死に戻り令嬢が売れない戯曲家にハッピーエンドを望んだら、世界を救うことになりました。
***
『クロムウェル伯爵令嬢クレア。貴様の犯した罪は死をもって償ってもらう』
『お待ちください。オーウェン様、どうかわたくしの話をお聞きください』
『この期に及んで耳を貸す理由などない。聖女シャルロットを貶めようとした大罪人め!』
――首を落とされる前の最期の光景。それは、婚約者だった男の、侮蔑に満ちた表情だった。
「えっ?」
だからこそクレアは驚いたのだ。
目を覚ますと、そこはよく知った場所。自室のベッドの中だったから。
(生きてる!?)
がばっと上体を起こして室内を見回す。
カーテンも調度品も、記憶と一切違わない。十八年暮らした伯爵家だ。
ぎゅっ、とシーツを握りしめた。
同時に扉がノックされる。
「お嬢さま、おはようございます」
扉の向こうから聞こえてきたのはメイドの声だ。
クレアは寝間着のままベッドから飛び出す。そして扉を開け、はしたない姿だと諫めようとするメイドよりも先に大声で言った。
「今日は何年の何月何日!?」
「えっ? 王国暦二百二十三年、緑の月、二十三日ですが……?」
「ありがとう。支度をするからもう少し時間をちょうだい」
再び扉を閉めて、背中を預けた。
姿見を見る。
栗色の髪も、はちみつ色の瞳も、健在だ。
(どういうことなのかしら。わたしは確かに殺された。だというのに生きている。それどころか時間が巻き戻っている。緑の月二十三日といえば、オーウェン様が……)
クレアの婚約者ことウォリック伯爵令息のオーウェンが、辺境の魔物討伐から凱旋する日である。
この国の貴族は生まれつき、誰でもひとつだけ魔法が使える。
クレアも、かすり傷程度なら治癒魔法が使える。
オーウェンの場合、それが強力な攻撃魔法だった。
彼はこの出来事をきっかけに『勇者』という称号を与えられることになる。
そして、傍らには『聖女』と呼ばれるようになるシャルロット。彼女は平民でありながら強力な治癒魔法を使えるため、女神の加護があるのだと崇められている。
一度見たことがあるが、クレアではとてもかなわない強力な治癒魔法だ。
やがて、オーウェンとシャルロットは愛し合うようになる。
(それは当然の流れだと思うわ。立っているだけで絵になるようなおふたりでしたもの)
クレアだって、オーウェンのことは子どもの頃から慕っている。
しかし勇者となったオーウェンは手の届かない青年になってしまった。
遠くから彼の幸せを見守るだけでもいいと、婚約を破棄されてもしかたないと、そう思っていた。
一方で世間はおかしな方へ転がっていった。
シャルロットへ嫉妬したクレアは陰湿な嫌がらせをするようになる。最初は些細なものだったが、やがて、命を落としかねない事態に発展する。王国としては聖女を虐げるようなことがあってはならない。よって、クレア・クロムウェルを斬首刑に処す。
それはクレアが一度目に命を落とすまでの道のりだ。
(ありえない。わたしがシャルロット様とお会いしたのは、この凱旋のとき一度きりだった。誰かがわたくしを陥れたのよ……そうだわ)
そこでクレアは閃いてしまった。
「シャルロット様にお会いしなければいいのよね!?」
ということでクレアは婚約者の凱旋パレードを、仮病で欠席することにしたのだった。
***
王都中が、オーウェンとシャルロットの帰還に対する喜びで包まれている。
魔物は平和を脅かす脅威だったから当然のことだ。
(……それでも、オーウェン様の雄姿は見たいのよね)
仮病を使って引きこもっていたクレアだったが、今は、ストールで頭を覆った変装スタイルで大通りに来ていた。
思い通り歩くのが難しいほどの人混みに紛れて、これから馬に乗って現れるであろうオーウェンたちを待つ。
ざわっ、と歓声が上がった。
「見て! オーウェン様と、シャルロット様だわ!」
声につられてクレアは視線を向ける。
どきん、と大きく心臓が跳ねた。
(すてき……)
馬の上、甲冑に身を包み、マントをなびかせる金髪碧眼の美丈夫。
彼こそがオーウェン・ウォリックだ。
もう一頭の馬には、魔法使いの証であるローブを纏った、赤髪の女性。
穏やかな表情で民衆へ手を振っている。
(……わたしの恋は、ここまで)
オーウェンの姿を目に焼き付けて、クレアは無理やりその場から抜け出した。
大通りから離れてしまえばひと気は減る。
普段は馬車でしか通らない町並みが珍しくて、クレアはきょろきょろと視線を彷徨わせる。
(今日だけは歌劇場も閑古鳥が鳴いているわね)
そして、王都の栄華を形にしたような煉瓦造りの建物の前で立ち止まった。
「そんなに言うなら大衆が求めるような内容の芝居を書いてくるんだな」
「やってやるさ。今に見てろよ!」
(えっ!?)
