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ヤンデレ公爵の大切な人  作者: よなぎ
第二章
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人はいつ死ぬかわからない

流血表現あるので苦手な方はご注意ください。

 あの日、私はレオが消えた後、蹲りながら泣いた。泣き続けても時間は止まるはずもなく、仕事の時間になり、朝のリモート会議で泣きじゃくった顔を皆に見せる羽目になり、心配かけてしまった。親戚の子を預かっているという名目で在宅ワークを希望出していたため、会社の人たちには急遽、親戚の子と別れることになったと説明したら納得し、上司から「仕事が遅れているわけでもないから今日は休め」と言われその日は有休をいただいた。

 レオがいなくなって一年経った。今でもレオの使っていた物は全て残したままだ。レオがいなくなって変わったことと言えば、在宅を辞めて今はまたレオが来る前のように会社に出社している。


「柚月さん! 今日は本当にお邪魔してもいいんですか?」

「うん、何か食べたいのある?」

「パスタ食べたいです」

「パスタなら家の材料で作れるからそのまま家来る? あ、欲しいものあるならスーパー行くから言ってね」

「いえ、特にないのでそのまますぐ柚月さんの家に行きたいです」


 私にも直属の後輩ができた。今年の春に入社した新入社員を指導して欲しいと上司に言われたのだ。佐藤(さとう)茉里(まり)ちゃん。出会いは茉里ちゃんが入社してくる前。カフェにいたら満席だったらしく「一緒に座ってもいいでしょうか?」と相席をお願いされたのだ。あの時のスーツ姿の茉里ちゃんは可愛らしかった。今も可愛いけど。





 仕事が終わり、茉里ちゃんを連れて帰宅する。レオがいなくなって初めて私以外の人を家に招き入れた。


「柚月さんって恋人いるんですか?」

「いないよー。なんで?」

「コップが二つあったので」


 お手洗いから戻ってきた茉里ちゃんが言う。レオが使っていた歯磨きコップのことだろうとすぐ納得する。


「親戚の子を預かってたの。今は、もう戻っちゃったんだけどね」

「柚月さんの親戚!? 柚月さんに似て優しい子なんだろうな!」

「私に似ているかはわからないけど、優しい子だったよー」


 レオを思い出しながら言う。私の心配をよくしてくれる子で、本当に優しい子だった。


 人と話しながらすると料理はあっという間に完成した。本日のパスタはボロネーゼパスタ。二人分の料理をテーブルに運び、手を合わせる。


「茉里ちゃんの相談事って?」


 今日、茉里ちゃんが我が家にいる理由。最初は居酒屋やファミレスなどのお店で話を聞こうとしたのだけど、二人きりがいいと言われ、今に至る。


「大したことないんですけど」

「どんな話でも聞くよー」

「柚月さん、やさしー」


 笑いながら言う茉里ちゃん。仕事の悩みから個人的な悩みまで茉里ちゃんは話し始めた。相槌をしながら同意するところは同意して。食事と片付けも終わり、そろそろお開きかなと思った時、茉里ちゃんが私の方を見た。


「私、好きな人がいるって言ったじゃないですか」

「言ってたね」


 確か、当時は高校生で相手はもう成人男性だったから相手にされなかった。とかだったような。茉里ちゃんも今はもう成人したからもう一度、相手にアタックするらしい。四年間も片思いしているのはすごいと思う。


「この前、林先輩に告白されたので、私には好きな人がいるって断ったんです。そしたらその日を境に付き纏われてて……」

「え、林くんが?」

「いつ聞かれているかわかんないからこんなこと、外じゃ相談できなくて……っ」

「それは、言えないよね。大丈夫だからね」


 瞳いっぱいに涙を浮かべ、声が震えている。全然、大したことある話だ。勇気いるから最初は軽い雑談をしていたのか。

 林くんとは私の同期で真面目な人だ。合コンとか誘われても断っていたから女性にあまり興味ないのかと思った。私がコードエラーで困っている時には話を聞いてくれて一緒に原因探してくれてたりと無愛想と思われがちだが実際は優しい人だ。ストーカーをするような人には見えないのけど……、いや、私が知らないからと言って決めつけるのはよくないか。


「私、怖くて」

「そうだよね。何か私にできることはある?」

「今日、家まで送ってほしいんです! 林先輩がストーカーって証拠を掴みたくて……!」

「わかった」


 女性だけで不安はあるけど、泣いている茉里ちゃんを見たら断ることなんてできず、協力することにした。車で茉里ちゃんを送ってから家周辺を巡回して怪しい人がいないか確認したらいいか。


 茉里ちゃんが落ち着くのを待ち、帰る準備をする。茉里ちゃんが最後にお手洗いに行くと言うので、先に車の鍵を開けとこうと思い、玄関を開ける。


 ──バチッ!


「……え、はやしく、ん?」


 玄関を開けてすぐそこに林くんがいた。首にチリッとした痛みを感じた後、私の意識は途絶えた。




 * * * * * *




「い゛ッ!? い、っだ、……ああ゛??」


 鋭い痛みに目を覚す。目を開けても目の前は真っ暗だった。腰辺りが痛い。熱い。衣類が濡れている。怖い。痛い。痛い。痛い。何これ。冷や汗が止まらない。地面に額を擦り付け目隠しされている布をずらす。見慣れたカーペットとソファー。経験したことのない感覚に吐き気がする。


「ああ゛! やめて! 痛い!」


 臀部に重さがあり、私に馬乗りになっていることがわかる。何度も私の背中に刃物を突き刺す。その度に低く唸ったり、叫んだりするが、相手はお構いなしだ。


「っ……、はや、ぐっ、しくん……、や、い゛っ!」


 やめてと言いたくても痛くて言えない。後ろを振り向こうとしたら勢いよく刺される。刺される瞬間も痛いが抜かれるのも痛い。暴れても林くんを退かす力はない。そもそも力も入らない。痛みで頭がおかしくなりそうだ。涙で視界は歪んでいる。

 段々と手足が冷たくなってくる。痛みも分からなくなってきた。声を出す力もない。音も聞こえなくなってきた。


 ──ああ、私、死んだな。

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