神殿①
午前中は私の服を作るためにレオが色々手配してくれたらしい。着せ替え人形のようにいろんな服を着た。ドレスもあったが、ワンピースが多かったのはレオの配慮だろう。既製品の服とは別にオーダーメイドの服まで買うらしく採寸までしてもらった。その後は下着も準備してもらいレオには頭が上がらない。
因みに、オーダーメイドの服がメインらしく既製品の衣装はオーダーメイドが出来上がるまでの服らしい。お金持ちはすごい。今まで既製品の服しか着たことのない私には未知の世界だった。
「疲れてないか?」
「ちょっとだけ。でも大丈夫だよ」
馬車に揺られながら私たちが向かっているのは神殿だ。ちゃんと皇帝陛下の言う通りに神聖力を検査しに行く。本来ならこの世界に来た日に行かなければいけなかったらしいのだが、レオが一日遅らせてくれたらしい。
「私、神聖力がないこと確定してるけど検査しなきゃいけないのかな?」
「本来なら知らないことだから。神に会ったことを言うなよ」
「はーい」
レオは元気に返事する私を見て少し笑う。その後すぐに眉間に皺を寄せ難しいそうな顔をする。何かを考えているのだろうか。昨日も私を見て何度もその顔をしていた。どうしたのかと聞けば早いが、私が聞いても大丈夫なことなのか。
* * * * * *
「お待ちしておりました。ハウザー公爵様」
「久しぶりだな」
「ええ、あの時以来です」
馬車を開けると、目の前に年老いた男性が立っていた。ニコニコとレオに話しかけ、レオは馬車から降りながら挨拶をする。親しい仲なのだろうか。
「柚月、こちらはヨハネス枢機卿」
「初めまして、ヨハネスと申します」
「初めまして、辻本柚月と言います。本日は私のためにありがとうございます」
レオの手を借り馬車から降りて枢機卿に挨拶をする。優しそうなおじいちゃんという印象だ。枢機卿というくらいだからすごい人なのだろうけど。
挨拶が終わると枢機卿が案内してくれた。広い部屋の真ん中に丸い水晶が置いてある。この水晶に触れると神聖力の有無がわかると教えてくれた。触ってみるが案の定、何も反応がない。
「これはこれは……」
「魔力すらないのか」
少し驚いたような枢機卿の声とレオの意外そうな声が聞こえた。どうやら私は神聖力も魔力もないらしい。いや、別にそれが普通なんですけどね。ちょっと特別の力があるんじゃないかと期待してました。漫画の読み過ぎかな。
「魔力があるとどんな感じになるの?」
「見たい?」
「うん」
レオが水晶の上に手を置く。すると水晶の中で結晶ができた。
「俺は氷の魔法が使えるから水晶の中に結晶ができるんだ」
「おー! 綺麗。すごいね!」
「城も作れるぞ」
「普通は水晶の中で好き勝手に作れないですからね」
レオが水晶の中で氷の城を作っていると枢機卿は苦笑いしながら教えてくれた。レオは魔力量も多ければ、魔力を操る技術もすごいらしい。レオはと言うより、ハウザー公爵家は魔法と剣の両方優れており、皇帝陛下の右腕的存在らしい。その右腕が皇帝陛下に剣向けようとしてたなんて何度思い返しても恐ろしいな。
城の他にリンゴやハート型など私の希望通りに作ってもらい満足したので部屋から出る。綺麗な噴水やら花があるので周りを見ながら歩くだけでも楽しい。
「柚月さん!」
唐突に名前を呼ばれて立ち止まる。横ばかり向いて歩いていたから気付かなかったけど前に茉里ちゃんとその横に知らない金髪の男性、そしてその後ろに騎士と思わしき人たちがいた。
「大丈夫ですか? 心配したんですよ?」
「大丈夫だよ。茉里ちゃんも大丈夫?」
「ええ、私はなんともないので……」
私のところまで小走りできた茉里ちゃんは手を握る。私に向かって話しているはずなのに目線は私の隣にいるレオを見ている。そういえば、レオって茉里ちゃんの目の前で魔法使ってたんだよね。怖かったのかなと思い茉里ちゃんを見るが、怯えたような感じではなく少し恥ずかしそうにレオを見ていた。隣を見てもレオは無表情で。今度は視線を茉里ちゃんの後ろにいる男性を見てみると何故か睨まれていた。
「茉里! 行くぞ!」
「私、柚月さんと話したいの!」
男性は茉里ちゃんの手首を掴むが、茉里ちゃんは私の手を離そうとはしない。
「あの、初めまして。私は辻本柚月と申します」
「……チッ」
自己紹介したら舌打ちで返された。困ってレオを見るが、その様子を見ていたレオの眉が少し動いただけで何も言わない。
なんだか気まずいと思っていると枢機卿も同じ気持ちだったのだろう。「中庭に休憩する場所があるのでぜひ」とすぐそこにあるテーブルを指差した。
──あ、枢機卿逃げたな。