クレアが驚くのと同時に、黒髪の青年が歌劇場から飛び出してきた。
建物内から声をぶつけてきた人物は知っている。歌劇場の支配人だ。クレアも父の付き添いで言葉を交わしたことがある。
もっさりとした黒髪の青年は支配人を睨みつける。
「三日で仕上げる。あんたが感動のあまり顔面を涙と鼻水まみれにしてしまうような物語をな!」
返事の代わりは、強く扉を閉める音だった。
突然の出来事にクレアが驚いたまま固まっていると、青年がふと視線を向けてきた。
黒曜石のごとき美しい瞳だ。
「すまない。みっともないものを見せてしまったな」
「い、いえ……」
ぎゅっとクレアは被ったままのストールを握り、俯いた。
青年の革靴はぼろぼろだった。ぐぅ、と青年の腹が鳴る。
クレアは思い切り青年を見上げた。
「お腹が空いていらっしゃるのですか?」
もう一度青年の腹が鳴った。その顔が一気に朱く染まる。
「……この数日、まともに食ってない」
「どうして?」
「今のを見ただろう。仕事がなくて、金がないのさ」
そのときクレアは自分でも分からない大胆な行動に出た。
「もしよろしければ、一緒にお食事でもいかがかしら?」
「おれが、あんたと? おれは構わんが、あんたには何のメリットがあるんだ?」
「わたくし、ひとりで飲食店に入ったことがなくて、作法を知りたいのですわ」
それは、一度死んだからこその度胸かもしれない。
***
ふたりが移動した先は、なんてことのない大衆食堂だ。
混みすぎず、空きすぎず。隅の席に案内されたふたりは、青年のおすすめというメニューを幾つか頼んだ。
「おれの名前はリアムという」
まず運ばれてきたぶどうジュースで乾杯した後、ようやく青年が名を名乗る。
「まぁ! もしかして、リアム・マクラレン様ですか? わたくし、歌劇場で初めて観たのが『勿忘草の初恋』でしたの」
「……それはそれは」
「身分違いの男女が障害を乗り越えて結ばれる物語。とてもすばらしかったですわ」
リアムは嬉しいとも悲しいとも、何ともいえない表情になる。
「あんた、さっきの発言もだけど、いいとこのお嬢さんだろ。こんなところに得体の知れない男と入って、本当によかったのか?」
「ええ。今はお忍びの時間ですから」
ぶっ、とリアムが吹き出した。
(何かおかしなことを言ったのかしら)
クレアは首を傾げた。
どのみち、一度死んだ命だ。どうして生き返ったのかは分からないが、生き返ったからにはやれなかったことをやってみたい。
「じゃあ骨付き肉の喰い方は知らないな?」
「ナイフを入れればすっと身が離れるものではないのですか」
「ばーか。そんなでかくて柔らかいもんじゃない。ほら来たぞ」
運ばれてきたのは甘辛いソースでくたくたに煮込まれた手羽中だった。
「関節のところでぽきって折る。そんで、おっきな方は、ほっそい骨が両脇に一本ずつあるから、一気に口に含んで骨を手掛かりに肉を口の中で抜くんだ」
リアムは説明した後、一気にそれを実行してみせた。
「くぅ~っ! 美味い! やっぱり青空亭の手羽中は最高だ!」
お嬢さんもやってみな、とリアムが促してきた。
クレアは恐る恐る手羽中を指先でつまんだ。
手づかみで食事をしたことはない。べたっとした感触が新鮮だ。
「いただきますわね。……!」
そして、一気に瞳を輝かせた。
「うんうん。初めてとは思えないくらい上手だぜ」
「味付けはかなり濃い目ですのね」
「酒に合うようにできてるからな」
とはいえ、ぐいっとリアムが煽るのはぶどうジュースだ。
「はぁ、生き返った。お嬢さん、恩に着るぜ」
「とんでもないです。わたくしも貴重な体験ができました」
「ははは。いいとこのお嬢さんのささやかな冒険譚か」
(……冒険譚?)
