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ヤンデレ公爵の大切な人  作者: よなぎ
第三章
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真実を知る③

 赤い本が手元に来る途中でピタリと止まった。


「ん……?」

「おやおや」


 手を伸ばして本を掴もうとするが本がゆらゆらと私の手を避ける。意地になって掴もうとジャンプするが、私の手が届かない位置まで宙に浮く。


「神様〜〜!」

「私じゃありませんよ」


 そう言いながらも神様が宙に浮いて本に手を伸ばせば本は神様の手元へと収まる。神様のせいではないのに本が私を拒否する。そうなると、赤い本は私の事が嫌いだと思っているのか。人間に嫌われるよりもショックである。


 落ち込む私を見てクスクス笑う神様。袖を上下に振り「元気を出してください」と他人事のように言う。


「私は許可を出したので問題ないはずなんですけどね」


 どうやら本当に神様も不思議に感じているようで、首を傾げる。手元にある赤い本がパラパラとページが捲れ、それを眺めてやっと神様も理解したようだ


「ん? あ〜。なるほどなるほど」

「どうしたんですか?」

「先程の本と今から閲覧する本の明確な違いってわかりますか?」


 本を閉じた神様は私の元へと戻ってくる。


 神様の質問され、考える。本を読むと言っても映像だったからなー。まるで私が見ている風景をそのまま見ているかのような私視点の映像。感情もまるで私本人が抱いてるようにすんなり入ってきた。


 そこまで考えて神様を見る。


「次、閲覧する本って私視点じゃないって事ですか?」

「そうです。つまり、あなたは今から全てを俯瞰する状態になるんですが、先程とは違い、()()()()()()()()()()()()部分を閲覧させる許可が足りなかったみたいですね。許可したのでもう大丈夫ですよ」


 赤い本が私の元に近付いて、青い本と同様にページが勝手に捲られる。対象のページで止まった赤い本の文章を読もうとすると映像が流れた。



 ◇◇◇



 家の中かと思ったら場所はアパートの前にある駐車場だった。宙に浮いている状態の私は下を見る。私の専用駐車は端っこの街灯下で、横は誰も契約していない駐車場のはず。それなのに私の車の横には見慣れない車が停まっていた。


 青い本の時とは違い、自分の意思で体が動く事を確認して知らない車に近付く。運転席に乗っているのは林くんだった。小さく何かを呟いているので外までは聞こえず、車の中に入りたいと思いながら助手席のドアに手を伸ばす。幽霊のようにドアを貫通し、私の体は簡単に車へと侵入することができた。先程、ドアを貫通したけど、助手席に座れるかな。と不安になったが、そんな心配は不要だったらしい。普通に座れた。


「守らなきゃ、守らなきゃ……」


 そう何度も呟く林くん。膝の上にはあの日、私を気絶させたスタンガンが置いてある。どうやらまだ実行はしていないらしい。


 林くんが誰を何から守ろうとしているかわからず、あの日を思い出す。確か、茉里ちゃんから林くんに告白されたと言われて、断ったらストーカー化したと言っていたような……。つまり、私から茉里ちゃんを守ろうとしている? いや、私は茉里ちゃんを傷付けるつもりはない。


