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ヤンデレ公爵の大切な人  作者: よなぎ
第三章
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真実を知る①

 訓練場に行った日から夢に神様がよく出てくるようになった。ごっこ遊びに付き合ってあげたり、話したりと何気ない日々を過ごしている。一人の時間が多い神様は私と一緒にいるのが楽しいらしい。神様がこんなにも有効的だとは知らなかった。


「さて、こんなものでしょう」


 今日も今日とて神様とお茶会をしていたら唐突に神様が立ち上がった。相変わらず真っ白の空間。テーブルはないが神様とは向かい合って椅子に座っており、空中に温かい紅茶とクッキーが浮いている。


 私はクッキーを頬張りながら神様を見る。神様は袖をパタパタと振り、私に立ち上がれとジェスチャーで伝えてきた。黙って言うことを聞けばニッと聞こえそうなぐらい口角が上がる。


「手を出してください。そう、手のひらを上に向けて。違います、両手です!」


 クッキーの粉が指先に付いていたので片手だけ差し出したら神様に怒られてしまった。粉を払い、両手を神様の方に差し出す。手の上に神様の手というか袖が置かれる。近付いてくる神様を避けるように紅茶とクッキーが道を開ける。


 コツンと額を合わせて、神様が何かを呟く。合わせた額から眩しい光が私を襲い目を閉じた。


「目を開けていいですよ」


 恐る恐る目を開ける。胸の辺りがポカポカと暖かい以外には特に変わった様子はない。周りも特に変わった様子がなくて首を傾げる。不思議そうにしている私が面白いのか神様は口元を袖で隠してクスクスと笑っている。


「何したんですか?」

「あなたは私のものだと印をつけました」

「……?」


 ちゃんと教えてくれない神様に流石にムッとする。いつもと違う表情が見れて嬉しいのか神様は袖で私の頬をつつく。


「ちゃんと説明してください」

「あなたに神聖力がない事を私が驚いていたの何故だかわかります?」


 初めて会った時の話だろう。魔力がないからではなくて神聖力がない事に神様は驚いていた。何度か授業を受けたから今ならわかる。神聖力を持っているのは聖女だけで、他の人たちは持っていない。神聖力がない代わりに魔力がある。


 だから神聖力がない事は珍しくないのだ。それなのに驚いていたということは……、


()()()()()()()()()()()()ですよ」


 静かな空間に神様だけの声がやけに響くように感じた。


「魔法については精霊と契約する事はもう知ってますね? 神聖力を対価として力を貸すのは生命の精霊。あなたと契約していた精霊()です」

「私も契約していたんですか?」

「ええ。ただ、あの精霊()はもう死んでしまいましたけど」


 目は見えないけど、神様は寂しそうだった。


「その空いた空間は精霊にとってはとても魅力的ですから。レオンハルト・ハウザーに感謝しないとですね」

「レオ?」

「あなた、魔族にずっと狙われていましたよ。殺される夢を何度も見ていたでしょう?」

「林くんに殺される夢は見てましたけど、神様が消してくれた日が最初で最後ですよ」


 その言葉を聞いて「あー、なるほど」と納得する神様。


 神様曰く、私は一人で寝ている間、林くんに殺される夢を何度も見ていたらしい。それを幸いにもレオと一緒に寝ることによって、レオとレオの精霊が私を守ってくれていたようだ。起きても夢を覚えていないため、もしあのままずっと一人で寝続けていたら知らないうちに私はどんどん闇に呑まれていたらしい。

 最近、思考がネガティヴになりやすくなっていたのも魔族が隙を狙っているからだとか。


「最初にあなたと出会えたのは最後にあの精霊()が力を振り絞ったおかげです。神聖力がなかったので加護をつけたのですが、あなたに馴染むまで時間がかかりまして」

「もしかして、それで私を赤ちゃんにしようとしたという事ですか?」


 神様が拍手をして「正解です」と嬉しそうに言う。八年で目が覚めて生活できているのにおかしいと思った。二十五年というのは神聖力も元通りにできる年数だったのか。


 神聖力を奪う人なんて一人しか考えられない。これ以上、逃げるのもよくないなと思い、意を決して神様を見る。


「神様」

「なんでしょう?」

「私、林くんに殺されていないですよね?」


 今まで口角が上がって笑っていた神様の口角が下がる。「何故です?」といつものテンションの高い神様ではなく落ち着いた声で聞かれた。


 怒っているのだろかと不安になりながらも言葉を選びながら考えを伝える。


「因果律を歪められた時に神様が干渉するってレオが教えてくれて。……私は殺され方が刺殺だったから、因果律が歪められた部分かなってずっと思ってたんです。ほら、神様も本当は刺殺じゃなくて絞殺なのにって言っていたじゃないですか」


 神様は黙って私の話を聞く。


「でも、私がこの世界に来る条件が【ある人に殺される】だったでしょう? 殺し方じゃなくて、殺した人が条件でこの世界に来るなら林くんはないなって」


 笑いたくもないのに泣く事もできないからヘラヘラと笑いながら言う。


「条件を聞いた時になんとなく気付いていたんですけど、認めたくなくて知らないふりをしてたんですけど……」


 徐々に声が小さくなって震えていく。我慢するために唇を噛む。深呼吸をして声が震えないように我慢する。


「林くんが私の首を絞めて殺すのが正しい未来だったとして、因果律を歪めたのは違う人、……茉里ちゃんが私を殺したんですね」

「……ええ」

「私、ふ、二人から恨まれてたんですか……?」


 神様は何も言わずに私を抱きしめる。私も抱きしめ返す。人の温もりを感じて我慢していた涙が溢れた。


 どの位時間が経ったのか、多分、数分くらいだと思うが、私の体感では長く感じた。神様から体を離す。


「本を読みますか?」

「え……?」

「私は人間の人生を本にしていると言ったでしょう」


 神様が指を鳴らすと二冊の本が宙に浮いていた。青い表紙と赤い表紙。


(こちら)が本来ならあなたが歩む道。(こちら)が今、歩んでいる道です」

「読みます!」


 神様は心配そうに私を見つめる。きっと、いい内容ではないのだろう。そりゃあ、そうか。私の死に関するないようなのだから。


 それでも知りたいと思ってしまう。知らなきゃいけないことだと。


「あなたの死ぬ瞬間が書いてある本ですよ? 本当なら知らなくてもいい情報に耐えれますか?」

「でも、知りたいんです」


 私が引かないことをわかってくれたのか神様は静かに頷いた。


「私が前に目を合わすと脳が情報を処理できず脳が爆発することは教えましたよね?」

「はい」

「今回、閲覧するのはあなた自身の死について。しかも二冊分。脳だけではなく、精神的にもショックが大きいものです。……危険だと判断したら本を取り上げます」

「ありがとうございます!」


 神様にお礼を言う。口元は笑っているのに寂しそうだ。そんな姿から神様が私を心配しているのが伝わる。


 高鳴る鼓動を落ち着けるようにゆっくりと深呼吸をする。いい気分になれないのは承知の上。大丈夫。精神に負担をかけないように第三者視点で物語を読めばいい。感情移入しないように気を付ければ精神面に影響は出ないはず。


 頬を軽く叩き、「よしっ」と気合いを入れた。

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