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序章 雄叫びのとき

編集中です。

第6回アーススターノベル大賞に応募したいので、とりあえずといった形で投稿しました。

構想が完全に完成次第、本格的に執筆します。

この世界に、途轍もなく大きな何かが起きる。


ステノニコサウルスの脳裏でそれとなく感じた感覚が生存本能の危機を揺さぶった。生命のゆりかごであるこの星全体で巨大な大異変が起きようとしていることを、にわかに知覚した。だが、それが何なのか把握することができない。一体具体的に何が起きようとしているのかということも。ただ、感覚に訴えかける危機めいた意識が突如として芽生えたことが、この恐竜の次の行動を決定づけた。それはすなわち、今いる平地から森の奥へと逃げることだった。

それが功を奏したのか、走り出したこの生物のいた場所で爆発音が発生した。木々に止まっていた野鳥が一斉に飛び立ち、小さな哺乳類たちが一目散に四散していく。ステノニコサウルスは森の奥に身をひそめたことを認知すると、その陰から音のした方向をそっと見た。

もくもくと煙が発するその震源地から何やら不可思議な青いものが立ち上がろうとしている。スライムのように不定形な形状をした青く光る粘体物が一気に拡大し、やがて具体的な形を成していくそれは四足歩行型の生き物に変わった。ステノニコサウルスよりも遥かに大きく、がっしりした体型をしている。尾をはやし、頭部の周りにはふさふさした鬣が縁どられている。その中央には厳格な風貌をした、威厳のある瞳をこしらえた獣の顔があった。ただ、他の生物と違い表面が無数の角張った鋭利な石のパーツで構成されている。青く光っているのはその石が放つ発光だった。その継ぎ目から煙がシューシューと音を立てて漏れ出ている。

これが一体何の生き物なのか、ステノニコサウルスには経験上想像もつかない存在だった。ただ、一つ分かることがある。恐らく、この存在には太刀打ちできないだろう。

身をひそめ続けるステノニコサウルスを尻目にその生き物は上部を見上げた。すると途端にその空間に半透明に透けた縦長の何かが浮かび上がった。それは見たこともない生物だった。二足で直立しており、その腰には象形文字らしきローブを巻いている。マントが肩から生えた両腕を覆い隠すようにして足元まで垂れ下がっている。そのマントと繋がるフードはすっぽりと顔の半面を覆い、その全貌を露わにさせなかった。

半透明のその生き物が声を発した。まるで眼前の巨大な生き物に話しかけているようだ。


「ようやくこの太陽系の第三惑星、地球の表層環境に暗号コードなるその存在を浸透させた。今までのこの星の歴史の中で幾度となく生命の創造と滅亡を繰り返してきた《創造の海》と称されてきた知性体が、今この瞬間をもってついにその真価を成す時だ。それは我が種族の計画を実行する潮時でもある。時は満ち足りたのだ。この時代にこそ完成させるのだ。ただちにエネルギー伝達を図り、ビッグウェーブを起こせ。幾多の活火山を噴火させるのだ。全球に到達次第、石塊を集めて目的のものを創造せよ」


「この星に住む生物はどういたしましょう」


「………滅ぼせ」


冷たく言い放った二足歩行の生き物の言葉を最後に、その大きな生物はこうべを垂れた。その直後に上部の生き物の姿は消滅した。頭を上げそれを確認した後、その生き物はさらに頭を真上の天へと仰いだ。

ステノニコサウルスが不思議そうに見やる傍ら、その生き物が巨大な咆哮を上げた。

耳をつんざくその激しい轟音に木々や植物が震え、地面の石ころがカタカタと揺れた。

恐ろしい雄叫び声が上がると、次第に空気が振動し始めた。

幾千もの虫が羽ばたくような低い振動音があたりを震わせると同時に地面の至るところから次々と青いスライムが湧き出てきた。それは互いに引き合い、接着するとぶるぶると震えながらその色をオレンジめいた赤に変えた。どろどろしたそれが熱を発するようになると、周りに存在するあらゆるものを溶かし出した。溶岩と化したその波が次々と大地を覆っていき、逃げ去る生き物たちを容赦なく飲み込んでいく。