「殺さなきゃ……」


 物騒な呟きが聞こえ、思わず林くんに手を伸ばす。指先が肩に触れた瞬間、職場で何があったのかが頭の中に流れて来た。





「佐藤さん、ちょっといいかな?」


 場所は変わって職場。廊下でお手洗いから出て来た茉里ちゃんに声をかける林くん。手には新人歓迎会の参加する日を決める紙が握られていた。


 ハンカチで手を拭いている茉里ちゃんは林くんを見た瞬間、嫌そうに顔を歪める。林くんはそんな茉里ちゃんの表情を見ても気にしていないらしい。そのまま話を続ける。


「今日、なんで参加できないの?」

「林先輩に関係あります?」

「俺、明日、日帰り出張だからできれば今日にしたいんだけど」

「今日は用事があるから参加できないんじゃないですか〜。それに新人歓迎会なんだから私が主役ですけど」

「でも、今日特に予定があるわけじゃないよね? 辻本さんの家に行くって……」

「新人歓迎会でみなさんと交流する前に指導役の柚月さんと先に交流を深めたいだけですけど」

「いや、でも……」


 食い下がる林くんが鬱陶しくなって来たのか茉里ちゃんは林くんに近付き、囁く。


「あ〜、林先輩が柚月さんのストーカーってバラされないか心配ですもんね」

「……」

「大丈夫です。ちゃ〜んと柚月さんに教えといてあげますよ」


 茉里ちゃんはニコニコと笑いながら手を振り消えていく。


 林くんの手の中にある新人歓迎会参加表の紙はぐちゃぐちゃになっていた。




 場所が戻って車内。林くんは運転席にはおらず、慌てて玄関先を見る。フラフラと玄関に歩いている林くんが見えた。玄関のガラス部分が明るいのでそろそろ私達が出てくる事に気付いたのだろう。


 私も急いで林くんに近付く。相変わらず「柚月を守る」と呟き続ける。


 ガチャと玄関が開く音がしたと同時に林くんはスタンガンを振り下ろした。


 ──バチッ!


「……え、はやしく、ん?」


 焦げた匂いがして目の前にいる私は倒れる。スタンガンを食らった相手が私と気付いた林くんは狼狽える。なるほど、茉里ちゃんを攻撃したかったのに確認もせず私に攻撃してしまったのか。逃げ出す林くんを見送り終えたところで茉里ちゃんがお手洗いから出てくる。流す音も聞こえなかったので茉里ちゃんの狙い通りになってしまったのだろう。


 ドアを閉めて私の両脇に腕を通して重そうにリビングまで運ぶ。


「これで首を絞めれば完璧だよね?」「え? 柚月さんの死因て絞殺でしょう? 死因を変えたら邪魔されるじゃない」「嫌よ。返り血浴びたくないもん」「……まぁ、それなら」茉里ちゃんは誰かと話しているのか独り言を言う。仰向けだった私をうつ伏せ状態にし、寝室へと消えていく茉里ちゃん。何をしているのかと思えば、レオに買ってあげたフード付きのジャージを着ており、手にはシャツを持って戻って来た。


 シャツを乱暴に破り、その破れた袖で私に目隠しをして、キッチンに包丁を取り出しにいく。


 そのまま私に馬乗りなると勢いよく私に向けて包丁を振り下ろした。


 痛みに目を覚ました私の悲鳴をBGMのように聞き流して何度も包丁を刺す。死んだ後も刺すことをやめない姿に思わず、茉里ちゃんの肩を掴む。


『見ぃつけたぁ〜』


 見えないはずなのに勢いよく振り向いた茉里ちゃんの表情は不気味なほど口角が上がっておりニヤリと笑って私の目を見て言った。


 寒気がして、茉里ちゃんの肩から手を離そうとするが、手首を掴まれてしまう。


『会いに来るって思ってたよぉ』


 茉里ちゃんの声と低い声が二重に重なって聞こえた。まるで魔族と契約したニアさんの声を聞いているようだ。でも、ニアさんの時とは違い、茉里ちゃんに黒いもやは見えない。


 終わったかも。そう思った瞬間、眩しい光が私を包んだ。



 ◇◇◇



「大丈夫ですか!?」


 神様が私の肩を掴み、慌てた様子で声をかける。青い本を読んだ時とは比ではないぐらいの冷や汗をかいており、肌にべっとりと服が張り付いている。


「だ、だいじょうぶです」


 震える声のまま神様に返事をするが、心臓はバクバクと脈打ち、あまり大丈夫ではなかった。


 手首を掴まれた瞬間、ゾワッと嫌な感じがして、思い出そうとすると今でも吐き気がする。あれは茉里ちゃんではないナニカで、本能的に終わりを感じた。もう戻れないかと思った。俯いていたら視界に神様が入り込んできた。


「あなたは私が守るので大丈夫ですよ」


 神様がかっこいい事を言う。こんな弱っている時に言ってほしい言葉を言ってくれるなんて惚れそうだ。私、チョロいから惚れちゃう。

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