【託された■■の物語】
「…また、来たの?それとも初めましてかな?まあ、どちらでも構わないけどね」
そう言って人影に見える誰かは本棚から一冊の本を取り出してあなたに渡す。
「これは、全ての始まりの物語。ある■■の終わりと一人の旅人の始まりの物語。長い夢にはちょうどいい物語かな」
あなたは本を広げるとある光景に包まれていく。
「…ここは」
ある廃墟にて一人の旅人が目を覚ました。
「そうだ、みんなは…」
慌てて周りを見るも自分以外に誰も居なことに気づいた。
「…一人。そうだ…あの時、みんなは…そしてリリアは僕を…。行かなきゃ、あの魔王と戦った場所へ。剣は、よかった…ある」
少し離れた場所に落ちてた剣を拾うと片手に目覚めた場所から外に出る。
「…ここは、どこだろうそれに」
旅人が辺りを見ると自分が廃村に居るのはわかった…ただ、ある違和感にずっと思考を引っ張られていた。
「世界に…色が…」
見える全て、空、木、大地、建物何もかもから色が消えモノクロな世界になっていた。
しかし、そんな中で旅人だけがいまだ色彩を残していた。
「…」
そんな光景に言葉を失い、色を失った廃村を調べまわったが見つかるものは何もなかった。
あらゆるものは朽ちて長い間放置されてたのだろうことだけわかる。
この廃村で手掛かりを得るのは無理と判断し、外に出ることにした。
荒れた道を進み続ける。
「どことなく、見覚えがあるような…」
どこか記憶に見覚えのある景色を進む彼を何かが強襲する。
「…!」
反射的に襲撃に対して剣を振るうと、狼の魔獣は両断された。
「…最初に出会った生き物が魔獣なんてね。でも、生きてる存在は居るのか」
ただ、その魔獣もやはり色を失っていた。
安全そうな場所を見つけ焚火を起こし一人休む。剣を取り出し手入れを始めつつこれまでの出来事を思い出していた。
「あの魔王との闘いで二人は倒れ、僕も意識はあるも倒れてた状態だった。リリアだけが最後まで戦ってそして魔王を打倒した…はず。…そのあと、強い光があって。リリアが何か魔法を唱えた、だったかな」
手入れが終わった剣を鞘にしまう。…その時だった。
「~…~♪」
誰かの歌が聞こえた気がした。
「…!」
「誰か居るの」
旅人はかすかに聞こえた歌声に意識を向ける。しかし、既に何も聞こえなくなっていた。
剣を手に歌が聞こえたほうへ駆けていくも誰にも会うこともなかった。
そうして、旅人は一人ただ一つの目的地を目指して歩き続けた。
その途中で、滅んだ国や街を見るたびに理解した…あぁ、この世界は終わったんだと。
その最中、立ち寄った村は比較的損傷が少なく。風が凌げそうな建物に寄る。
何気なく目についた日記を手に取りページをめくると。ところどころ朽ちて読めないがある文章が目に入った。
『 前、 様が魔王 あの日。 らたく が魔 に挑 んな帰って 。 、世界か 色 消 。魔王の呪 …』
「これ、世界…色…消。魔王の呪…。魔王は生きてたのか…?魔王呪いで世界から色が消えた…ってこと?」
「~~~~♪」
「また歌が聞こえる…」
旅を始めて既にこうして何度も歌を聞いてきた。
目的の場所に近づくほどにはっきりと聞こえるそれは…。
「リリア…」
妹リリアの歌声だった。
「~~♪」
色のない世界を旅人は一人歌いながら進む、リリアの歌を聞いて思い出した。これは故郷でよく母が歌ってくれた歌だった。
「~…~♪」
重なるように妹の歌が聞こえる。…だけど、しばらく前から枯れてきたように歌は途切れていた。
そして、かつて魔王との決戦の城についた。そこにはある外から見て違和感があった。
まるでここだけは別世界を持ってきたように、色が残ってそして草木が萌え茂っていた。
「色が…それに…草木も茂ってる」
旅人は違和感を胸に魔王城を入り、そしてかつての決戦の場でに向かった。
…やはり魔王城の中も色が残っていた。
重々しい扉を開ける音と共に中に入っていく。
誰かがその広間で歌っていた。しかし、入ってきた訪問者が来ると歌うのをやめて振り返る。
「…久しぶり、兄さん」
「…リリア」
そこには、かつて共に旅をした妹、リリアがいた。その手に、剣を片手に。
そして身構える前に剣を振るってきた。
剣と剣がぶつかり合う激しい音が広間に響く。
「リリア…!なんでっ」
「ごめんね、兄さん。私は…魔王だよ」
そう言ってリリアは旅人を弾き飛ばした。
旅人は見た目にそぐわない相手の剛力から壁まで吹き飛ばされるが、そのまま壁にぶつかる前に受け身を取り衝撃を最小限に抑える。
「…魔王!」
驚くと同時に剣で攻撃を防ぐために構える。
しかし追撃は来ない。
「…あの時、私たちは魔王を倒した。けど、魔王はある呪いをかけた…倒した私を次の魔王にする…呪いを!…私はこの世界を滅ぼした…魔王なんだよ!」
そう言って、リリアは剣を旅人に向ける…すると刃には根元から炎が走っていき一本の炎の剣となった。