ステノニコサウルスが気づいた時は既に遅かった。

足元の地面が溶けて自身の脚を超高温の泥が取り巻いていく。激しい痛覚が一気に全身を駆け巡るも走り出そうと動かしたが、既に溶けた脚から順に胴体へと向かって沈み込んでいく。

声を上げたもののどこの生き物に認知されることなく、灼熱の大地の中にステノニコサウルスの意識は潰えた。


全世界で始まった溶岩による地殻変動の胎動をしかと感じ取った四足歩行の生き物は、ビーコンをオンにして世界中に散らばる仲間へメッセージを送信した。


「創造主である我が主人の指令が下った。溶岩が全球を満たし、硬化した時点ですぐに目的のものを創造せよ。我らが種の分身となる存在、暗号コード《イハブ》につき従うその存在を。創造した後は………皆も認識している通りだ。世界を席巻する知性体に植え付けた意志が次第に地表全体に広がることにより、地球と呼ばれたこの惑星は滅びる。その時こそ完成するのだ………かの主人が申し上げるウルトラグレーターリアリティなる、その壮大な計画の完成が」






この星の地上で発令された、地球を滅ぼす史上最悪の計画が実行されたその矢先で、別の動きがあった。


「この惑星、地球が潰えようとしているこの瞬間に、今成すべきことを告げる時だ」


そう言って自身の胸部に向けて頭部を下げ、その中央にある丸いパーツを押した。


「時は満ち足り………」





地球は過去に一度、滅びている。


その仮説を初めて耳にした時は「そんなことがあるものか」と一蹴だにしていた。だが、考古学者として歴史の研究をすればするほどどうやらそれが史実に近い出来事であるらしいことが判明してきた。生涯をかけて学者としての立ち位置を全うすると真に誓ったからには厳然たる事実から目を背けるわけにはいかない。

そして、自分が掴んだ動かぬ証拠がある。

過去の地球を滅亡させたとされる、何らかの存在。

今も歴史の一番深層部に埋もれている存在、それは、


「バトルクライヤー」


でこぼこした眼前の岩場から表出している巨大なものに目を奪われながら思わず言葉にする。

ざらざらした琥珀色の石でできたそれは化石のように巨体の側面をあらわにさせ、まるで流れる時の歳月に疲弊したかのようにその前足の上に頭部をうずめているように見える。ぽっかりと空いた大きな口元に並ぶ鋭利な牙が、獲物を取る本能さえ忘却の彼方に置き去りにしてきたかのように乾き果て、その表面が遥かに長い年月をかけて風化してきたことを物語っている。

そして、頭部を覆うたてがみのようないくつもの線は高貴な顔立ちの中央に位置するものを覆い隠すようにして無数に重なっている。

その中央部、この巨大な遺物の目だけが僅かな光沢を見せており、窪んだ円形がこちらを静かに見下ろしているのがわかる。

言わずもがな、この遺物が特定の生き物の残骸を意味していることは明白だった。

これが遥か大昔の時代に存在した、拡張生体と呼ばれる遺産なのか。


「拡張生体とはいえ、光沢のある金属系統の遺産かと勝手ながらに予想していました。それは見事に外れたようで」


考古学者の背後に棒立ちする同僚、ライゼンが言った。黒縁メガネの奥から覗く賢明な緑色の瞳は、思慮深い様子を見せつつも、今まで目にかかったことのない代物に驚きを隠せないでいた。

