神殿③
「気持ち悪い」
レオが茉里ちゃん達の方を見ながら小さく呟く。眉を寄せ嫌そうな顔をしている。そういえば、過去にもレオは気持ち悪いと言っていたことがあった。あれはなんでだっけ。あ、そうそう。見られている気がすると言って、気持ち悪いと言っていた。心配そうに見ていると私の視線に気付いたレオは苦笑した。
「そろそろ戻ろうか」
「あ、うん」
もう一度指を鳴らせば今まで遮断されていた音が聞こえる。殿下は待たされていることに不満を感じているのか何かを言っているみたいだ。
再びレオは私の手を握ると殿下達の方へと歩いていく。
「遅いぞ!」
「だから解散しようとしたじゃないですか」
「何話していたの?」
「聞かれたくないから遮断したのに話すとでも?」
殿下の文句や茉里ちゃんの質問に冷たく返すレオ。魔法を使っていないはずなのに冷えた空気に身震いする。相手が殿下だろうが、聖女だろうが優しくする気は一切ないらしい。不敬罪にならないか心配になる。
「あ、一週間後に私のお披露目があるんですよ!」
「お披露目? 茉里ちゃんの?」
「ええ、昼間は民衆に向けての挨拶、夜は貴族に向けての私のお披露目をするんです!」
「デビュタント的な?」
「はい!」
茉里ちゃんは嬉しそうに言う。「すごいね!」と言って拍手をする。茉里ちゃんは可愛いからドレスも似合うだろう。しかも一週間で皆の前に立たなきゃいけないなんて本当にすごい。私なら緊張で吐いている。会社の朝礼の時にしていた問い合わせ内容の報告会ですら嫌なのに。
「レオンは誰をエスコートするの?」
茉里ちゃんは隣に座るレオに身体を近付けながら聞く。それが嫌だったのかレオは椅子を私の方にズラして逃げてきた。
そうか、レオは公爵家だからこういう場には参加しなきゃいけないのか。しかも女性をエスコートしなきゃいけないなんて大変だ。女性の手を引いて紳士的な姿はレオに似合うと思うが、女性に優しいレオは想像できない。ドレスとか褒めれるのだろうか。茉里ちゃんの時は心配とかなかったが、レオが参加すると聞いて一気に不安になってきた。
「公爵は今回もまた俺の妹をエスコートする気か?」
「いいえ、今回は柚月がいますので」
「その女に招待状を送った覚えはないが?」
「では、今回はお断りさせていただきます」
この二人が言い合う原因が私なの本当に嫌だ。胃が痛くなってきた。
「レオ、私、そういうマナーは知らないから参加なんかできないよ」
「基礎的なことは俺が教えるし、覚えきれなくてもフォローするから大丈夫」
大丈夫な要素が一つもなくて不安です。
「私も柚月さんが参加してくれるなら安心です!」
茉里ちゃんの笑顔が眩しい。茉里ちゃんまで同意するとは思っていなかった殿下は居心地が悪そうだ。どうやら茉里ちゃんのデビュタントに私は参加するように話は進んでいるらしい。
「そもそも、ドレスなんて持ってないし」
「今朝、見ただろう?」
「……」
確かに、数は少なかったがワンピースの中に数着のドレスがあった。着せ替え人形状態の時にドレスも着たのはそういうことだったのか……! 衣装の説明を受け終わり着替えるタイミングでレオがちょうどよく来たな、と思いましたけども。感想を言うでもなく着せ替え人形が終わると消えたな、と思いましたけども!
「じゃあ、柚月さんも参加ですね!」
実際に何をするのか全く知らない私に簡単に流れを説明してくれた。茉里ちゃんは殿下のエスコートで最後に入場。その後は茉里ちゃんと殿下が中央で、他は各々ダンスをする。曲は全部で三曲あり、一曲目はエスコートの相手、二曲目からは相手は自由。ダンスが終わったら軽食しながら談笑。因みに二曲目以降のダンスは踊っても踊らなくてもどちらでもいいらしい。
「茉里ちゃんはこれを一週間で覚えるの? すごいね」
「柚月さんもできますよ!」
体力は十代に戻ったとは言え、ダンスなんてしたことがない。三曲分のステップなんて私が覚えられるはずもないので一曲踊ってあとは休憩しよう。そう心に決めた。
「では、俺たちはこれで」
レオが立ち上がってそう言うと、私に手を差し出す。手を掴んで立ち上がり、茉里ちゃんにお別れを言って殿下には会釈した。
いつより歩くスピードが早く、急ぎ足で歩いていたが、茉里ちゃん達が見えなくなるとレオは歩くスピードを落とし私の歩幅に合わせて歩く。私に気遣いつつもレオ自身は難しい顔で何かを考えている。
やっと二人きりになったし、どうしたのか聞いてみてもいいだろうか。
「ねぇ、レオ」
「ん?」
「ずっと難しそうな顔しているけど、どうしたの?」
レオは意を決したのか立ち止まり私を見つめる。
「……俺、こっちの世界に戻る前に神にあったんだけど、その時に柚月にまた会いたいって願ったんだ」
「え、そんなこと願ってくれたの?」
レオも可愛いところがあるんだな、と笑うが、レオの表情は固い。
「その時に、柚月がどうなればいいのか条件を教えられたんだけど、それが、【ある人に殺される】だった」
ああ、だからレオは私を見ては何度も難しい顔していたのか。私と再会を望めば私が殺されることも望んでいる気がして再会したことを素直に喜べなかったんだね。
背伸びをしてレオの首に腕を回し抱き締める。昔は同じくらいの背丈だったから背伸びなんかしなくても抱き締めてあげれたのに、レオは成長したなぁ。
「私ね、レオに会えて嬉しいよ。誰かに殺されなきゃ会えなかったとしても」
「……ん」
「レオに会いたかった」
「……俺も会いたかった」
私の肩に顔を埋めてレオも私の腰に腕を回す。大きくなったはずなのに、過去のレオが戻ってきたみたいだ。
「俺が柚月を守るから」
「……なんか王子様みたいだね」
プロポーズにも聞こえる言葉に照れしまう。今度は私がレオの肩に顔を埋めた。ギュッとレオの腕に力が入る。
「帰るか」
レオはそう言うとそのまま私を抱き上げた。いわゆるお姫様抱っこだ。「ひゃっ」と思わず声が出てしまう。レオはその声を聞いていたずらっぽく笑う。
そのまま私を抱っこしたまま馬車まで連れて行かれた。神殿の出入り口に近付けば、参拝者など人が多くなってくる。周りの視線が恥ずかしくてレオの肩に顔を埋めたままだったのは言うまでもない。




