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ヤンデレ公爵の大切な人  作者: よなぎ
第三章
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意識

 寝れないと思っていたのにいつの間にか寝ていたらしい。朝、目が覚めたらレオの姿はなかった。安心したような残念なような複雑の気持ちだ。


「どうしました?」


 私の部屋に準備されたお茶とお菓子を眺めていたら声をかけられた。一人で食べるのも寂しいので、サナにも食べてもらおうと一緒に座ってもらっている。誘ったくせに喋らず、動かない私を見て心配しているんだろう。


 相談しようにもなんと言っていいかわからず、何度も言い淀む。そもそも自分の気持ちすらちゃんと整理できていない。レオが嫌いとかではない。好きだ。ただ、出会った時が中学生くらいの子供で、弟みたいな感覚だった。レオもレオで辛い時期に優しくしたのが私しかいなくて、吊り橋効果みたいな感じだったんじゃないか。小さい子が先生に恋するような感じなんじゃないか。そう不安になってしまう。


「知り合いの話なんだけど、弟みたいだと思っていた人から告白されたみたいで、その子が辛い時に偶然そばにいたから恋愛とごちゃごちゃになっているんじゃないか不安みたいで……」


 切り出してみたが、こんなの自分の話と白状しているもんじゃないか。そう気付いたらそれ以上は何も言えず、言葉につまる。


「柚月様、少しよろしいですか?」


 何度も口籠もる私を見てサナが言う。サナが話してくれるならありがたいと黙って頷く。


「ペリネルを初めて見た時、執事長にしては若いと思いませんでしたか?」

「あ……確かに」


 初めてペリネルに出会った時、使用人の人だと思っていた。ペリネルだけではない。公爵邸の人々は全員、若い。一番年上なのは庭師の四十代くらいの人だ。でも、なんでいきなりペリネル?


「私たちは元々、親が公爵邸で働いていた者たちなんです」


 サナがゆっくりと話し出す。執事長の息子であるペリネルだったが、ハウザー公爵家の執事長は長男が引き継ごうとしていたので、割と自由だったそうだ。自由と言っても長男と一緒に執事の教育は受けていたため、公爵邸をよく訪れていた。子供たちからすればこの自由なペリネルは何でも知っていて、頼れるお兄さん的存在だった。よくイタズラを教えては執事長と長男に怒られていた。

 あの事件の日、サナの両親は例外なく殺された。当時、六歳だったサナを引き取ったのがペリネルらしい。二十歳だったペリネルには婚約者がいたのだが、公爵邸の事件とサナの保護者となった事で婚約は破棄になった。ペリネルはサナの前では一度も泣かず、サナが近くにいる時は安心させるかのように笑っていたらしい。


 ハウザー公爵家の管理は皇室がすることになったので、仕事に困る事はなかった。皇室で下っ端として働き、サナを育てたペリネル。


「ペリネルは優しいんです」


 サナはそう言って、お茶を飲む。


「公爵様が皇室の騎士団に入団された時も、いじめられていると知った時もどうやって助けれるか必死に考えてました。私の前ではそんな素振りを見せた事はありませんでしたが、部屋で一人になった時、頭を抱えてました。目の前でいじめられる公爵様を助けたくても助けられない、我慢するために爪が食い込むくらい握っていたのでしょう。時々、見える手のひらには傷ができてました。そんな姿をずっとそばで見て来たのです」


 少し寂しそうに笑って「惚れないわけがないじゃないですか」と。


「サナ……」

「内緒ですよ。私はこの事を柚月様だから話したんです」

「誰にも言わない。でも、なんでいきなり……」

「私は今の関係が崩れる事が怖くて伝える勇気がなかったので」


 ジッと私を見つめる。


「育てられたからそれを家族愛と一緒にしているとか、辛い時に助けてくれたから恋情だと勘違いしている等は思わないでください。私は、私たちは、お相手を親だとか、兄弟だとか思った事ないのです。お相手をちゃんと知り、そばにいたからこそ好きになったのです。その気持ちを否定しないでください」


 サナの言葉に頭を鈍器で殴られた気分になった。


「そう、お知り合いの方に伝えていただけますか?」


 笑顔で言うサナを見て少し泣きそうになる。サナにもレオにも失礼な事をした。


「とりあえず、今日からお相手を異性として意識してみればいいのではないのでしょうか」

「そ、そうだよね」


 今までレオを子供扱いしていたのは否めないので、異性として見てみることから始めよう。これまでの生活を思い出す。一緒に寝たり、食べさせてもらったり、食べさせてあげたり、くっ付いたり、抱き上げられたり……、うっ、距離が近過ぎる。無理、異性として意識したら恥ずかしくなってきた。