彼は自身が一番不安に感じていることを口に出す。


「………本当にはめ込むので?」


「さよう」


質問に短く答える考古学者ルイナス。

今、好奇心の塊が激しく心を揺さぶっており、自身がこれからしようとしていることを予想するだけでも、鼓動が高鳴ってくる。

ルイナスは、巨大な石の構造物の残骸にゆっくりと近づいていき、いくらか岩塊を登っていく。

目的の場所―動物の姿をしたこの遺物の目の部分と思わしき地点―にまで近づくと、手にしていた円盤型の青い水晶を指で挟み、震えながらもそっと窪みにはめ込もうとした。

その瞬間、水晶自らがひとりでに窪みに吸い込まれていった。

激しい振動と衝撃が巨大な遺物全体を瞬時にして覆った。

バチバチと火花が弾けていく。

瞳となった青い水晶が光を放っていく。

数秒の静寂があった。

大都市の地下深くに眠っていたこの洞窟の中で、その存在は目を覚ますかに思われた。

少なくともルイナスの頭の中では。

発光する謎の鉱石がいくつも表出している岩場に埋め込まれた巨体が示したものは、突如としてその胸部が開き、その中から球体状の金属物がコロンと乾いた音を立てて転がっただけだった。

ひどく期待を裏切られたような気がして、ルイナスは肩を落とす。それでも得た収穫物を手に取るために落ちた金属球を拾いに近づく。

彼はただ、言われた通りのことをしただけだった。

この百獣の王ともとれる動物に似た巨獣の残骸の中で瞳に該当する水晶をはめ込むことで巨獣が動き出し、歴史に埋もれたある謎を解き明かしてくれると、そう信じて疑わなかった。

この星、地球で幾度も生命の大量絶滅に関わってきたとされる「オーバーマター」と呼ばれるものの起源と、その正体を。

そして、その歴史の真相が明かされることによって世界の常識が大きく覆されることになるだろうと。

あの友人が言う限り、それは間違いないことだとそう断言していた。

だが、予想は大きく外れたことで友人の言っていたことは間違いだったことが判明し、闇雲な発言をされたことに半ば怒りに似た感情さえ抱いていた。学者が嘘をつくことはあるまじき行為ではないのか。遥か太古の大昔の時代に製造されたとされる古代遺産であるディスク―その彼にとってはこの巨獣の瞳に該当するとされる水晶体―には何らかの情報が含まれており、それを本来のあるべき場所に設置することで歴史の真相が蘇るはずだ………という見解のもとに渡した遺物は実は単なる歴史の残骸の一部を構成した一物でしかなかったのだという虚実を堂々と吹聴するという行為はするべきことではなかったのではないのか、と。

だが、そんな失望に打ちひしがれながら金属球を拾い上げた時、全く別の形で願望が実現することになるであろうことをルイナスの中ですぐに実感することになる。

彼が触れたその指先が、そこに刻まれた象形文字に偶然にも重なったことで金属球の何らかのエネルギーが反応したのだろう、線で描かれた表面の幾何学模様が青い光で迸り、同じく青い半透明状の立体映像がその模様の間から角張った形状を伴いながら表出し始めたのだ。それはルイナスの頭上で球状の形となって拡大し、球体内部の空洞の部分で青白く発光する粒子のまとまりが自然発生した。その粒子の集合体はもやもやとしたシルエットを保ちながら突如としてあたりの空気を振動させるほどの音を発した。最初は雑音かと認識したものの、次第に誰かしらの声だと再認識した。


「時は満ち足り、数千万年の歳月を経て我が意志のもとに蘇りし存在の先導者なるものとして、我はここに舞い戻らん」


非常に太く低い、威厳に満ちた重みのある声音が周囲の空気を轟かす。声の主は恐らくこの巨獣のものと推定されるが、それでもどこか人が放つ声に似た声調を含んでいた。驚いたルイナスは認識した。これは恐らく太古の時代からのメッセージだろう。この巨獣の声だとはとても思えないが、それでもこの存在が生きた時代に何かが起こったことをこれから知らしめようとしているのだろう。

彼の予想は当たった。


「この惑星、地球が滅びようとしているこの時に、世界の真実を伝えておきたい」


その声はどこか悲観めいた含みがあるものの、それを表に出すことはしまいとでもするような雰囲気だった。


「我、《鬨の声をあげるもの》は世界を滅ぼしてなどはいない。今この時代にて地球は消滅の危機に瀕している。その真因こそは我らが種の先導者、レグルスのものであるとのちの生命は認識するだろう。だが、それは違う」


