。だけどきっと喜びに溢れ、興奮が抑えきれない顔をしていたんだろう。

 対する彼女の顔に浮かんだ表情は、恐怖だった。


「リタ? 僕だよ。バルだ。忘れたのか?」


 彼女は怯えながら、小刻みに首を横に振った。

 そんな彼女を背に庇うように、隣にいた男が前に出た。バルドゥイーンが竜人だとわかっているのだろう、決死の覚悟というような顔をしていた。


「私の婚約者に何か御用ですか?」

「こんやく、しゃ……」

「はい。それに、彼女はリタではありません」


 彼の顔を見て、彼女を見る。彼女は彼の腕をしっかりと握っていた。そしてその表情は変わらず、見知らぬ竜人が怖いと震えていた。


 彼女は、バルドゥイーンを覚えていなかった。


「くっ……」


 バルドゥイーンは下を向き、拳を握りしめた。そして意識して笑顔を作った。精一杯自然になるようにしたけれど、上手く笑えているかはわからない。

 そしてその顔のまま、もう一度彼女を見た。


「すまない。人違いだったようだ。怖がらせてしまって申し訳なかった。あぁそうだ」


 バルドゥイーンは目の前の花屋で花束を一つ買った。

 彼女を一瞬見てから婚約者だという男に渡す。


「お詫びにこれを。幸せになってくれ」


 バルドゥイーンはすぐにその場を離れた。引き裂かれるような思いがした。

 人違いであるはずがなかった。竜人は番を間違えることは絶対にない。彼女はリタの生まれ変わりだった。


 それからバルドゥイーンは遠くから、こっそりと彼女を見守った。

 彼女は婚約者だと名乗った男と結婚して、子供が生まれていた。バルドゥイーンを思い出す気配はなかったけれど、明るくて優しい本質はリタと同じだと思った。

 彼女は夫とよく喧嘩をしていたけれど、それでも二人は離れることはなく、緩やかに老い、そして死んだ。笑ったり怒ったり楽しんだり泣いたり、忙しい人生だった。

 竜人からするととても短い、あっけない一生にも見える。だけど彼女は人間として生き抜いた。


 バルドゥイーンは最期まで彼女の前に姿を現わすことはなく、ずっと見守った。

 バルドゥイーンに彼女の気持ちはわからない。でも、きっと幸せだったと思う。

 そして見届けると、バルドゥイーンはまた魂を見つけるために放浪した。



 次にリタの魂を見つけた時、すでに彼女は中年になっていた。


「やあ、はじめまして、かな?」

「あらあら、竜人様ではありませんか! 珍しいこと。この村に何か御用が?」

「……いや、寄ってみただけだ」

「そうですか。どうぞゆっくりなさって下さいね」


 やはり彼女はバルドゥイーンを覚えていなかった。人の良さそうな笑みは同じだけど、リタではない。

 同じようにバルドゥイーンは、彼女に見つからないように、遠くから見守った。


 そうして何度も生まれ変わったリタを見た。ある時は商家の娘で、ある時は農家の娘だった。彼女が番だということははっきりとわかるのに、誰もバルドゥイーンのことを覚えていなかった。


 バルドゥイーンは恋しかった。確かにリタの魂に惹かれていた。いっそのこと覚えていなくてもいい。もう奪ってしまおうか、と思ったこともあるほどだ。

 だけどできなかった。彼女たちには人間としての幸せがあったから。

 他でもないリタが、相手の幸せを思う気持ちを教えてくれていたから。


 同時に、非常に不思議な感覚もあった。

 間違いなく彼女が番であるとわかるのに、リタじゃない。

 番はリタ一人のはずなのに、番なのにリタじゃないのだ。


 リタの魂が生まれ変わるたび、その齟齬は大きくなっていった。リタではないリタの魂を持つ人と一緒にいる自分が想像できなかった。惹かれるのは確かなのに、愛しいかといわれるとよくわからない。

 竜人にとって番は何よりも大切で、見つけたら手放すことなんてできないはずだ。近くにいるのに触れずにいるなど、気が狂ってしまうに違いない。それなのに、無事ならばそれでいいとも思えるのだ。

 どうしてだろう。もし彼女がリタだったら、じっとしていることなど到底できるはずもないのに。



 ◇◇◇



 リタの魂を持つ娘が亡くなってしばらく、バルドゥイーンは次の生まれ変わりを見つけられずにいた。

 なんとなく今までリタの魂は彼女と出会った町から遠くないところに生まれ変わっていたから見つけられたけれど、今回はどこか近くない場所なのかもしれない。


「一度、帰るか」


 長い間戻っていなかった竜人の里へ。


 バルドゥイーンはまだ決心はつかないものの、これを機にリタの魂を探すのをやめようかと考えていた。

 今でも、いつかリタに会えるんじゃないかという期待がないわけではない。探したい気持ちはある。だけど何人かの生まれ変わりを見てきて、彼女たちには彼女たちなりの幸せがあることを知った。


