少年と過去①
もう一生体調を崩さないようにしようと心に誓った。私が体調崩すとレオが死ぬ可能性がある。これは冗談ではない。レオが私が食べた物しか食べないのは、まさか、風邪ひいた状況でも適用されるとは思わなかった。
あの日、一日中寝て起きてたらレオがベッドの近くで座って私をじっと見ていた。変な寝言を言わなかったのか、顔は大丈夫か、ヨダレは垂れていないかなど気になることは沢山あったが、そんなことより寝室にレオがいることに驚いた。
熱は下がっても食欲はなくてゼリーだけで済まそうとしたら私のではないお腹の音が響き、レオを見る。
「ご飯は?」
「食べてない」
「作ろうか?」
「休んでいろ」
立ち上がろうとしてもレオにベッドに押さえつけられて起き上がれない。誰のために動こうとしていると思っているんだ。他でもないレオのためぞ。
「……飲む?」
仕方なく私だけ飲料ゼリーを飲んでるとゼリーを眺めてくるレオに申し訳なくなり思わず聞いてしまった。冷蔵庫に買い溜めした分があったはずだと思っているとレオは、私の手を取り飲みかけの飲料ゼリーを一口飲んだ。
「バッ……!!」
思わずゼリーを引っ込めてレオを見る。
「飲むかと聞かれたから」
少し申し訳なさそうに言うと私を見つめるレオ。
いや、バカタレが。風邪移るだろ。可愛い顔して私見ても許さんぞ。
……ゆるさん、
「ごめん」
「許した」
──ハッ! 秒で許してしまった。
お腹空かせているレオは悪くない。風邪ひいた私が悪いんだ。私の聞き方もよくなかったよね。そう仕方ない。
そんなことより、まさかレオが謝るなんて思わなかった。チラッとレオを見ると、少し嬉しそうに微笑んでいた。
「ん゛んっ!!!!」
「大丈夫か? 辛いのか?」
「大丈夫……」
これは風邪のせいじゃなくて、レオの可愛さに胸が、なんて言えるはずもなく。
「お腹減ってない?」
「俺のことは大丈夫。柚月の体調はどうだ?」
「熱は下がったよ。レオのご飯作ろうか?」
「俺のことは気にするな」
何度か同じようなやり取りをするもレオは私がベッドから出ることを許さず、家にある冷凍食品を好きに食べていいと言って寝た結果。
「まさか、何も食べていないとは思わないじゃん」
レオの寝る場所の準備をしていなかったと夜中に目が覚めたらレオは私と同じベッドで寝ていて、もういいやと半ば諦めてキッチンに行くと冷凍食品のゴミはなく綺麗な台所を見て絶句したのは言うまでもない。
クッションを抱きながらテレビを見ているレオをチラッとだけ見る。
風邪をひいたあの日からレオの雰囲気が少しだけ柔らかくなった。何があったのかわからないが心境の変化があるのはいいことだ。これを気に外出なんかできるようになってくれたら嬉しい。太陽に当たらないのはやっぱり健康にも悪いし。病的に白い肌も少しは焼けてくれたら健康的に見えるだろう。
髪と目で周りの目が気になるなら隠せばいいし。
今日食べた分の皿を洗いながら色々と考える。
「なぁ」
「んー?」
「俺のこと、気になる?」
思わずレオを見る。レオはテレビに視線を向けたままだった。
「俺がここに来る前の話とか、体の傷とか」
「……気になるけど、無理にとは」
ずっと聞きたかった。レオのこと。「いいよ、柚月になら」そう言ってレオはテレビから目を外し、私の方を見る。
「飲み物準備するね」
「ん」
皿洗いが終わり、私はレオの話を聞くために飲み物の準備をする。
紅茶なんてお洒落な飲み物はこの家にないからグラスに麦茶を入れて、いつも食事をするテーブルにグラスを置くとレオもやってきた。
ドキドキしながら椅子に座る。少し怖い気もする。レオの顔が見れず俯く。緊張で心臓が口から出そうだ。
「俺、実は死んでるんだ」
息を呑み顔を勢いよく上げると真剣な表情のレオと目が合った。目が合ったレオは複雑そうな表情で言葉を続ける。
「殺されたんだ。俺、奴隷みたいなやつでさ、そうなった経緯とか話すと少し長いけど聞いて欲しい」
「……うん」
私が頷くとレオは安心したように微笑んだ。
次回からレオ視点になります。
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