少年と少女漫画
作業がひと段落付き、ミルクティーを飲む。ついでにレオの方を見るとレオはソファーで横になって漫画を読んでいた。私が仕事中はレオが暇かと思い買った漫画。最初は漫画の他に小説も買ったのだが、異世界では漫画はないらしく物珍しそうに見ていたため今は漫画ばかりだ。初めはどう読むのかわかっていなかったレオだが今では一人で黙々と読んでいる。
レオの好みを知らないから青春漫画、スポーツ漫画、バトル漫画、恋愛漫画など色々適当に買った。少年漫画系は全て読み終えたのか今は少女漫画を読んでいる。
「面白い?」
「んー」
本から目を離さず返事をする。レオは基本的に無表情なので漫画が面白いのか面白くないのか本人に聞かないとわからない。私なんてすぐニヤニヤしてしまうし、泣いてしまうから羨ましく思う。レオが今読んでいる漫画も一度読んでみたが、案の定泣いた。お風呂上がりのレオが泣いている私を見てびっくりしていたくらいだ。一瞬、目を見開いたかと思えばその後、困ったようにオロオロしている姿は可愛くて思わず笑ってしまった。そんな姿を見たのは最初だけで、今では漫画で泣いている姿を見ても無視をする。
「好きなら好きと言えばいいのに、とは思う」
「レオはすぐ告白するタイプなの?」
「……好きと言う感情がよくわからない」
私の質問に対してレオは少し考えて言う。確かにレオの今までの環境のことを考えると難しそうだ。好意は向けられていたけど一方的な押し付けみたいだったし、家族に思う好きとはまた別だし。
「私もそんなに恋愛経験多い方ではないんだけどさ、一緒にいなくてもその人のことをずっと考えたり、些細なことで嫌われないか臆病になったり、一緒にいたら安心したりする存在なんじゃないかな」
「柚月にもそんな人いたの?」
「いたよー。片思いのときはさっき言ったことみたいな感じでいいんだけどね。付き合う中で一番大事なのは信じることはもちろん、相手をどれだけ許せるのか」
「ふーん?」
「一緒に幸せになることだけを考えるんじゃなくて、この人とならどこまで一緒に不幸になれるのか、みたいなことも大事って言うよね」
「一緒に不幸……」
「その人が好きだから辛いことを耐える人もいれば、その人がいれば地獄ですら幸せと思う人もいるんじゃないかな」
まだ結婚したことないからその辺りはまだわかんないや、と笑って言う。レオは少し考えた様子だったが、それ以上の質問はせず、再び漫画を読み始めたので私も自分の作業へと戻った。
* * * * * *
仕事が終わり、夜ご飯を一緒に食べているとレオが私を見て言う。
「俺の世界に似てる漫画があった」
「え、ほんと?」
「ん。魔法使えたり異世界から聖女が来たり」
俺の世界とは違う漫画の世界の話だったけど。とレオは付け加えると、フォークに巻きつけた和風パスタを食べる。
「レオの世界の聖女も漫画みたいな感じなのかな」
レオが読んでいた漫画の内容は確か、異世界転移の女子高生の話だったはず。ゲームで知識がある女子高生と王子や騎士や魔王様の逆ハーみたいな。
「さぁ? ……神は公平だから」
「つまり?」
「未来を知っている聖女なんて魔族には不公平になるだろ」
「魔族に抵抗するための聖女なんだから不公平でもない気が……」
何を持って不公平と判断しているのか謎である。
「基本的に神は干渉できないんだ。例外を除いて」
「聖女は例外ってこと?」
「例外ってのは因果律のこと。因果律を歪められた結果、聖女なんだと思う」
「レオは詳しいね」
「これでも元公爵家の後継者だからな」
レオはそう言ってコンソメスープを飲む。
変に間が開いたせいでなんと言えばいいのかわからなくなってしまった。
「……食欲ないのか?」
そんな私に気付いたのかレオは少し心配そうに私を見る。基本的には表情筋があまり動かないレオだから何も知らない人が見たらこの表情は無表情に見えるだろう。でも、私にはわかる。心配してくれているのだと。
「そんなことないよ。レオは? おかわりあるからね。運動もしているし食べないと成長しないよ」
「……少しもらう」
席を立ち自分でおかわりをする。
来た当初より成長したと思う。たくさん食べているし、何より筋トレもしているのだ。私が昔買ったストレッチマットと腹筋ローラーがこんなところで役に立つとは思わなかった。中学生くらいの子は今が成長期なので筋トレばかりすると身長が伸びにくいと思い長時間はさせないようにしているおかげか、程よい筋肉がついていると思う。身長も私と同じくらいなんじゃないだろうか。
「初めの頃より成長したよねー。……レオってランニングとかしたいと思う?」
戻ってくるレオの身体を見て最近の腹筋ローラーだけでは物足りなさそうにしていたことを思い出す。筋肉もそうだけど、体力も本当は欲しいのではないだろうか。家の中で走り回れないし、外にも出ないのだから仕方ないと言われたらそうかもしれないのだけど……。
「なんで?」
「いや、最近物足りなさそうな顔しているから」
「……まぁ」
ランニングマシンっていくらだっけ。そもそも家に置けるっけ? そんなことを考える。
「外、行ってみようかな」
「え……っ!?」
思わず聞き返すとレオは私を見て言った。
「また変なことにお金使う気がして」
「いや! 変なことじゃないよ! ランニングマシンがあれば家でも走れるなって」
レオのためだから! 無駄遣いじゃないから! と必死に弁明したのに呆れたようなため息が目の前から聞こえた。
……うう、解せぬ。