「リアムさん。わたくし、婚約者がおりますの」
「あ? うん、そうだろうな」
突然始まった身の上話に、リアムが姿勢を正した。
「ですが、婚約者が真実の愛を誓う相手はわたくしではありません。そのお相手はとてもお美しい方です」
「……」
「例えばの話。物語のなかでだけ、婚約者とわたくしが結ばれたら、とても幸せだと思うのです」
「……。なるほど!」
ぱんっ、とリアムが両手を叩いた。
クレアの真に言いたいことはきちんと伝わったようだ。
「困難を乗り越えて初恋が成就する物語。飯の礼だ、おれに書かせてくれ」
黒曜石のような瞳が、ぎらりと輝いた。
***
数日後。
クレアとリアムが再会したのは、リアムが調べてくれたという王都で人気のカフェだ。
「まぁ!」
運ばれてきたアフタヌーンティーセットは、小ぶりながらも見栄えがよくてクレアをときめかせた。
ティースタンドには下からキッシュ、スコーン、ケーキ。
キッシュはほうれん草とサーモン。塩気が効いている。
スコーンはほろほろと崩れるのに口の中がぱさぱさしない。クロテッドクリームも上質だ。
ケーキは迷いに迷って、いちごのムースとオペラにした。
紅茶はシンプルながらも香りがよく、どの料理とも相性がいい。
「風の噂で予約は数年待ちと聞いたことがあります。相当苦労したのではないですか?」
「それはこう、つてを使ってなんとか」
にっ、とリアムが歯を見せて笑った。
相変わらずもっさりとしていてどこかだらしないのに、クレアはどきっとした。
「この前は勢いで食堂へ行っちまったが、お嬢さんとしてはこういう洒落た店の方がいいだろ」
「お気遣い、恐れ入ります。ですが前回のようなお店も新鮮な体験で面白かったですわ」
「意外と豪胆だよな。で、例のもんは持ってきてくれたか?」
「はい、どうぞ」
クレアは、オーウェンとの馴れ初めから今に至るまでを手紙に綴ってきていた。
それを受け取ったリアムはぱらぱらとめくり、目を丸くした。
「びっしりと、よくもまぁ。作家でもこれだけの量は書けないぜ」
「すごくがんばりました」
「……それだけ、お嬢さんがこの男のことを想っているってことだよな」
ぽつりとリアムが言葉を落とした。
「頑張らせてもらうとするか。お嬢さんの喜ぶ顔を見るために」
「ありがとうございます」
深々とクレアが頭を下げる。
「やめてくれ。こんな平民に」
「どうしてですか? 感謝の気持ちは、きちんと言葉にしなければいけませんよ」
そのときだった。
「クレア? どうしてこんなところに!」
よく通る声が響き、誰もが声の主を見た。
「……オーウェン様」
「おいおい、待ってくれよお嬢さん。あんたの婚約者ってまさか」
通りを歩いていたのは時の人ことオーウェン。
寄り添うようにしているのはシャルロットだ。
クレアはすっと立ち上がると、ふたりに対して見事なカーテシーを披露した。
「ご無沙汰しております。魔物討伐、お疲れさまでございました」
「体調が悪くて伏せっているんじゃなかったのか……? それにその男は」
「こちらの方は劇作家のリアム・マクラレン様です。わたくしは彼のファンでして、今度の新作にアイディアを提供しているところです」
