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ヤンデレ公爵の大切な人  作者: よなぎ
第三章
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真実を知る②

 青い本が私の手元へと近付いてくる。勝手にパラパラとページが捲られて、該当のページになったのだろう。私の手に収まる。ズラッと並ぶ文章を読もうとすると、頭の中で映像が流れた。



 ◇◇◇



 外は暗く、店の明かりが三人を照らしていた。どこか確認しようと周りを見渡したいが、私の体は言うことを聞かず、目の前で肩を組んでいる男性二人を見ている。


「林くんってお酒、弱いんですね」


 先輩に支えられながらやっと立っている林くんを見て私が言う。

 視線をそのまま先輩に移すと困った様子の先輩。


「辻本、悪い。介抱してやってくれないか?」


 どうやら帰るのは私と林くんと先輩の三人だけらしい。他の人たちは二次会に行くようで、挨拶が終わったら颯爽と消えていった。


「先輩の家はダメなんですか?」


 林くんと言えど、一人暮らしの女性の家に男性を泊めるのは抵抗がある。先輩は申し訳なさそうに「前までは良かったんだけど……」と言う。最近、子供が生まれて夜も大変なのだろう。いつもなら二次会も参加する先輩がお酒も飲まず、もう帰ると言うのだからこの後、奥さんと交代で子供の面倒見る予定だったのだろう。


 仕方ないと、タクシーに林くんを乗せてもらう。林くんは一人暮らしだったはず。泥酔している人は嘔吐で窒息する可能性もあるから一人にするのは怖い。


 財布から一万円を先輩が渡して「これ、お釣りはお詫びとして受け取って」と男前な事をしてくれた。




 * * * * *



 家に着いて、先に玄関を開けてから林くんを下ろす。私のことを可哀想だと思ったのかタクシーの運転手は林くんを支えるのを手伝ってくれて尚且つ、玄関で靴まで脱がしてくれた。「家まで入るのはできないからごめんね」と言いつつも、靴を脱がせて玄関を閉めてくれた運転手には感謝しかない。


 ソファーに寝かせて、居酒屋臭くなった上着に消臭剤をかける。自分の分が終わると、そのまま林くんの上着も上半身を起こして脱がして消臭剤を振り撒く。


 林くんが起きた時に飲めるようにとペットボトルの水も準備をしてから、ソファーの下に座り一休みをする。


 ビール一杯で顔はもちろん、耳から首まで真っ赤になっている林くんを見たら普段の飲み会を断るのも頷けた。今回、新人歓迎会に参加した理由は新人の指導役に林くんが選ばれたからだろう。次の日、林くんは日帰り出張だから新人くんと林くんの日程が今日でちょうど良かったみたいだ。


 こんな状態で出張に行けるかは謎ではあるが。


 身動きする音が聞こえ、振り向いて林くんを見る。うっすらと目を開けていた。


「林くん、水飲む?」

「んー」


 だるそうに起き上がる林くんに水を渡す。蓋を開けて一気に飲み干す姿を見て、水分さえとっておけば二日酔いにはならないだろうと安心する。


「辻本さん……?」

「はーい。辻本ですよー」


 私に気付いた林くんは驚きのあまり飲み終えたペットボトルを握り潰していた。そしてキョロキョロと部屋を見渡す。見られて困るものはないがそんなに部屋を見られると少し恥ずかしい。


 酔っているせいでうるうるしている瞳。まだどうやら覚醒はしていないらしい。


「うわ、まじか」


 そう小さく呟いて口元を隠す林くん。何が「まじか」なのか全くわからないが、別に聞く必要もないだろう。起きた事だし、大丈夫そうなら家に帰ってもらうかと立ち上がろうとすると、林くんはソファーの上から私に覆い被さるように落ちてきた。


「いっ……! え、ちょ、なに?!」


 押し倒される状態になったせいで、床に後頭部をぶつける。退けようにもご丁寧に手首を押さえつけられて身動きも取れない。


「柚月……」


 私の首元に顔を埋めながら名前を呼ばれる。匂いを嗅いでいるのか息を大きく吸われて思わず鳥肌が立つ。いつもと違う雰囲気に段々と怖くなり、林くんの名前を呼ぶ。名前を呼ぶと余計に興奮しているのか嬉しそうに名前を呼び返されたので、早々に名前を呼ぶのをやめた。