声が続ける。


「ある存在によって創造された我々にはプロトタイプがいる。そのプロトタイプは創造主であるその存在と深い関係で繋がっている。その創造主の指令に従い、地球と呼ぶこの星を中心から根こそぎ吹き飛ばすつもりなのだ。反旗を翻した我々は、新たに創造されようとしている我々と同じ種が大きな過ちを犯さぬように促す必要がある。それが叶わぬ場合、戦いを強いることも避けることはできない。我らが種の存続によって生命の進化への道が滅亡への道として存亡の危機のふるいにかけられることが運命づけられているのであれば。だからこそ、我はここで後世の生命に伝える」


意を決するように語り続ける声に、ルイナスは熱心に耳を傾ける。


「生命の存続を願う我が種の真の力が発揮される時、それは我が戦いの咆哮を上げた時だ。その《雄叫びのとき》を上げるまで、生命には幾多の困難が待ち構えていることだろう。だが、最終的に全ての生命は飛躍的な進化を遂げることになる。遠い未来において再び蘇るであろう我々の種が滅びへの道を回避するだけの力を真に発揮できたとするならば。その意味において、恐らくは戦いの選択は避けることのできない可能性が高いだろう。だが、戦わなければ全生命の命運だけでなく、命のゆりかごであるこの星でさえも再び滅亡の一途を辿ることは明らかなのだ」


ルイナスの中で認識していた情報とは違うであろうことが、自身の中で判明した。


この巨獣は世界を滅ぼしたのではない。むしろ存続させようとしたのだ。この存在の名こそ滅亡を想起させるような意味をはらんでいるとはいえど、それは必要な戦いがあってこその名だったのだ。そして、すでに先ほど口にした名ではあるが、その名こそは………。

その答えは次の発言が証明した。


「戦いは常に勝つためにある。その戦いはどんな標的と対峙するにせよ、根本的にはいつも己自身の心の弱さとの戦いこそが真理であり、その弱さに打ち勝ち続けてこそ真の勝敗が決められる。もしも、戦いが訪れた時、我々に屈するところはない。ただ、全生命の存続のために、この命に与えられた天命を全うするだけだ………鬨の声をあげるもの、バトルクライヤーに定められた宿命として」


やはりそうだったか。だが、《雄叫びのとき》という言葉が気になる。何らかの戦いが始まる時の合図らしいが、その時期とは一体いつなのだろう。そもそもその「戦い」とは一体どのようなものでどれほどの規模を表すものなのか。それが特定されることはあるのだろうか。

それを知るのに、時間はかからなかった。


「我が復活を遂げたその時、この声があげる鬨の声、そう、《雄叫びのとき》が発せられた時に必要なこと、それはある暦を復元させることにある。カレンダーでもあるそれを再起動させるのだ。カレンダーが再び動き出した時、時代は大きく変わる。その最果てに見えるものは生命の究極的な進化と飛躍だ。その鍵を握るものは我々が使う世界言語と称されるものの中でさらに精度の高い言語、ハイヤーランゲージと呼ばれる文字だ。その文字を解読せよ。その意味が真に解明された時、文字は”声”を発し、それに応じて幾多の同志が呼び覚まされるに違いない。そして、そのハイヤーランゲージは………我の手元の中にある。それが解き放たれた時、その時こそ戦いの狼煙が上がる時だ。世界全土を巻き込んだ、巨大な戦いが始まる《雄叫びのとき》の時としての。その戦いの時は来たるべき時に来る」


そこまで告げると、青白い靄もやから一瞬、閃光が岩場の麓の地面に迸った。その一面にパルスがバチバチと音を弾かせて拡大していく。その中央にひびが入ったかと思うと円形に地面が崩壊していき、その下から何かが出てこようしている。


「幾多の発展と絶滅を繰り返してきた生命誕生のプロセスに付与した、地表を覆いつくすある知性体、そう、《創造の海》と呼ばれてきた液体振動知性体」


巨獣の瞳は彼が言っていたようなディスクじゃない。


本物のディスクを探す必要がある。


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