「言っている意味がよく分からないんだが」
オーウェンは明らかに困惑していた。
クレアはかまわずに、シャルロットへ話しかける。
「お初にお目にかかかります。クロムウェル伯爵令嬢クレアと申します。この度は、オーウェン様をサポートしていただき、ありがとうございます」
「え、えぇ……」
シャルロットもシャルロットで困惑しているようだった。
(本当は会いたくなかったけれど、仕方ありませんわ。それにこの状況ならば周りの注目を集めている。よほどおかしなことにはならないでしょう)
さらにクレアはリアムへも体を向けた。
「リアム様。脚本、楽しみにしていますわね」
得意なはずの笑顔は、上手に作れなかった。
***
「どういうことだ、クレア!」
父親からの叱責にクレアは身を縮こまらせた。
「失礼ですが、仰る意味が分かりません」
「オーウェン殿から聞いたぞ。平民の男と逢瀬を重ねていただと? 勇者を婚約者に持ちながらその不埒な行動、身に余る」
(何もしなければ、一家もろとも廃されてしまうというのに)
クレアは反論しないものの、憤りを感じていた。
一度目の人生でクレアは処刑された。
その直前にオーウェンから告げられていたのは、クロムウェル家の爵位剥奪だったのだ。
「しばらく屋敷から出ることを禁ずる。ほとぼりが冷めた頃、あちらの家へ謝罪に行くぞ。いいな?」
「……かしこまりました」
クレアは大人しく自室へと戻った。
テーブルの上には一冊の本。リアムへ手紙を書くにあたって取り寄せたそれは『勿忘草の初恋』という題名が冠されていた。
「王女様と、パン屋の青年が結ばれる物語でしたわね」
ぱらぱらとめくる。
子どもでも知っているくらい大人気の戯曲だった。数代前の王族で実際にあった話だとまことしやかに囁かれている。
最初に主演を務めた役者たちは結婚して子どもをもうけた。
幾度となく上演されてきたと記憶しているが、いつしか見かけなくなった。
「戯曲くらいは幸せな結末を迎えるべきですわ。現実はそうもいかないのですから」
クレアの瞳から、大粒の涙が零れ落ちた。
***
数日後。
(……リアムさんは無事に戯曲を書き上げたかしら)
自室から出ることのないまま、クレアは窓の外をぼんやりと眺めていた。
(たった二回しかお会いしていないというのに、何故でしょう。彼のことばかり考えてしまうのは)
クレアは繰り返し『勿忘草の初恋』を読み返した。
とても美しい物語だ。
「『会いたいという感情とは、恋しているとことの表れだ』」
その一節を、口ずさむ。
(もっと色んな話をしてみたい。戯曲のことも、美味しいもののことも)
オーウェンへの初恋が終わったとき以上に、心は沈んでいた。
窓の外には青空が広がっているというのに。
鳥は、自由に羽ばたいているというのに。
(せっかく死ぬ前に戻れたというのに、情けないですわね)
こん、こん。扉がノックされる。
「……お嬢さま」
そんなオーウェンから面会の申し出があると聞かされたクレアは、沈んだ気持ちのまま客間へと向かった。
「失礼いたします」
するとそこにいたのはオーウェンだけではなかった。
(シャルロット様まで、どうして……?)