 もしリタが……バルドゥイーンと過ごした記憶のある、あのリタがまた生まれたら。

 バルドゥイーンはきっと我慢ができない。見守ることなんてできない。また人間としての人生を奪って、側に置きたくなる。きっと見つけた瞬間に連れ去ってしまう。

 今度こそ、人間として幸せな人生を歩んでほしいと思っているのに、それでもきっと無理だ。

 それならば、出会わないほうがいいんじゃないかとも思ったのだ。


 そういえば、しばらくぶりに竜人の子が生まれたと噂で聞いていた。寿命の長い竜人は、滅多に子が生まれない。バラツキはあるものの、数十年に一人ということだってある。だから子が生まれると、里にいる皆で可愛がって育てるのだ。

 自分の子ではなくても、そうして仲間を育てる一人になるのも悪くないと思った。


 お祝いは何がいいか。

 里までの道中にある町の市場を覗きながらそう考えて、その子とやらが生まれたと聞いたのはいつだったかと思い出す。……思い出せない。ずいぶん前だ。とすると、小さい子向けのものを用意しても使わないかもしれない。


「とりあえず、戻ってから考えればいいか」


 急ぐ必要もないので、バルドゥイーンはのんびりといろんな場所に寄りながら竜人の里を目指した。竜人としては異常なほどに人間社会に馴染んでしまったので、立ち寄ったたくさんの場所でなんだかんだ手助けをしたり、頼られたり、問題を解決したりしながら進んだ。そのために思ったよりも時間が掛かってしまった。


 竜人の里にだいぶ近づいてきたところで、ふと覚えのある感覚がして立ち止まった。

 薄っすらと、でも確かに惹かれている。


「……まさか」


 思わずその気配がする方角に駆け出した。竜人の里の方向だ。近付くにつれてその感覚はどんどん強くなる。

 それと同時に鼓動が強く、早くなる。もはや自分の鼓動なのか、足音なのかわからないくらいだ。期待に頬が緩んだ。


 思いのままに翼を出した。走るよりも飛んだほうが早いし、里に入るには山を越えるからだ。その翼を動かそうとして、そして、急にためらった。


 番がいる。竜人の里に、番が。

 竜人の里に人間が立ち入ることはほとんどない。リタがいたころに連れていったことがあったが、そのような特別な事情さえなければ人間だけで立ち入れる場所ではないからだ。

 その竜人の里にいる。

 ということは、番が竜人である可能性が高いということだ。


 バルドゥイーンは自分の魂が歓喜の声を上げているのを聞いた。だけど一方で冷静になる自分もいる。

 今までリタの魂の生まれ変わりを何度も見てきた。その中で、リタの記憶を持った人はいなかった。

 リタではない番とこれから長い時を過ごすことになるのか、それがはたしてできるのか。


 バルドゥイーンはどうしていいかわからなかった。出会ってしまったら、きっとお互いに離れることは難しい。それならば、そうなる前にここから去るべきなのかもしれない。


 いつのまにか出していたはずの翼は消えていた。

 行くか、去るか。どちらにも決められずに立ちすくむ。


 その時、番の反応がぐっと近くなった。里の方角から何かが飛んでくるのが見える。

 あぁ、しまった、とバルドゥイーンは胸を押さえた。

 今までは相手が人間だったから、番だと気が付くのはバルドゥイーンだけだった。でももし竜人なら、お互いが番であると認識できる。そのことを失念していた。

 バルドゥイーンが相手に気が付いているということは、相手だってバルドゥイーンに気が付いたということだ。だから迎えに来てしまったのだろう。


 一人の竜人がバルドゥイーンの前に静かに降り立つ。

 彼女はリタに生き写しだった。


「リタ……」


 誰にも聞こえないくらいに呟いて、なんとか言葉を留めた。

 鼓動が早くなりすぎて、バルドゥイーンの身体の全てが悲鳴をあげる。

 それをどうにか押し込めて、バルドゥイーンは息を整えて、唾を飲み込む。カラカラになった喉が痛んだ。


 そして生まれ変わったリタの魂を持つ人に初めて会った時と同じように、全ての感情を隠して笑顔を作った。


「やあ、はじめまして、かな?」


 嬉しそうな顔をしていた彼女は表情を一変させ、大きく目を見開いた。


「バル、何を言っているの? 私のこと、忘れちゃった? 私はリタよ。あなたの番だった、リタ」


 不安そうな表情をした彼女は、自分の耳の上を指差した。


「見て、私、竜人になったの。ようやくバルと同じになれたのよ!」

「リタ……?」

「そう。思い出してくれた?」

「リタ、なのか?」

「そうよ」

「本当の、本当に?」


 彼女はクスッと笑う。


「何度聞くの。本当の、本当に決まっているでしょう。疑うなら、あなたとの思い出を最初から語ってもいいけど? いきなり私の前に現れて番うにはどうするのか聞いてきたところから……」