 顔に熱が集まって来たので手で覆い、叫びたい気持ちを抑えていたら部屋のドアが勢いよく開く。驚いた事により顔に集まった熱は消えた。入り口の方を見たら、正装姿のレオが立っていた。無言で私に近づいて来て抱き上げられる。


「え、ちょっ」


 最初こそびっくりしたが、レオの顔が目の前にあり、また顔が熱くなる。私の赤くなる顔を見て一瞬だけレオの目が大きく開く。


「サナ」

「はい」

「ボーナスだ。希望額をペリネルに伝えとけ」

「ありがとうございます」


 部屋から出るまで頭を下げていたサナが、見えなくなる瞬間、頭を上げて親指を立てたのを私は見逃さなかった。





 隣の部屋、つまり、レオの部屋へと連れられた私はそのままベッドへと押し倒される。


「待って! え、何どうしたの!?」


 急展開について行けず、覆い被さるレオの肩を押して抵抗するが、びくりともしない。


「柚月」


 名前を呼ばれて黙る。赤い瞳がジッと私を見つめる。相変わらず整った顔をしていて、今日は髪も少しセットされているから余計にかっこよく見える。白い手袋をした手が私の頬を撫でると思わず肩が揺れた。私の反応を見て楽しんでいるのか何度も名前を呼んではジッと見つめられる。耐えきれなくて顔を横に逸らしたら耳元で「愛している」と囁いてくる。耳をガードするように隠せば、指を齧られる。


 羞恥心の限界が来てしまい、涙が出そうになりながらも耐えている。これは新手の拷問か。なんでこんな事をされているのか本当にわからない。


「れ、……れお」

「……ん?」

「はず、かしい」


 見上げながら言えば、一瞬だけキョトンとして、その後、口角が少し上がる。ああ、これは悪い顔だ。どうやらなんらかのスイッチを押したらしい。初めてみるレオの顔に相手にも聞こえるんじゃないかと思うほど心臓の音がうるさく鳴る。


 徐々に近付いて来るレオの顔を最後にギュッと目を瞑る。


「何やっているんですか! このバカタレーー!!」


 その言葉と共に勢いよく風が吹き、変な浮遊感が私を襲う。恐る恐る目を開けると、宙に浮いていた。下を見たらペリネルがいた。どうやら私はペリネルの魔法で入り口まで移動したらしい。ベッドの方を見ると少し不機嫌そうなレオが座っている。


「変だと思ったんですよ。帰宅したらサナがボーナス云々言っていたので!」

「もう帰って来たのか?」

「ええ! お陰様で!」


 怒りながらも私をゆっくり地面へと降ろしてくれる。私を隠すように前を立つペリネル。


「柚月様、今、あいつに近付いてはダメですからね」

「何かあったんですか?」

「別に、少し嫌な事があったから慰めてもらっていただけ」


 ペリネルに質問したらレオが答えたので、あまり私に聞かれたくないのかと、これ以上は聞かないでおく。


「聖女様の護衛で不貞腐れているだけです」

「あ、だから正装なんですね」

「ええ。公爵様は異性に触られるのが嫌いなのにも関わらず、聖女様に腕組みされて歩かされた挙句、瘴気を払う前に疲れるといけないからお姫様抱っこしてほしいと我儘言われて不貞腐れているんです」


 詳細を話すペリネルをレオは睨むが、そんなものを気にしないと言わんばかりにレオを無視して私に笑いかける。


「詳しいですね。ペリネルも一緒だったんですか?」

「はい。記録係として同行しておりました。護衛が終わるなり、私は置いていかれましたけども」

「もうわかった。悪かった」


 レオが私とペリネルを引き離し、私はレオの腕の中、ペリネルは廊下へと押される。「何かあれば叫んでください!」とペリネルは必死で言うが、ドアを閉めて鍵をかけた。多分、助けを呼んでも無理な気がして苦笑いをする。


 レオを見上げると申し訳なさそうな顔をしていた。


「ごめん、まさか柚月が俺を意識しているとは思ってなくて、嬉しくて……」


 私を抱き上げて気持ちを落ち着けようとしたら予想外の反応だったのでレオは止まらなくなったらしい。確かに、いつもの私だったら驚きはしても顔を赤くするような事はなかったな……。


「柚月が俺を異性として見ていない事わかっていたから、徐々に意識してもらおうと思ってたんだけど……」


 レオは「覚悟してね」とニヤリと口角を上げて言った。

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