その気持ちわかる!
「その気持ちわかる!」
という言葉はしょうもない詭弁だ。
人は相手の気持ちを想像しながら
会話しているにすぎず、
100%相手の気持ちを
理解できるわけではないからだ。
面倒なことに
カフェであの女性と
コーヒーを飲む野暮用がある。
美味しいブルーマウンテンを出す
カフェがあるから一緒に行きたいと
あの女が強引に
下北沢に誘ってきたのだ。
ブルーマウンテンを飲みながら
あの女との無駄話が始まった。
「俺この前休みの日さ、
下北沢の本屋で
自殺した作家さんの本買ったんだよ」
「私もその作家さんの本持ってる!
無力なアルコール依存の男から
離れたくても離れられないって
お話の小説でしょ!」
「あのバンドのCDがさ、
見つかったんだよ。
2002年のCDだけど
ハードオフ巡ったらあって、
カナガナってバンド」
「私もそのバンドのCD集めてた!」
「好きな曲はさ‥‥」
「レッドフィルムだな」
「レッドフィルムが好き!」
「いい曲だよな。
その気持ちわかるわ!」
「わかるわかる!」
何でこんなに気が合うんだ?!
カフェの窓に映った僕を見てみると
鳩が豆鉄砲を食らったような
自分の顔が見えた。