「この魔剣は…烈火…!…兄さん、最後の人間として…魔王を倒して!」
そう言ってその剣を振り下ろし、巨大な熱波を飛ばしてきた。
「…!」
とっさに横に飛び熱波を回避する。さっきまで旅人の居た場所は黒く焼き尽くされている。
「……」
剣を構え、リリアへと瞬時に距離を詰めると旅人は剣を横なぎに振るう。…しかし。
ガキン。それはたやすく防がれてしまう。
「兄さんの剣は私がずっと見てたからね…だから、私ならどうにかできる」
「……!」
旅人は無言で剣から片手を放し腰の短剣を抜いてリリアに振るう。
「流石だね、でも…!」
短剣はリリアに届く前に魔力で編まれた魔力壁のバリアで防がれる。
そのまま、旅人は攻撃が防がれた状態でにらみ合いが続く。
「今の私相手だと兄さんだと勝てないよ…。勇者としての私と魔王としての私が合わさって…。それに兄さんも知ってるよね。私の魔剣は魔力を吸収し続ける。…どうして世界から色が消えたか知ってる?」
「世界は私に魔力を吸われて…そのせいで色を失った。私は世界を支えてた魔力そのものを扱えるの…!」
そう言いリリアは魔剣を介してその場に魔力の爆発を起こした。
「…!」
意識が目覚めると、旅人は床の上で目が覚めた。
(体が動かない…)
魔力により手足が拘束された状態で旅人は床で寝かされていた。
「兄さん…起きたんだ。できれば眠ってたほうが嬉しかったけど…でも、うん。やっぱり私も最後に話したかったから…本心では」
そう言いう旅人の傍にリリアが座っていた。
「ねえ、見えるあそこ」
リリアが指さす先には空があった。
「…わかるかな、ゆっくりとモノクロが広がってるころ」
旅人は改めてその場所を見るとモノクロが広がっていきだんだんと色彩が残る場所が狭まってる事にきづいた。
「なんとかね、この魔王の力や剣の暴走とか抑えたんだけど全部遅かった。魔力が世界から消える速さがもう抑えれなくて…モノクロに染まったら最後。この世界は時期に消えちゃう」
そう言ってリリアは少し悲しそうに旅人を見る。
「でもね、間に合ったことがあったんだ。異界転送魔法…。ひとつの世界の力がこもったこの魔剣の力をつかって兄さんを別の世界に逃がす。…そして、この世界を覚えてる兄さんが生きてくれたらこの世界は確かに在った”証”になると思うんだ」
「リリア、何を言って…それだったら君も一緒に」
「駄目、私はこの世界を滅ぼした悪い魔王なんだよ。それにね、この魔法は誰かがこの世界で最後まで唱えないといけないから」
そう言いつつリリアは旅人の剣と自身の魔剣を旅人に沿える。
「リリア!」
「最期に兄さんに会えて、お話しできてよかった。勇者は次の人に希望を託すんだって、だから兄さん勝手だけど私の…そしてこの世界の最後の希望を託すね」
そう言って、小さな人形を旅人の手に握らせた。自身を…リリアを模した小さい人形を。
そして、旅人は光に包まれた。
気がつくと旅人は知らない草原で目覚めた。
その世界は色に溢れてそして奇麗だった。
その傍には2つの剣が…そして片手には人形があった。
ずっと我慢していたものがあった…だがそれもついに耐えれない。
旅人は涙を流し初めて滲む世界に
溢れ出した声が響いた…。
あなたは本を読み終えた。
「こうしてひとつの世界…まあ、魔王でも勇者でも家族でもなんでもいいか…ともかくそれは終わり、一人の旅人の旅が始まった。旅人は、最初から背負ったモノが大きすぎた。でもきっと止まり方を知らない旅人はその後も旅を続けたでしょうね」
そう話しつつその人影は本を棚になおす。
「これは悲劇か…それとも喜劇か…。私にはわからないけど、少なくともこの物語には”希望”はあったでしょうね。…そろそろ、目覚める時間ね」
「また陽は昇る、起きる時間だよ」
【これは本に記されない最後の物語】
旅人を見送ったリリア。
「あーあ、終わっちゃった。やっぱり私も行きたかったなぁ…。でもこの世界も残酷だよね。呪いなんて本当はなくて、魔王なんてもの偽物で魔王の正体は人類を管理する神の道具なんて」
彼女がぼやきつつ世界を眺める。
「しかも、私が倒しちゃったからこの世界は生意気だって滅ぼすなんて、私がすごーく優秀だから世界の崩壊も遅延させて、兄さんが回復して、あの剣に世界の魔力を収集させるのも間に合ったけどさ~。兄さん…ずっと旅を続けれるかな」
そう言ってリリアは手に持った人形を空に掲げた。大好きな兄を模した片割れのもう一つの人形。
「勝手だけど兄さんは私の証だよ。きっと、いろんな人を助けて、そうして証を残していったら。この世界があったって…存在したって証だと世界に勝手に残せる」
「~~~~♪」
最後にリリアは故郷の歌を歌う、楽しく…どこか遠くの誰かにも届くように。
(…ん?これは、誰かこの物語を見ている?…そっか、兄さんはちゃんと証を残せたんだね)
消えていく世界が眼前に迫っても歌を続ける少女は満足しながら最後に祈りを籠めた。
この兄さんの旅が続きますように。