「本当に、リタなんだね」

「そうだって言ったでしょう、もう、しつこい」

「だって、君は何度も生まれ変わって、でもリタじゃなくて……」

「あの時からもう四百年も経ってるなんて、私も思わなかったの。早く生まれ変わりたかったけど、私の魂はすぐに竜人にはなれなかったみたい。遅くなってごめんなさい」


 リタはそっとバルドゥイーンの手を取る。

 バルドゥイーンはその手の感覚を確かに感じた。バルドゥイーンの妄想なんかじゃなくて、ちゃんと目の前にリタがいる。


「ねぇバル、聞いてくれる?」


 リタはちょっと恥ずかしそうに頬を赤らめ、視線を触れた手に下げる。


「私ね、番ってどういう感覚なんだろうってずっと思ってた。人間には番の感覚がわからないから、知りたかったの。バルはずっと自分ばかり想いを押し付けてるって気にしてたでしょ?」

「……うん」

「あなたが私を愛してくれているのと同じ気持ちを返せたらいいのにって、ずっと思ってた。私としては返してるつもりだったのよ。だけどやっぱり私は人間だから、どんなに頑張っても番の気持ちは理解できないのかなって」


 バルドゥイーンもそう思っていた。リタは人間だから、番の気持ちは理解できないものだと。それでもよかった。バルドゥイーンは、リタがもし嫌でないのなら、側にいてくれればそれだけでよかったのだ。


「でもね、今、番の感覚がわかるようになって、ちょっと拍子抜けしてるの」

「拍子抜け?」

「違うっていうのはわかるの。バルが磁石が引き合う感じって言ってたのはそのとおりね。この感覚はたしかに人間のときにはなかった。だけど番の想いってもっともっと、ずっと強固で重いものなのかなって思ってた」


 リタはフフッと笑う。


「だけど、私の想いは変わっていないの。今も、人間だったときも。磁石はただの磁石で、想いとは別物なのね。私、あのときもちゃんと同じ想いを返せてたみたい」

「それって……君は、僕を……?」

「人間だった時も、番だろうがそうでなかろうが、同じように想ってたってこと! わっ?」


 バルドゥイーンは触れていたリタの手を引いて、彼女を抱きしめた。


 リタのぬくもりを全身で感じて、バルドゥイーンはようやく理解した。

 ああそうか。

 バルドゥイーンもリタじゃなきゃ駄目だったのだ。魂に惹かれるのは事実だけど、それだけじゃない。その上に一緒に過ごした時間分の想いが、たっぷりと積み重なっていたんだ。


「リタ。君がいなくなってから、僕は君の魂を探していろんなところへ行った。君は何度も生まれ変わって……でも、それはリタじゃなくて……僕はやっぱり君じゃなきゃ駄目で……」


 リタの手が慰めるようにバルドゥイーンの背を撫でる。


「魂が同じでも、僕は一度だって共に過ごさなかったよ。番だとは分かっていたのに、だよ。僕って相当に一途じゃない?」

「そうなの? それはすごいと思う……ごめんね、バル」

「なんで謝るの?」

「一人にしてしまったから」


 それは仕方のないことだ。リタだってそうしたくてしたわけじゃない。そんなことは分かっているけれど、それでもやっぱり寂しかったのだとは思う。


「僕、もう一生リタを離せないよ……いいの?」


 聞いておきながら、バルドゥイーンの手はもう不可能だと言わんばかりにしっかりとリタの背に回っている。それに気が付いているのか、リタが少し肩を震わせた。


「離すつもりだったの?」

「……出会わなければね」

「待たせすぎて、気が変わっちゃった?」

「そんなことがあるわけないでしょう。僕、不器用でまっすぐで一途だから、気持ちの変え方を知らない」


 笑おうとしたのに、上手く笑えない。その代わりにリタがふふっと小さく笑った。


「忘れた? 私も竜人になったの。バルが出会わないつもりなら私が探しに行くし、私こそ、バルを離すつもりなんて微塵もないの。たとえあなたの気が変わったって言っても、徹底的に追い回してやるわ」


 私はバルみたいに優しくないの、とリタは笑った。だけどその声はどこか涙声になっている。


「竜人は番と一生を共に過ごす、って私に教えたのはバルよ」

「うん、そうだった」

「今度こそ、私、あなたを置いていかずにすむわ。だってたぶん私の方が寿命が長いでしょう」

「うん」

「これから長い年月、どうぞよろしくね」


 バルドゥイーンは「うん」と頷いて、リタを抱きしめる腕に力を込めた。

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― 新着の感想 ―
優しい優しいバル、2人の 子供や孫の物語も読みたいです。 素敵な物語をありがとうございました。ー
大好きなお話になりました。 ざまぁとか仕返しみたいなお話が多い中、貴重な優しい作品に出会えて嬉しかったです。また新しい作品を楽しみにしています。 ☆5つ!!
[良い点] 素敵なお話ありがとうございました 胸にじんわり染みました
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