クレアが困惑して立ち尽くしていると、オーウェンが、懐から一枚の羊皮紙を取り出した。
「国王の許可を頂いてきた。クレア、君との婚約は解消する」
「それは、つまり」
「私は正式にシャルロットと婚約を結ぶ。これは王国を守るための婚姻でもあると同時に、我々の真実の愛の証明でもある」
何も言わなかったが、シャルロットはオーウェンの隣で満足げに微笑んでいた。
「……かしこまりました。お受けいたします」
「君には修道院へ行ってもらう。これは不義をはたらいた罰でもある」
「! お待ちください。わたくしは清廉潔白でございます」
「ではこの前のあれは何だったと言うのだ。家を取り潰すまではしないことを感謝するんだ」
(そんな……)
これでリアムと再会する道は断たれてしまった。
目の前が真っ暗になるようだった。
そのとき、廊下から『お待ちください!』という使用人の声が響いた。
ばんっ! 客間の扉が勢いよく開かれる。
「先日は、クレア嬢から話を聞いていたのだ。どれだけ貴殿を大事に想っていたか」
発現したのは闖入者。
仕立てのいい服を身に纏っている。前髪は後ろに撫でつけていて額を露わにしていて、意志の強そうな眉毛がはっきりと見えた。
(まさか、リアムさん!?)
流石のクレアも目を白黒させる。
しかしそれ以上に動揺したのはオーウェンの方だった。すっと立ち上がり最敬礼する。
「ウィリアム殿下!! 何故このようなところに!!」
(殿下ですって?! ウィリアム殿下といえば、第二王子では)
リアムは一切否定しない。
そして涼しい顔でリアムが話しかけたのはシャルロットだった。
「調べさせてもらったよ、シャルロット嬢。君が治癒魔法の使い手だというのは偽りで、正体は高位魔族だ。君の目的は、王国の滅亡」
「えっ……?」
そして突然の展開にクレアは驚きを隠せない。
「手始めに、偽の魔物討伐。次に、彼の婚約者を断罪。少しずつ王国の内部まで深く入り込もうとした。あぁ、下手な抵抗はよした方がいい。伯爵家には強力な結界を張らせてもらった。君はこのまま幽閉させてもらう」
ぱちん、とリアムが指を鳴らした。
続々と現れたのは王国魔法軍。シャルロットを取り囲むと、あっという間に水晶玉に閉じ込めてしまった。
状況についていけいないのは、クレアとオーウェンだ。
「オーウェン。君には浄化の塔に入ってもらう。そこで心身を浄めて、再び王国に貢献してほしい」
「……承知しました」
「それから、クレア」
「は、はい!」
クレアは背筋を正した。
するとリアムは片目を瞑ってみせる。
「リアムというのは私のペンネームなんだ」
***
結論からいうと、クレアが死に戻ったのは、リアムの魔法のおかげだった。
人払いをした客間で、リアムがそう説明する。
「君が投獄された辺りから違和感を覚えて色々と調べていたんだ。そしてシャルロットが魔族だと判明したのが君の処刑の日だった。ここをやり直さなければ王国は滅びの一途を辿ると感じて、巻き戻しの魔法を使った」
「では、全部、ご存じだったのですか」
「騙してすまなかった」
「殿下は、作家よりも俳優の才能がおありになりそうですわね」
「残念だが、よく言われる」
不服そうな表情に、クレアはぷっと吹き出した。
因みに最初の出会いで腹を空かせていたのは事実のようだった。
シャルロットについて調べていたら食事を忘れていて、さらに、オーウェンの凱旋の日になってしまったのでクレアと偶然を装って会おうとしていたらしい。
「君は平民とも分け隔てなく接する心の優しい女性だ。助けられてよかった」
「当然のことですわ」
クレアはそこで言葉を区切って、深く頭を下げる。
「わたくしこそ二度も助けていただき、ありがとうございました」
「ところで」
こほん、とリアムが咳払いをする。
「売れない戯曲家というのも本当のことなんだ。勇者と幼なじみが結ばれる戯曲を書いてもいいだろうか」
「それは」
クレアはまばたきを繰り返した。
「それより、王国を密かに守った王子さまと、死に戻った令嬢の恋物語なんていかがでしょうか」
「……いいのか?」
クレアが頷くと、リアムは満面の笑みで彼女を高く抱き上げた。
驚いたクレアがきゃっと小さな悲鳴を漏らす。
「とびきりのハッピーエンドに書き上げよう。物語も、現実も!」
最後まで読んでくださってありがとうございました。
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