「ちょっと落ち着いて、離して!」

「柚月、柚月……!」

「ほんとっ、怖いから!」


 いつもの無愛想な林くんからは考えられないほど興奮しており、私の声は聞こえていないようだった。


「柚月、好き、結婚しよう。愛している」


 急な告白にビックリする。動きを止めた私を林くんは受け入れたと勘違いしたのか、私の両手首を片手でまとめた林くんはもう片方を服の中に手を突っ込んだ。


 お腹にひんやりと冷たい林くんの手で我に返り足をばたつかせて抵抗する。「ごめん、冷たかったよね」と変な勘違いをした林くんは私の頬を掴むと噛み付くようにキスをした。


「いっ!」


 抵抗するように唇を思い切り噛めば、林くんはすぐ離れた。唇に触れ、血のついた指先を見て私を見つめる。


「なんで……? 柚月、俺のこと好きなんじゃないの……?」

「嫌い!」


 不思議そうに聞いてくる林くんに即座に言い返す。こんな強姦みたいな事をされて好きになる人がいたら教えて欲しい。


 ──パンッ!


 頬に衝撃が走り、叩かれた事を理解する。ヒリヒリと痛む頬を抑えることもできず、馬乗りになっている林くんを睨む。


 林くんは無表情で私を見下ろしていた。


「は……? 柚月はそんな事言わない。誰だ、お前」


 低い声で私を責めるように言う林くん。


「解釈違いだ。柚月は誰にでも優しいし、押しに弱いからこんな風に拒否したりしない」


 ブツブツと訳のわからない事を呟く姿に恐怖を感じる。本人を前にして解釈違いと言われても勝手に私という人物を創り上げないでほしい。


「柚月、俺のこと好きだよな? 好きって言えよ!」

「こんな事する人を好きになんかなるかっ! 嫌いだっ!」


 酔っ払い相手を刺激してもいい事なんてないのに、私は林くんを拒絶する。どうせ、好きと言ってもこのまま無理矢理されるのが目に見えているのなら拒否し続けたほうがいい。絶対に同意なんかするか、と私も意地になっていた。


 林くんは緩めていたネクタイを片手で外すと、私の手首をまとめていた手を離し、その隙に抵抗しようと上半身を起していた私の首にネクタイを巻きつけた。どんどん締める力も強くなり、口から変な声が漏れる。


 自由になった手で林くんの肩を押したり叩くが、酔っ払いと言えど相手は男性で力では勝てない。


「いつも見守ってやっているのに、なんでそんな事言うんだよ! 俺が柚月の私物盗むから? いつも隣じゃなくて後ろで見守ってるから?」


 ペンとかメモ帳がなくなると思ったらお前だったのかよ。しかも、家まで着いて来てたのかよ。初めて知ることばかりで自分がどれだけ鈍感かを思い知る。後ろを走る車なんて一々覚えてなんかいないから着いてこられているのすら知らなかった。


 息が吸えなくなって、口をパクパクとさせると何を勘違いしたのかまた林くんの唇が合わさる。息もできないのに唐突にやって来た唾液に咽そうになるが咳き込むことも許されず、だんだん頭がふわふわとしてくる。


「これからずっと一緒だよ」


 その言葉を最後に私の意識は途絶えた。



 ◇◇◇



 ──パタン。


 本の閉じる音が聞こえてハッとする。思わず首を抑えるがもちろん、何もない。


「大丈夫ですか……?」


 神様が私の顔を覗き込み、袖で私の額をこする。行動の意味がわからず、神様を見つめると「汗」と短く返された。どうやら冷や汗をかいていたらしい。


 手元にあったはずの青い本は消えていた。


「私、林くんに恨まれていたわけではないんですね」


 寧ろ好かれていたみたいだ。知らなかった。好きだからと言って許される行為ではないけども。


 あの後、どうなったんだろう。林くんは警察に捕まったのかな。


「憎いですか?」

「林くん?」


 何度も神様が頷く。

 憎いかと聞かれて少し悩む。難しい。許される行為ではないと思ったばかりだけど、林くんを憎むのは違う気がする。殺された私は林くんを憎む可能性はあるだろうけど、だって、実際は私、林くんに殺されていないし。茉里ちゃんに殺されているわけで。


「いや、憎くはないかも」

「そうですか」


 私の答えを聞いて神様は安心した様子だった。


「次、見てもいい?」

「ええ」


 神様の返事を聞いて私は手を伸ばした。

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