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ヤンデレ公爵の大切な人  作者: よなぎ
第一章
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少年と映画

 大人ぶっていた時期が私にもありました……。時期というか昨日なんだけど。


「ねぇ、本当にこれ見るの?」

「うん」

「シリーズだよ。何作もあるよ」

「うん」

「今日一日このシリーズ見るの?」

「うん」

「ほら、他にもゾンビとか!」

「それ十八以上の年齢制限だけど」

「くそぅ……」


 年齢制限のことを言われたら何も言えなくなる。

 なんでだ。このゾンビ系が十八ならこのシリーズも十八以上にすべきだろ。私、幽霊系はダメなんだよ。まだゾンビ系の方がいける。幽霊が本当にいると思っているわけじゃないけど、あの人達、夢に出て来るんだよ。ゾンビとかのグロならまだいけるのに……。

 まさか、あの大人気ホラーの年齢制限が十二とは思わないんだ……。


「はやくー」

「ねぇ」

「何?」


 まだ何かあんの? と言わんばかりの表情でソファーに座るレオ。うぐ……、と詰まりながらも覚悟を決める。


「見るんだけど、レオにお願いがあるの」

「……ん?」

「今日、寝る時にくっついて寝たいかも……」


 こんなに駄々を捏ねてはいるが、ホラーは嫌いじゃない。ただ、見た後に一人でいるのが怖いのだ。特に幽霊系。あと、叫びまくるので映画館では見れない。人がいないとホラーは見れないので友人が泊まりにきた時にゾンビ系ホラーをよく見ていた。

 幽霊系なんて実家でお父さんが見ていた以来じゃないか。


「別にいいけど」

「ありがと〜!! あと、私、うるさいかもしれないから許してね」


 レオに許可もらえたことが嬉しくてニコニコしながらレオの横に座る。

 三十分ほどで私はこの選択を後悔することになることも知らずに……。




 * * * * * *




 ひぃ〜〜! 怖い怖い。と叫びそうになるのを我慢する。その代わり腕に抱くものに力を入れる。


「くっつくのは寝る時じゃなかったの?」

「……怖いのは現在進行形なんで……」


 小さく呟くように言ったが、近くにいるレオにはバッチリ聞こえたらしい。小さく笑われた。

 レオの腕に抱きついているがレオ自身はあまり気になっていないのか私との会話が終わるとすぐ画面に集中した。


 ある古い館に引っ越してきた家族。娘が物音に目を覚まし、懐中電灯を持って廊下を歩く。ギシッと軋む床の音。経験則でわかる。絶対、幽霊出ると……。

 私はレオの腕を目の前まで持っていき視線を遮る。


「それ、腕が疲れるんだけど……」

「ごめっ……」


 幽霊が出ると感じるたびにレオの腕を上げ下げしていたから仕方ない。本当はくっついていたいけどこうなったら自分の手で隠すしかない。


「腕を上げるんじゃなくて、ここに顔つけていいよ」

「〜〜っ、ありがと〜!」

「んー」


 レオは自分の肩部分を指差す。なんて優しい子なんだろう。私は少し空いた空間をなくすようにレオに近付く。

 これで怖くなった時にレオの肩に顔を埋めることができる。しかも腕に抱きついたまま。レオ、キミは天才か……?


 今見ているのは大人気ホラー映画で、内容は確か悪霊に取り憑かれた娘を聖職者が祓おうとする物語だった気がする。実話が元になっているとかないとか……。一度も見たことがない私でもタイトルを聞いたことがあった。三ヶ月後くらいにまた新作がでるとCMでも見た。

 情けない声を出すたびに私が邪魔になっていないかレオを確認するが、よほど集中しているのだろう。私の方をチラリとも見ない。映画を見るからとあらかじめ準備したポップコーンやポテチ、ジュースにすら手を伸ばす様子もない。

 そのくせ、私が幽霊が出て来るシーンでトイレに逃げようとするとご丁寧に一時停止をして私が戻って来るのを待つ。なんて子だ。気遣いできる子でお姉さん嬉しい。でも、その気遣いがとても悲しいよ、お姉さんは。


 一作目がやっと終わり、時計を見ると十一時くらいだった。

 今すぐ二作目を見ようとするレオを慌てて止める。


「ちょっと早いけど、先にお昼にしよう」


 そう言えば、レオは渋々リモコンをテーブルに置く。

 私は一安心して携帯でピザの出前を取る。メニューは映画を見る前に決めていたのですぐに支払いまで終える。


「怖かったねぇ」

「怖がってたのは柚月だけだけどな」

「う……っ! そ、それにしても集中してたね! 面白かった?」


 これは誤魔化さねば居た堪れない気持ちになると思いレオに感想を求める。


「んー、これは実話なのか?」

「え、どうなんだろうね。私は幽霊を見たことないけど……」

「興味深くはあった。取り憑いて操るなんて魔族付きの人間みたいで」

「魔族付きの人間……?」


 レオの世界って現実でこんな状況が起きるってこと? え、何それ怖い。


「確かに俺の国にもいるよ。神父みたいな聖職者。……柚月は神を信じる?」

「どうだろう。ちゃんとした神様を身に感じたことはないかも。その場その場の神様にお願いしたりはあるけど」


 受験生なら学問の神様とか、安産祈願とか商売繁盛とか。日本は神という存在については寛大だと思う。仏教に関しては絶対な神様はいないはず。かと言って日本には八百万の神様がいるという。人それぞれ崇めている神様は違う。


「俺の世界では神様はいるんだ。神託もある。皇室から発表された神託は、【邪悪な者が世界の秩序を乱そうとする時、未来を知る者、聖女が異世界から来る】と」

「聖女が異世界から来る……? 未来を知っている聖女って」

「ね。なんか不思議だよな。実際は異世界から聖女が来たわけじゃなくて俺が異世界にいるんだけど」


 ──ピンポーン。


 話している途中でチャイムが鳴る。時間的にピザだろう。レオの視線はテレビの方を見ていて、次に見る予定のあらすじを読んでいた。

 私は急いで玄関へ向かってピザを受け取る。


 なんだか胸の辺りがモヤモヤする。

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